【メタエンジニアの戯言】情報技術による「記憶の外部化」
2024.02.07松林弘治の連載コラムお恥ずかしい話ですが、私は物忘れが多い方です。特に、アイデアを思いついた時、その直後によく忘れてしまいます。
日々あれこれ考えをめぐらせているうちに、自分としてはとても良いんじゃない?と思えるアイデアが浮かぶ瞬間が少なからず訪れます。ところが、数分も経たないうちに「あれ、さっき何を思いついたんだっけ…」というのが結構な確率で発生してしまうのです。
当該コラムのネタもそうでして、仕事をしている時、コードを書いている時、テニスをしている時、音楽を聴いている時、娘に勉強を教えている時、夕食調理をしている時、などなど、いろんな時に「お、これは次回のコラムの題材として悪くないぞ」と思いつくのですが、その時にやっていることを中断するわけにもいかないので「あとでメモしておこうっと」と後回しにし、そして気がついたら何を思いついたのかを忘れてしまう、なんてことが度々あります。別に浮かんできたアイデアで記憶が上書きされてしまうこともあります。もしかしたら、あまりに多くのことを同時に考えすぎているのかもしれません(笑)
失敗を繰り返すまじ、そう心に誓い、「思いついた瞬間にその場でスマホのメモアプリに書き込む」「自分宛にメールを送る」「SlackやMessengerで自分宛にメッセージを送る」「ボイスメモに記録する」など、過去に何度も試みてきました。確かに、なんでもいいからメモさえしておけば、あとで思い出すヒントにできます。
しかし、そういう時に限って「よーし、忘れないようにあとでメモしよう」と思ってしまいがちです。案の定、1分もすると肝心の思いついた内容をやっぱり忘れてしまっていることに気づき、どんなに思考をめぐらせ思い出してみようとしたところで後の祭り、「あー、またやってしまった…」とショックを受け、「思いついた瞬間にメモしておけば…」と後悔したり。実は、今回のコラムに関しても、この1ヶ月間で3つのネタが消えていきました…
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このように、自分起点のアイデアの記録と整理に難儀している一方、外部情報、つまりweb記事や文献などで見つけた「これは」と思った情報をあとで参考にするためにメモすることは、比較的うまくいっているように思います。こちらは「ブックマークしておく」「Slackの自分宛DMに送っておく」「Notionのメモに書き留めておく」などを逐一行っているほか、内容やカテゴリごとに日々整理したり、その情報について自分なりの考えをコメントとして追記したり、ハッシュタグを付加して検索性を高めたりしています。
余談ですが、備忘録として「ブラウザでタブを開きっぱなしにしておく」は、ついついやってしまいがちですが、極力行わないように努めています。「タブのグループ化」を活用する方法などもありますが、それでもあっという間にタブ数が増殖してしまい、探すことも整理も難しくなってしまうからです。
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それにしても、加速度的に溢れかえる情報の洪水が押し寄せる現代、「記憶の外部化」または「情報の外部記憶化」の活用は、重要なスキルとしてことあるごとに話題にのぼります。同時に、単に「記憶・記録」しておくだけではなく、思い出しやすく、取り出しやすくする工夫が非常に重要です。
仕事でも、例えば仕様書や運用手順書、議事録などが共有ドライブに置かれていて、いざ目的のドキュメントを探そうとすると「どれが最新のものだっけ?」と迷子になる現場をみかけたことがあります。各種情報の構造や関係が把握しやすくなるよう、全情報に効率的に到達できるように社内Wikiなどをスターティングポイントとして整備しておくこと、変更履歴をきちんと残しておくことなどで、これらの迷子を最小限に抑えることができます。
プログラム開発・保守においても同様で、他人が書いたり修正したコードはおろか、自分自身が1週間前に書いたコードですら「どうしてこう書いたんだっけ?」と思い出すのに苦労することがよくあります。コード中の「コメント」や「コミットログ」などにしっかり「記憶の引き出し方」のヒントを残しておくことが有用です。もちろん、命名規則などコーディング規約を整備し共有しておくことも大事です。
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冒頭のエピソードに戻りますが、それにしてもせっかく思いついたアイデアを忘れてしまう、私の良くない癖。「なにがなんでも『思いついたらすぐ、忘れないうちにメモする』を習慣化する」に越したものはないのでしょうが、もしなにかより良い方法があれば、ぜひご教授ください(笑)
松林 弘治 / リズマニング代表
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。