自社のITリテラシーに不安を持つDX人材育成担当者に捧げる~失敗しないDX人材育成 虎の巻~
2024.10.02お役立ち情報
われわれを取り巻く事業環境がVUCAと呼ばれるようになってから久しく経ちますが、昨今においては、世の中の変化のスピードや世界情勢の不確実性は、さらに勢いを増しているとすら感じます。毎日配信されるニュースの記事には“生成AI”という言葉がない日を見つけることが難しいくらいですし、NVIDIAやTSMCといった半導体関連銘柄は成長が止まりません。このような環境下においては、自社がデジタル化に取組まない理由を探す方が難しいくらいです。
さて、今このコラムをご覧になっている皆さんのなかには、このような激動の最中、DX人材の育成を託された方が少なくないのではないかと思います。そのような読者の方々は今どのような状況にあるのでしょうか?
・会社のDX戦略/施策は定義されていて、必要な人材像の定義もできている・・・?
・会社のDX戦略/施策は定義されているが、必要な人材の定義はされていない・・・?
・会社はDXへの投資をコミットはしているが、それ以外は何も決まってない・・・?
・具体的なことは何も決まっていないが、DX人材育成担当を任命された・・・?
今回のコラムでは、自社のDX人材育成の推進に向けて何をすべきか、についてご紹介していきます。
DXが注目される背景にあるものとは
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタイゼーションおよびデジタライゼーションとは異なり、
“デジタルを使ってやること自体を変えてしまいましょう”
という大胆な変化を追求するものです。何のために?その答えは、各企業の文化や理念によって異なる部分はあるかと思いますが、それらの最大公約数をとれば、それは “利益の最大化” にほかなりません。そして、利益の最大化への近道は、需要がどこにあるかを察知して、そこに誰よりも先にリーチすることです。これの実現にAIは多大な貢献をしてくれます。
“AI”という言葉が日々紙面をにぎわせていますが、実はAIの概念はコンピュータの黎明期から存在し、それほど新しいものではありません。しかし当時は、複雑な処理をさせようとすると多大な時間と開発費がかかり、そのようにして開発された巨大なプログラムを稼働させるには、超高額なコンピュータが必要であり、そして何よりも、精度の高い予測をするためのデータを集める手段が存在しませんでした。
現在はどうでしょうか?すでに開発されている主要なAIのAPIは公開され、コンピュータはクラウドという形で安価に利用することが可能となり、かつIoTを通して膨大なデータにリアルタイムにアクセスすることができる環境が整っています。そうであるならば、一刻も早くこれを活用し、需要を突き止め、そこに誰よりも早くリーチし、莫大な利益を獲得したい・・・と考えるのは経営者にとっては自然な発想です。少なくとも米国を中心とした国外の経営者はそう考え、行動に移しているように見えます。
このような背景から、DXは注目を集め、広がり、機能は拡張を続け、いまではさまざまな領域に適用されるようになりました。
すでにお気づきかと思いますが、多くの日本企業が取り組む、改善を中心とするDXと、海外のそれとは大きく異なります。日本型の改善DX(現業の自動化など)から得られる利益と、前述のアプローチから得られる利益では、桁が違うかもしれないわけです。このままでは国際競争力を高めることは難しいかもしれません。
では、DX人材育成担当者はどうしたらよいのでしょうか?
何を学ぶかではなく、何をすべきかに着目しましょう
研修などを通して新たな事を学んだとしても、それを活用する場がなければ、学んだ知識やノウハウは使われることがなく、そのうち忘れてしまいます。DXの本懐は、先に述べた通り、“やることを変える”ことを通して利益の最大化を図ることです。“やることを変える”が大前提であるのに、デジタルの利用技術についての学びばかり先に深めても、新たにやることが決まっていなければ、その知識は使う機会を得ることができず、忘れ去られてしまいます。
どんな企業でも、事業の数値目標は持っているはずです。その数値目標を達成するための方針づくりにおいては、実はDX時代の前も後もやるべきことはそれほど大きく変わっていません。
目標を達成するためには、どこに市場機会があるかを探し、見出し、その領域における自社の競争優位性を定義し、それを実現させるための各種施策を策定することが必要です。この施策の実現方法を少し大胆にしたものがDXだったりするわけです。例を見てみましょう。
■事例 施策方針:小売店舗の機会損失の極小化と在庫の極小化の両立 従来の常識では、機会損失を減らすには在庫を多めに持つしかなく、それに加えて需要予測の精度を上げて無駄な在庫をなるべく減らす・・・という方法以外、実現手段はありませんでした。 これに対してユニクロは全商品にICタグを装着し、レジを簡素化しただけでなく店頭の販売情報をリアルタイムに製造部門と共有し、これとAIによる傾向値算出などにより、店頭の欠品を避けつつ、過剰在庫を避けることを実現しました。 |
この例は、デジタル技術を学んでから応用したというわけではなく、“有名アパレルブランドに対してFast Fashionならではの競争優位性を極限まで追求するには” という挑戦的な“問い”が先にあり、これを実現する手段として、適切なデジタル技術に辿り着いたというものです。
このようなステップを経て、自社の競争力を高めるためには、デジタルリテラシーの高い社員の育成を急ぐよりも、何をすべきかを導き出すことが先決です。そのためには、マーケティング/事業戦略に関する基礎的な知識の習得が必要となるでしょうし、“すべきこと”の実現手段を導き出すための、各種発想法・思考法の習得が必要となり、さらに、具体的な実装手段においてはデジタルを含む固有の技術領域へと学習領域が展開されることになります。
現場の社員の協力を得るためには?
我々は、これまで多くのDX人材育成担当の方々から、どうしたら現場の社員の協力を得ることができるか?どのように現場を巻き込むべきか?といった相談を受けてきております。以前と比べ、生成AIなどの台頭により、デジタル化そのものに反対する社員は見ることはなくなってきていますが、DXへの取り組みに業務時間を割く、人員を割くという事に協力を得られるかというと、そこにはもう一つハードルがあるようです。現場、つまりは事業推進サイドの営業や技術者にとって優先すべきは組織の数値目標の達成です。そのための戦力を別の目的のために削ぐという決断は、簡単ではありません。しかし、この課題を乗り越えるためには以下のアプローチは有効といえるでしょう。
・組織の目標値を調整する
・DXの取り組みそのものが最終的に当該組織の利益につながることを示して説得する
前者においては、会社全体の予算達成にも関係するところとなりますので、経営者の協力を得ることが必須となります。DXに人員を割いてもらう組織が限定的であれば、全社としての予算を確保するための部門間の調整を、経営企画部門などと進めた上で、社長の決断を仰ぐ流れとなるでしょう。
部門横断的にDXに人員を割いてもらうことを計画している場合、部門間の調整は困難となります。その場合は、株主への事業目標の発表の前のタイミングで社長と話をした上で、対外的には保守的な目標設定を出すことで、組織目標を抑制し、結果的に部門長が人員を割くことのハードルを下げるというアプローチが効果的かもしれません。組織目標は下げられないということであれば、しわ寄せはDXに関与する現場の社員に集中します。この場合はDXの一連の教育を受けたあとには社内資格獲得とするなど、将来的な報酬増加につながるような道筋をつけるなどをして、モチベーションの維持を図るべきでしょう。
後者においては、中期的な事業成長の実現につながる課題解決のためにこそ、DXがあるのだということを理解していただく必要があります。例えば、デジタルを駆使した統計的シミュレーションを現場のマネージャーに見せても、「すごいね」 とは言ってもらえるかもしれませんが、それ以上のことは起こらないかもしれません。しかし、予め現場の課題を把握し、それらを継続的に解決していくためにこのシミュレーションは役立つのだという文脈で説明すれば、その取り組みに自部門の労力をある程度割くことの抵抗は下がるのではないでしょうか?ただ、こちらのアプローチをとる場合、合意を得られるか否かは、交渉相手となる部門長の胆力や性格に依存することが大きいので、現実解としては前者と後者の組み合わせとなるでしょう。
何から始めるべきか?
さて、ここまでこのコラムを読み進めるなかで、自社のDX人材育成に向けて何をすべきかについてはイメージが掴めてきたでしょうか?
“具体的なことは何も決まっていないが、DX人材育成担当を任命された”
“会社はDXへの投資をコミットはしているが、それ以外は何も決まってない”
“会社のDX戦略/施策は定義されているが、必要な人材のスキルは定義されていない”
といった、各状況にあわせて施策も変わってまいりますので施策に応じた具体的なカリキュラムについては、弊社にご相談いただければ幸いです。
アイ・ラーニングでは、お客様の戦略・施策を人物像に繋げるご支援をするPD-PS(People Development Planning Session)や各種カリキュラムの設計、運営上のご相談などを承っております。
詳しくお知りになりたい方は、まずは相談会にお申し込みください。

樫村 亜一(株式会社アイ・ラーニング 営業本部)
日本アイ・ビー・エム入社後、技術エンジニアとして6年勤務した後、営業に転じ、新規開拓を中心に活躍。大手ゲーム会社・IBMサンノゼ研究所との共同プロジェクトや、大手総合商社とのSmart Cityプロジェクト等の先進的取組を通し新規ビジネスの創出の実績を重ね、営業改革タスクのリーダーを務める。シマンテックではプロダクトマネジャーとして大手SIerへの独占販売権を獲得、ヒット商品を生み出す。ディメンションデータでは、新規開拓営業部の創設を果たし、グローバルチームを率いて大規模ネットワークプロジェクトを受注。株式会社アイ・ラーニングでは、営業のほか、人材アセスメントをはじめ、新プロセス構築やビジョン策定などのコンサルティングを行っている。