【メタエンジニアの戯言】「論理的思考力を育てる」方法はあるのか?
2023.10.20松林弘治の連載コラム先日、いつもの定例オンラインミーティング終了後、子どもの頃の思い出についてちょっとした雑談になりました。
私はよく、小学校の帰り道に横断歩道を渡る際、歩行者用信号と車両用信号を眺めていました。一連の車両用信号が、どのような規則で同期しながら動いているのか、押しボタンを押してから歩行者用信号が青になるまでのタイミングはどうなっているのか、分からないなりに観察して、なにがしかのルールがあるのではないか?とない知恵をしぼって考えるのが楽しみのひとつでした。その頃の思い出を話したのです。
上記あれこれ語ったあと、ミーティングの相手の方がひとこと、「そのようにロジカルかつ簡潔に説明できるのって、すごいと思います」と仰いました。
いや、別に凄いことでもなんでもないんですけど。。。皆さんフツーに話されますよね?と真顔で返答したところ、そんなことはない、ある事象に対してきちんと抽象化し順序立てて論理的に説明した上で、当時はどう考えていたか、それを振り返って今はどのように捉えているか、を相手に俯瞰しつつ体系的に説明するのは誰にでもできることではない、と。
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私自身が論理的思考や言語化が得意なのかどうかはさておき(笑)、この会話で改めて思ったことがあります。
論理的思考や言語化が得意と言われる人の多くは、特にそのような思考法を鍛えようとなにか特別な訓練をしてきたわけでもなく、無意識にそして当たり前に思考や発言をしてきたのではないかなぁ、と。
そういえば、「論理的思考」や「抽象化思考」と呼ばれる思考法であったり、言語化スキルであったり、巷ではいろいろ重要性が説かれているけれども、それらを有意に向上させる方法論って、そもそも確立された知見があるんだろうか?と。
もしかしたら、そんなものがないから、世に幾多の思考力の重要性を説く(思考力を向上させる方法や方法論は説いていない)ビジネス本が流通しているのではないか、というのが私の予想なのですが。
実際、ロジカルシンキングを鍛えるトレーニング方法を説いた本や論理的思考力向上のためのドリル集、その他にもロジカルシンキングのためのフレームワークなど、多く流通していますよね。
わたし自身はその筋の専門家ではありませんが、いろいろ調べてみると、認知科学や教育学など様々な研究分野において、過去から多くの研究や実証実験が行われてきたことは確認できました。
例えば、論理的思考力育成を狙ったシステム開発、という切り口での研究発表が見つかり、その上で、システム利用前後における論理的思考力の変化の自己評価による分析であったり、ある程度客観的な評価方法を用いて論理的説明能力を測定したりするものがありました。しかし、これらは「ある時点における論理的思考力の定量的測定(の一方法)」であり、「論理的思考力を育む方法論」ではありません。
「そもそも『論理的思考力』とは何か」という問い自体が深遠な問いではありますが、ともあれ、現状の私の理解では、「論理的思考力と呼ばれるものをなんらかのかたちで測ること自体はできそうだ」、しかし「論理的思考力を有意に高める確立された方法論があるわけではなさそうだ」、という感想を持ちました。
以上、もし私の理解に間違いがあれば、ご教授ください(笑)
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「〇〇を学ぶことで、論理的思考力が鍛えられます」という言説をよく目にします。例えば〇〇には「プログラミング」が入ったりしますね。
上でいろいろ思考を巡らせたことをふまえ、「論理的思考力が鍛えられる」なんて軽々しく言うものではないな、と改めて強く思っています。いや、以前からずっとそう思い続けてきたのですが(笑)
そう思いながらも、どうやったら論理的な思考方法、そして「論理そのもの」を、より多くの児童生徒に伝え、会得してもらうことができるだろうか、と日々悩み、実践し続けています。
ともあれ、まだまだ学ばなければいけないこと、学びたいこと、がたくさんあって、毎日が楽しいです。
松林 弘治 / リズマニング代表
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。