【メタエンジニアの戯言】「ググり力」は古来からの必須スキル?
2023.09.08松林弘治の連載コラム
前回コラム冒頭で、さまざまなAIエンジンの応用例について触れましたが、つい先日もChatGPTが登場、インターネット上ではこれを遊び倒す人が大量発生しブームとなっています。
質問に答えてくれる言語モデル「ChatGPT」–プレビューは無料公開 (ZDNet Japan)
どんな質問に対しても迅速に回答してくれることに驚かされ、いわゆる「チューリングテスト」は余裕で突破してしまうのではないか、と思わされます。一方で、極度に専門的な質問、不確かな質問、意地悪な質問などに対しては「間違っているがいかにもそれっぽく見えるような」回答をしれっとするところなど、理解はしていないのに口先だけは達者な人(笑)のカリカチュアのようにも感じたりします。
どんな会話のやりとりが行われるか、は、結城浩さんがChatGPTと対話をした例が GitHubGist上に公開されているので、これをご覧になるとイメージがつかみやすいでしょう。
近未来がヒタヒタと近づいている感のあるこんにちですが、我々がいま確実に必要とし、また習得している人が意外と少ない恐れのある必須スキルのひとつに、インターネット上での「情報検索能力」があげられるでしょう。日本語では「ググり力」という砕けた表現で呼ばれることもあります。
本題に入る前に余談ですが、「ググリ力」にピッタリ相当する英単語はどうやらなさそうで、せいぜい「Internet search skills」(インターネット検索能力)、または「ability to effectively search and locate information on the internet」(インターネット上で効率的に情報検索し特定する能力)あたりになりそうです。
更に余談ですが、似たジャーゴン(業界用語)に「ググラビリティ」があります。こちらは「検索能力」ではなく、「検索されやすさ(ググられやすさ)」「検索サイトでより上位に出てきやすさ」を意味します。英語でもそのまま「googleability」で、「ググり力」とは異なり、英語圏由来のジャーゴンなのだろうと推測されます。
さて「ググり力」すなわち「情報検索能力」の話に戻ります。先日たまたま、大学生(や社会人)の検索能力低下に関して論ずる Tweetと一連のやりとりを目にしました。「調べたけど分かりませんでした」とすぐに言ってしまう学生や若手社員がいる、という、アレです。
やりとりの中で、考えうる要因として元Tweetを書かれた奥村さんが まとめられていましたが、そこでは「日本語で数個のキーワードのみ検索」「上位数件に有用な情報がない時点で諦める」「根気と知識に乏しく試行錯誤して正しいキーワードに辿り着けない」「テキトーな報告が習慣化」「そもそも正解を判断できない」などが挙げられていました。
その他、「すぐに『正解』『答え』だけを求めたがる傾向」「現時点で自分が理解・把握している範囲でのみ考えてしまう傾向」など、いろんな意見が飛び交っていました。みなさんはどのように思われるでしょうか。
インターネット検索サイトにおける検索スキルの場合、検索エンジンの仕組みやロジック、検索結果の傾向、など、インターネットならではの事情を知っていれば、確かにより自分が求める正確な情報に辿り着きやすくなります。一方で、情報検索能力は「検索したい対象分野に対する知識と理解」であったり、「不案内な未知の分野に対し全体の見取り図を獲得し勘所を習得する方法論」であったり、「根気強く調べ続ける姿勢」であったり、検索ツールそのものの使いこなしではない多くの要素も関連しています。
よく考えると、インターネットがここまで普及し情報インフラと化すはるか前から、類似の話題があったように思います。調べたいことについて書かれた書籍を図書館の大量の書籍群から探しあてるスキル、その分野について詳しい人を探し出すスキル、見つけられた複数の情報の中からもっとも正しいと思われるものを選定するスキル、などです。
一見分かりやすく簡潔にまとめられた「まとめ動画」「まとめサイト」「入門書」だけで過ごしていると、自ら知識を構築し、理解の深みを増す作業なしに「分かった気にさせられる」、ということもあるでしょう。例え話ですが、300ページの小説を読む代わりに「5分であらすじ」の動画を見て小説の概要をつかんだとします。でもこれは、300ページじっくり読んだ結果と同じではありませんよね。「あらすじ」から抜け落ちている情報が大量にあり、それなしでは元小説が持つ深い世界に近づくことができないからです。
さらに、冒頭の結城さんのChatGPTの話に戻ると、「いかにChatGPTとの対話でより正確な情報を引き出すような質問文を作るか」というスキルも将来必要になってくる可能性があります。そして、これも本質的には「他人と会話や対話、議論を行う際に、自分の立ち位置や前提条件、文脈を明確に示して、コミュニケーションの精度を上げるスキル」と同じと言える気がします。相手が人間であってもコンピュータであっても、最後は「情報コミュニケーションスキル」という、「情報検索能力」に近い範疇に収斂する、と言えそうです。
さまざまな便利ツールが生まれ、あふれる現代だからこそ、自らのスキルを磨き、より深い理解を求めようとする姿勢がなければ、われわれ人類の将来は過去数千年の進化と逆行してしまうことになりかねない、そんな危惧さえ覚えてしまいます。
以上、ChatGPTの回答を元に加工した似非コラムでした。。。というのはもちろん嘘ですが(笑)、私もChatGPTに負けない文章を紡ぎ続けられるよう、精進していく次第です。

松林 弘治 / リズマニング代表
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。