【メタエンジニアの戯言】コスパとタイパは今のためならず

2023.09.08松林弘治の連載コラム
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わたしのような昭和生まれの人間にとってはあまり耳馴染みがないのですが、平成生まれの娘や同級生の世代では確かに「タイパ」というコトバが頻繁に使われているようです。テレビ番組やネット動画等でも「タイパ」と耳にしたり目にすることがあります。

「コスパ」はさすがに使った記憶がありますが、「タイパ」というコトバは自分で使ったことはありません。それどころか、今では「スペパ」「マネパ」なるコトバまであるとかないとか。

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本当にそんなコトバが広く流通しているのかなぁ、と思い、Google Trends で調べてみることにしました。「コスパ」「タイパ」「スペパ」「マネパ」の被検索頻度をプロットしてみた結果です(グラフ縦軸の0~100は、もちろん、検索された回数ではなく、Google検索上でどのくらい頻繁に検索されているか、検索キーワードとしての人気度を相対的に数値化したものです)。

予想通り「コスパ」が圧倒的にポピュラーで、2004年~2023年にかけて、人気度が右肩上がりであることがみてとれます。一方「タイパ」は、2022年頃から徐々に増え出していることがわかります。

「スペパ」はほぼ検索されていないので、最近仕掛けられたキーワードっぽい気がします(笑)。一方「マネパ」は、少ないながらも意外と前から検索キーワードであったことが分かりました。一部の業界では普通に使われているコトバなんでしょうかね。

また、Google検索上での人気度ではなく、 YouTube上での検索キーワードの人気度をみてみると、「コスパ」の検索頻度が2018年頃を境にぐんぐんと上がっているのが非常に興味深いところです。ますます「コスパ」「タイパ」が必要とされている時代、ということなのでしょうか(笑)

そもそも、「費用対効果」(Cost performance) や「費用便益比」(Benefit-cost ratio)と日本語訳される、ビジネス的用語「コストパフォーマンス」が「コスパ」と短縮されて、「値段の割に品質・効果が高い」「お得感がある」という意味で一般に広く使われていること自体が興味深いですね。日本語でいう「コスパ」に相当する英語は「good value for the money」あたりでしょうか。

それはさておき、「コスパ」「タイパ」は「Z世代」なる若者の間で流行っている、という言説をやたらと目にしますが、そもそも「Z世代」という用語を流行らせたのだって若い人たちではないはずですよね。ですから、「コスパ」「タイパ」を強く意識しているのは、意外と昭和生まれの人々に多いのかもしれませんね。

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余談が過ぎました。

そんな「コスパ」「タイパ」ですが、「最小の労力や所要時間で、最大の効果を」といったニュアンスで使われることが多いように思います。仕事にせよ日常生活にせよ、効率を求めること自体は、なんら悪いことではありませんよね。むしろ、「コスパ」「タイパ」の後半である「パフォーマンス」の解釈が「楽してその場しのぎをする」「楽して分かった気になる」である場合が、ネガティブなニュアンスを含むんだと思います。

それを改めて考えさせられたのは、先日終わったばかりの地元小学校でのプログラミング授業(という名の、コンピュータサイエンス入門のニュアンスを盛り込んだ全教科横断的な総合学習授業)での、ある児童の言動からでした。

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その児童は、半年前の5年生の時には、Scratchプログラムが得意な同級生が作ったゲームで休み時間に遊んでいましたが、自分で作ったりするのは「なんかむずかしそうだから」と遠慮しているようでした。

それが、ついこの前の6年生の授業では、授業が終わるたびに毎回私のところにタブレットを持ってやってきて「こんなの作ったんですよ、みてください!」「こんど、たてわり班活動(異学年交流活動)のときに、このプログラムを1年生のみんなにみせて、いろいろ教えてあげようと思ってるんです!」と、それはそれは嬉しそうに話してくれるようになっていたのです。学校の中のいろんなことを教えてくれる、デジタル絵本のような作品でした。

クラスでゲーム以外のプログラム作りがはやっていたのか、はたまた、私の2年間の授業からなにがしかインスピレーションを得てくれたのか(笑)、実際のところは確認せず仕舞いです。なにがきっかけになったのか分かりませんが、好きなことをやりとげた、これからもずっとやっていきたい、眩しいばかりの目つきからは、そんな彼女の楽しそうな気持ちが溢れているようでした。

実際のところ、彼女がこの2年間の授業で、コンピュータやIT技術、情報処理などについて、具体的にどれだけ理解を深めてくれたのかは分かりません。それでも、今年の授業では彼女を含め多くの児童が食い入るように話を聞いてくれていましたし、彼女は授業中のアクティビティでも率先して動き、周りのお友達を巻き込みながら楽しく実践してくれていました。

彼女にとっての「コスパ」「タイパ」における「パフォーマンス」は、「よい点数を取る」ことでも、「難しいプログラムをスラスラ書けるようになる」ことでもなかったはずです。ただただ楽しいから、スキマ時間にコツコツと夢中になって、わからないなりに自分で調べながら毎日GIGA端末に向かって取り組んでいたのでしょう。

その過程では遠回りや失敗もあったでしょう。しかし、コスパやタイパを意識していなかったからこそ、たった半年の間に「まだ知らない、新しいことへの取り組み」という、彼女にとっての大事な宝物のひとつとなる「パフォーマンス」を実践できるようになったんだろう、と感じ、嬉しくなりました。

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話がどんどん拡散してきましたので(笑)まとめます。

仕事であれ勉学であれ、「学び」における「コスパ」「タイパ」は、それ自体を追い求めるものではなく、愚直にコツコツやってきた結果として「コスパ」「タイパ」が向上する、そしてその段階に至れば、学習曲線をますます上昇させるために「コスパ」や「タイパ」を意識し始める、ということなのかも知れないなぁ、と改めて気付かされた一件でした。言い換えると、学習の「コスパ」や「タイパ」を最大化するためには、やはり学習が必要、ということなのかもしれませんね。

○○小学校6年の◻︎◻︎さん、気付かせてくれてありがとうございます。

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