マネジメントの聴く力・伝える力を変えるフィードバックとは

2024.05.15お役立ち情報
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 人事・人材育成課題解決シリーズ(1)
マネジメントの聴く力・伝える力を変えるフィードバックとは
齋藤 浩史 氏 (Hiroshi JB SAITO)
(J-Biz エデュケーション株式会社 代表取締役社長 マサチューセッツ州立大学MBA 講師)
20 代前半で俳優を目指したが断念、その後ゴールドマンサックスや外資系金融で経験を積み、2011 年より大学講師、2014 年に 会社を設立して研修事業に取り組んでいます。また、現在マサチューセッツ州立大学MBA にて教壇にも立ち、次世代のマネジメ ントを育成しています。 生島ヒロシ氏が立ち上げた「生島企画室」と業務提携しており、書籍を多数執筆のほか、ダイヤモンドやプレジデントなどの雑誌 記事執筆、TBS 系ニュース番組のコメンテーター、YouTube チャンネルなど幅広く活躍している。不確実性に満ちた時代、マネジメントがどのように適応し、成長していくのがよいかを模索していると思います。マネジメント/マネージャーが直面する困難とその背景について解説し、マネジメントスキルの必要性についてマクロとミクロの視点から考察していきます。


マネジメントの仕事を変えた4つのマクロ要因

 2021年、調査会社のガートナーが世界の75社の幹部に対し、マネージャーの状況について尋ねた結果、68%がマネージャーの不満と疲弊を訴えたと回答しました。これは、3人に2人が不満と疲れを感じているということを表しています。 社会的背景として、近代社会におけるマネジメントの疲弊の理由を4つの大きな流れから説明します。

  1. 1990年代から2000年代にかけて、オペレーションの効率化や海外移転、組織のスリム化などにより、マネージャーは自身のプレイングを強いられ、仕事量が増加しました。
  2. 2010年のデジタル化により、従来のレポートラインが変化し、マネージャーの権威と権限が薄れてきました。
  3. 2010年半ばにはアジャイル化が進み、内部労働市場の活性化やプロジェクトベースの仕事が増え、マネージャーの影響力が低下しました。
  4. コロナウイルスによる2020年からのフレキシブルワークは、コミュニケーションの分断を招き、部下の評価や行動のコントロールが困難になりました。

これらの変化はマネージャーにとって大きな負担となり、部下の育成やエンゲージメントの維持がより一層難しくなりました。

マネジメントの仕事を変えた4つのミクロ要因

 マネジメントの本質は、人をうまく使って経営からの目標を達成させることにありますが、現代の変化に伴い、従来のスタイルでは機能しない局面に直面しています。なぜ機能しないのかという問いに対し、以下の四つの要因を挙げることができます。


まず第一に、「ダイバーシティ」の増大が挙げられます。部下がかつての上司になることや、国際的な雇用、様々な働き方が広がっている今日、従来のマネジメント手法では対応しきれません。 第二に、「過剰なハラスメント意識」が問題です。今の風潮では、どんな発言も慎重にならざるを得ず、マネージャーとしての発言が難しくなっています。第三の要因は、「コーチングの台頭とティーチングの衰退」です。確かにコーチングは重要ですが、ティーチングをせずに気付きだけを促す傾向が見られます。これではアウトプットが不完全になる恐れがあります。私はフィードバックを考える上で、ティーチングとコーチングはセットであるべきだと考えます。 最後に、評価制度が「リアルタイムでのアップデート」へと変化しています。これは目標が間違っていた場合に、その都度修正を行うことが求められる社会の流れを反映しています。
これら四つの要因を総合すると、マネジメントには、聴く力と伝える力が不可欠であると言えます。これが現代のフィードバックの本質だと私は考えます。

フィードバックの本質とは

 フィードバックは、情報伝達とティーチングの核心です。気づきを与え、行動修正を促すことが、その本質にあると考えられます。評価面談だけでなく、逐次的な評価を通し、コミュニケーションを活性化させることで、組織も同様に活性化します。OCターナーの調査や、ハーバードビジネスレビューによると、週に一度のマネージャーとのミーティングは、社員のエンゲージメントを54%向上させ、生産性を31%上げ、バーンアウトと抑鬱をそれぞれ15%、16%低下させる結果が出ています。

マネージャーからピープルリーダーへ

 今日の文化の時代において、求められるマネージャー像は、フィードバックを効果的に伝える能力を持つピープルリーダーへの進化です。GEやマッキンゼーのような組織では、チームをリードするピープルリーダーが重視されており、フィードバックを通じたピープルファーストが目指されています。我々は、フィードバックの技術を身につけることの重要性を認識し、その向上を図るべきです。
マネージャーからピープルリーダーへの変化には、ハーバードビジネスレビューが指摘する3つのシフトが必要です。 権力のシフト、スキルのシフト、そして組織構造のシフトです。これらは、ピープルリーダーとして必要な変化であると考えられます。

コーチングは、ティーチングの基盤の上で

 私たちの成長過程での気づきやステップについて、特に若手や経験の浅い方、新たに配属されたり、異動してきたばかりの方々が直面する課題を考えます。初めはティーチングによるサポートを行い、自立してきたらコーチングへと移行することが大切です。
また、フィードバックを受けた際に、その意味を深く理解し、行動に移せるかが鍵となります。コーチングは、ティーチングの基盤の上で行われるべきだということが重要です。また、部下が上司の顔色をうかがわず、自分の意見を言える環境も必要性です。
マネジメントに対する不安を取り除き、適切な教育環境を整えることが重要で、適切なフィードバックの仕組みが、私たちの成長にとって非常に重要です。

フィードバックのタイミングとツールについて

 フィードバックのタイミングについて、即座に伝えるべきか、あるいは溜めて整理してから伝えるべきか、私自身も悩む点です。
下記は、4つのフィードバックシチュエーションでのアンケート結果です。1位は、改善が必要と感じた点を直ちに口頭で伝える方法で60%でした。2位は即時ではなく、1on1ミーティングなどで消化してから伝える方法で27%、3位はメールで伝えるケースで8%、最後は、プロジェクトミーティングや部内会議で周囲と共有するというもので5%でした。

フィードバックシチュエーションのアンケート結果
即座に伝える方法と1on1で伝える方法が多いようです。4つのパターンすべてに一定の有効性があると感じますが、皆さんはどのように使い分けていますか?
フィードバックは非常に重要であり、何となくではなく、適切なルールを設けて行うべきです。


タイミングは、大まかに「早め」と「時期をずらす」の2つに分けられます。基本的なルールがあれば、適切なアクションを取りやすくなります。何かをためらう時、自分のルールを持ってすぐに動けることが重要です。「即時」の枠組みは、緊急度が高く、再現性が低いものです。時間が経つと忘れがちなので、すぐに対応する必要があります。

新人や新しい部署の人は、新しいプロセスを学び、定期的なフィードバックが必要です。プロジェクト環境によっては不定期でも構いません。そして、ある程度自分のプロセスが分かるようになってきたら、質の問題になってくるので、緊急度が低くなります。次に、企業の文化とかマインドセットを合わせていくかなど、適正とかキャリアみたいなロングスパンで考えるものは不定期でよいかと考えています。
フィードバックを受ける側ですが、キャリア積んできている方は慣れてフィードバックを聞かなくなります。対して新しい環境では意見を聞く意欲が高く、変化への受容性が高いため、そのタイミングを見誤らないことが大切です。 新しい部署の立ち上げや組織変革の時期には、アウティングのような非日常的な環境で集まり、企業文化を高める試みが効果的です。外資系企業でよく見られるこの手法は、新たな環境でフィードバックを交換しやすくするために重宝されています。組織の強みや改善点を率直に話し合うことで、相互理解と進歩を促進します。

正しくフィードバックするために

 フィードバックを提供する際には、理論的な枠組みにとらわれず、その場の状況に応じた柔軟な対応が求められることを念頭に置くことが大切です。新しい風を取り入れつつ、組織の成長を目指すことが大事です。 マネージャーは客観的に部下の行動をよく観察し、その重要性を理解する必要があります。観察の方法としては、5W1Hを用いて彼らの行動を分析し、どのように改善すべきかを考えます。


また、準備は非常に重要です。マネージャーとしては、感情に流されず、客観性を保つことが求められます。主観的なものは一切排除しなくてはなりません。また、部下の成長のために努力する姿勢も大切です。これは親のような気持ちとも言えます。

次のステップとして、部下とはコミュニケーションすることが特に重要です。心理的安全性の確保が注目されている現在、マネージャーはこれを担保し、加えて、尊敬される存在として仕事をしなければなりません。尊敬されないと、何を言われても受け入れてもらえません。

多くのマネージャーが否定的な行動に陥りがちですが、それは彼らの成長の機会を見逃すことになります。心理的安全性を基盤として、客観的な事実をファクトとして提示することが重要です。反対意見を言ってくる人も多いので、事前に想定をしておき、直面したときに冷静に行動することが重要です。

ジョハリの窓と成長

 フィードバックの重要性を考える際、「ジョハリの窓」というモデルが浮かびます。これは、コミュニケーションを向上させる手段として用いられるものです。自己理解と他者の理解のギャップを埋める「解放の窓」を拡げることで、コミュニケーションの質は向上します。見えているものを共有し、互いの認識を広げていくことが大切です。
また、「心理的安全性」は、自身が理解しているが相手に知らせていないという「秘密の窓」になり、信頼関係が築かれると、この窓も開かれやすくなります。



ジョハリの窓はセンシティブなエクササイズであり、人事を担当する方々にも利用されています。しかし心理的安全性がなければ、秘密の窓は開かれません。開けようとしても、嫌だと拒否する人もでてきます。この部分は、心理的安全性を担保がすごく大事で、自分から窓を開けてみようという成長意欲と、それを可能にする自己の力によって開くか開かないかが変わると思います。

パンドラの箱が開く際、忌避感は強い感情です。秘密の窓は基本的に忌み嫌われるものですが、それは人それぞれで異なります。しかし、成長への意欲を持ってチャレンジすることで、その感情は変わり得ます。ゆえに、成長意欲を高めることが、コミュニケーション能力の向上につながります。リーダーシップを発揮し、成長意欲を刺激することが重要となるのです。

フィードバックの注意点

 下記は、フィードバックが上手くいかなかったと感じたもののアンケート結果ですが、皆さんはどのようなところに意識がありますでしょうか。

フィードバックがうまくいかなかったと感じた際のアンケート結果
ファクトフルネスを意識して対応すれば、良い結果が期待できます。これは先ほどの議論にも通じるところがあります。伝えること自体が、自分と相手の成長に繋がります。それは、自らの願いが相手の成長に影響を与えることを示します。 しかし、言葉には必ずノイズが混じりがちです。それを理解した上で、振り返りの大切さを再認識する必要があります。伝えたいことが相手によって都合の良いように解釈されることもあります。この歪みを修正するためには、継続的なコミュニケーションが必要です。
マネージャーとしては、我慢するのではなく、間違いを正して教えることが大事です。なぜなら、歪みは必ず起こるということを教え、そこからなぜ歪みが起きるのかを考え、その修正をしていくことで、徐々に自分の言っていることが相手に伝わるようになります。
フィードバックをする際には、いくつか注意すべき点があります。気持ちの準備や心構えもその一つです。常に相手の立場を考え、建設的なフィードバックを心がけることが、マネージャーとしての責任です。

フィードバックに対する準備

 下記の図は、フィードバックに対する意識や準備について整理したものですが、明確に伝えることの重要性について、多くの方が悩まれているかと思います。


まず、嫌われる覚悟を持つことは、マネージャーにとって必須です。MBAの学びや仕事では、フレンドリーなリーダーシップと業務中心のアプローチのどちらが有効かが議論されますが、実際には業務を中心に据える必要があります。フレンドリーに偏ると、統計によれば効率が落ちることが示されています。

嫌われる覚悟は、結局のところ、後悔しないためにも重要です。「あのときちゃんと言ってくれたから良かった」と感謝されることが、最終的には嫌われずに済む秘訣です。新庄監督も初めは嫌われるそうですが、改善を続け、成功体験をさせてあげると変わるそうです。

フィードバックをしない状況がもたらす問題についても、自己の感情を一時置いて対応する姿勢が求められます。ただし、何でもかんでも最初に対応するのは禁物です。上司としての萎えや、気持ちが鈍ることは人間ならではの反応です。だからこそ、上長同士でしっかりとコミュニケーションを取ることも極めて大切です。

組織体には様々な形態があり、ヒエラルキー型もあれば、最近はマトリックス構造が増えてきています。プロジェクト型の組織では、本来の上司とプロジェクト上司が複数存在することもあるため、上司としての権限が変動することもありえます。長時間、部下との関係を築いていたのに他の場所に移ることになり、その対応に頭を悩ませることもあるでしょう。

成功したケースを見ると、上司間の連携が上手くいっていることが多いです。マトリックス組織のマイナス面も、上司同士が良好な関係を築き、優先度をバランス良く管理することで解消できます。ただ、上司同士が常に仲良くしているわけではなく、利害が一致しないこともあります。そのため、トップダウンのアプローチが重要で、組織全体の構造に組み込むことが求められます。

最後に

 フィードバックの必要性は誰もが認めるところです。なぜなら、私たちの認知の歪みだけでなく、自分の背景、生活の背景も異なるからです。相手が自分で成長したいと考えていると想像していても、実際は違う考えの人たちもいます。だからこそ、相手の話を聴き、理解を深めることが大切です。これには聴いて上げる力も我慢する力も必要です。私自身も、話を先に進めたいと感じることがありますが、せっかく言おうとしていることを聴かないといけないと自分に言い聞かせています。

多くの人が悩んでいると思いますが、自分流に固執するのではなく、適切な方法を知ることは非常に重要です。これはまるでお守りのようなものです。何も頼るものが無い中での行動は大変ですが、フレームワークのような指針があれば、どのように考え、気をつけるべきかが明確になります。勉強することで、因果関係が理解でき、立ち振舞いや行動に余裕が生まれると思います。


※本資料は、2024年2月に開催された、人材育成課題解決セミナー「聴く力・伝える力の磨き方 ― マネジメントのための処方箋」のセミナーを元に再編集したものです。

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