VUCAの時代に力を発揮できるミドルマネジメント~思考できるマネージャーとは~

2024.03.28お役立ち情報
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われわれを取り巻く事業環境がVUCAと呼ばれるようになってから久しく経ちますが、読者の皆様は、そのような変化の激しい時代において、どのようにして持続的成長の実現を目指していますでしょうか?

さまざまな施策が考えられると思いますが、そのあらゆる施策において、(すべての仕事がAIに置き換わらない限り)ミドルマネジメント(中間管理職)は重要な枠割を担うことになります。本日はその“ミドルマネジメント”と“思考”という2つの言葉に注目してみたいと思います。

ミドルマネジメントの強化が求められている理由

私は仕事柄、多くの企業様から人材育成上の課題や要望をお聞きする機会が多いのですが、“マネージャーの能力向上が必要”、“組織マネジメントができるマネージャーの養成が必要”といった声や、“マネージャーとしての仕事ができていないマネージャーが多い”といった声が増えているような気がします。

もちろん、VUCAの時代で持続的成長をするには、トップの時代を読む力と迅速な意思決定や、その意思決定に従って業務を前に進める現場の力も非常に重要です。しかし、中堅規模以上の企業になると、事業も複雑化し、全ての判断や指示をトップが実施することは不可能です。

組織においてマネージャーが管理する部下の数を指す概念としてスパンオブコントロール(Span of control)という言葉があります。そして、一般的に組織を円滑に運営できるためには、スパンオブコントロールは5~10人と言われています。つまり、理論上は部門当たりの人数が10人を超える従業員を持つ企業においては、ミドルマネジメントがいない限り、経営方針に従った円滑な組織運営は不可能という事になるわけです。

一方で、どんなに優秀な現場のメンバーがいたとしても、それを管理・支援する立場のミドルマネジメントが無能であった場合、メンバーの能力に蓋をしてしまう可能性さえあります。

以上の事からも、変化に対応しつつ会社を成長させようとしたときに、その推進においてミドルマネジメントが肝となることは間違いないと言ってよいと思います。

マネージャーの役割とは

ミドルマネジメント(中間管理職)と表記すると、読者の皆様が所属する企業の構造によって、イメージが特定の層に限られてしまうかもしれませんので、ここからは敢えて“マネージャー”という言葉を使わせて頂きます。マネージャーの役割についてはさまざまな定義が可能ですが、最もシンプルに表現すれば以下の2つに集約する事ができるでしょう。

・(自身が責任を持つ)組織の目標達成

・(自身が責任を持つ)組織のメンバー育成

経営層は、戦略や主たる施策を策定はしますが、VUCAの時代において、それを粛々とやれば目標が達成されると確信が持てている訳ではありません。皆、不安でいっぱいなわけです。そんな時に、組織の目標達成とメンバー育成のために、(コンプライアンスは遵守しつつ)あらゆる手を尽くし、英知を絞り、自らの意思で邁進するマネージャーがいたら、経営層の方々はどんなに力強く感じることでしょうか?そして、このようなマネージャーはどうやって養成すること/見出すことができるのでしょうか?

多くの企業様から、「現場の社員時代に業績優秀な者をマネージャーに引き上げているが、機能していない」という言葉をよくお聞きします。正確には、マネージャーとして機能する人と、機能しない人に分かれてしまっているという状況なのだと思います。なぜ分かれてしまうのでしょうか?

例えば、古くからの大口の得意先様を担当している、IT企業のプロジェクトマネージャー職のメンバーがいたとします。この方はお客様の要望とあらばなんでも応えるという姿勢を貫いてきたため、お客様からの評価は非常に高いです。時にはシステムトラブルも起きますが、大口のお客様ですから、そのPM職の方が声を大にして会社に支援を求めれば、優秀なメンバーがアサインされてトラブルも迅速に解決されるため、やはりこのPMは頼りになる…とさらに評価が上がり、マネージャーとして抜擢される。 このような人事は珍しくはないのではないでしょうか?しかし、このような人が組織の長になったとき、その組織では、必ずしも関係が良好ではないお客様や、わがままばかり言うお客様も担当していることでしょう。そこでも、現役時代の経験を成功体験として、あらゆる要望に応えることをメンバーに強いていたら、適切な利益は確保できるでしょうか?メンバーは疲弊しないでしょうか?

この方がPM職の時と、マネージャーになってからでは明らかに、取り巻く環境が変わっています。異なる環境下においてビジネスの成果を出すには、その環境を理解し、“思考”し、適切な方針を導き出すといった行為が必要です。そしてこれができるか否かが、マネージャーとして機能する人か、機能しない人かの境目になるのです。注目すべきは思考力の有無です。

思考力とは


これまでと異なる環境において、適切な行動をとり、成果を導き出すことが出来る人は、以下の4つのStepを踏める人です。

「情報の集積と統合」→「全体像の把握」→「課題の発掘・定義」→「目標の設定」

ここでは、この4つのStepを自ら踏める人を“思考力”がある人 と呼ぶことにします。思考の4つのStepを普段から踏むことではじめて、VUCAの時代においても、何が起こっているかを把握し、自ら意思決定することができるのです。そして、思考の4つのStepを普段から踏むことではじめて、不振のために立ちすくむ部下達に何が起こっているのかを理解し、共に歩むべき方向性を示してあげることもできるのです。

この“思考力”は、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングといった思考法を学ぶことによって、ある程度身につけることはできますが、残念ながら身につけることが出来ない人も相当数います。なぜか?これについては脳科学の理論を用いて説明することができます。

脳が思考を阻む2つの理由

その1:脳は省エネを好む

詳しい説明は割愛しますが、人間が持つあらゆる臓器の中でも、脳は非常に大きなエネルギーを消費しており、身体全体が消費するエネルギーの実に20%以上は、脳単体によって消費されます。あまり過剰にエネルギーを消費すると、筋肉であるとか、その他の部位に必要なエネルギーが回らなくなってしまいますので、脳は省エネモードを好みます。新たな環境下で前述の4つのStepを踏み、解決策を見いだし、推し進めるという事は、新たな思考パターンを進めるという事を意味します。その時に脳の中では、神経細胞をつなぐシナプスが形成されたり、情報が流れる軸索とよばれる管が強化されたりします。これには大きなエネルギーが費やされます。元来、省エネモードを好む脳は、新たなシナプスを形成するのではなく、元々あるシナプスで処理するように誘導しがちです。新たな試みをしようとしても3日坊主で終わってしまう人が多い理由はここにあります。

ざっくりいうと、“思考力”がある人は、4つのステップを回すためのシナプスが形成されており、さらに新たなシナプスを形成ことに対しても脳が前向きに反応するための記憶痕跡が蓄積されています。

その2:危機(認識)は思考を止める

「脳は省エネモードを好む」という事に加えて、脳が思考を阻む要因がもう1つ存在します。

元来、野生生物は危機を察知すると本能的に臨戦態勢に入り、“逃げる”か“闘う”かのいずれかのモードに移行します。人間も太古の時代は野生生物と同じような環境で生活していた名残があり、脳は、たとえ思考をしている途中であっても、危機が迫っていることを感じると、“思考”を司っている前頭葉の一部の機能を止め、“逃げる”か“闘う”かのいずれかのモードへの移行を促すのです。危機の認識が頻繁に行われると、都度思考が寸断されますので、シナプス形成に支障をきたし、結果的に思考する脳が育まれないことになります。

“思考力”がある人の特徴

“思考力”がある人とは、普段から十分思考することができている人です。つまりは前述の“その1”や“その2”で書かれているような状況を排除できて、結果として4つのStepをうまく回せている人です。それでは、どのような人がそのような状況を排除できるのでしょうか?

一つは「利他的」である人です。正確には自身の中にある利他と利己をうまく結びつけることが出来る人です。あらゆる仕事は最終的には価値創造に帰着します。逆に言うと、価値創造に結びつかない仕事はやる必要がないかもしれません。価値創造がされているということは、誰かにとっての価値になっている…つまりは誰かの役に立っているという事です。つまり、仕事という概念はそもそも「利他性」を秘めているわけです。

利他的であることは、必ずしも自己犠牲を意味しません。利他的な活動の結果、誰かが喜んでいる姿を見て自分も幸せな気持ちになる…という事は十分ありうることですし、その場合は利他=利己の状態になっていると表現できるのではないでしょうか?つまり、「利他的」であるひとは自分以外の「組織」や「社会」に貢献したいという気持ちが強いために、行動の傾向として普段から新しいことへのチャレンジが多くなります。そのため前述の4つのStepを踏むシナプスは形成されており、かつ課題を乗り越えたときに出会える人の笑顔…などといったものが記憶痕跡にあるために脳は省エネモードに誘導されず、新たなシナプス形成を進めることが出来るわけです。

二つ目は「精神的自立性」が高い人です。周りにとらわれず、心が安定していて、物事に没頭できる人です。この状態ですと、長く思考を継続できるためにシナプス形成も進み、思考力が育まれます。われわれは「精神的自立性」の対義語を「自己執着」であると定義しています。「自己執着」が高い人というのは、常に周りにとらわれ、「人より良く見られたい」、「自分は悪く見られたりしていないか」ということに気を取られがちな人です。このような状態にあると、脳は「自分は人から悪く見られてしまうかもしれない」という状況を危機として認識してしまいます。すると前述の“その2”で記載した通り、脳は思考を止めるのです。

VUCAの時代を勝ち抜く組織形成のために


「VUCAの時代を生き抜く組織形成」のために必要な取り組みは一つではありませんが、思考力のある方をマネージャーに据えることが一丁目一番地です。変化の激しいVUCAの時代において、過去の成功体験をなぞるだけのマネジメントでは、組織目標の達成も、メンバーの育成も不可能です。なぜならば変化に対応できないからです。変化に対応するには、何が起こっているか自ら情報を集め、把握し、課題設定し、適切な目標を立てて邁進する。そしてPDCA/OODAを回すという行為ができる人、つまり、ここまで述べてきた、いわゆる、思考力のある人が不可欠ということは明らかです。

思考力のある方をマネージャーに据えるために、皆様にとって効率的なアプローチは、現在の不出来なマネージャーをトレーニングするよりも、顕在的/潜在的に思考力のある素地を持つ方を見いだし、この方をマネージャーに据える、あるいはマネージャー候補として育成する事です。

残念ながら、思考力の素地を持たない人にマネジメント研修を施しても、その方達が、学んだことを会社の成長に活かそうと行動に移すことは難しいでしょう。最近注目されている心理的安全性をマネージャー層に訴求しても、思考力がないマネージャーはそもそも心理的安全性が欠如しているケースが多いわけです。自分の心理的安全性が確保されていないのに、部下に対して心理的安全性を提供することは不可能です。同様に思考に必要な4つのStepを教育しても、会社の成長に活かそうというように行動変容してくれる人は現れないかもしれません。

つまり、研修や育成にかける投資対効果の観点でも、思考力のある社員を見いだし、その方を育成の対象とする方が、リターンが大きいのです。

思考力のある人の特徴は、「利他的」であることと、「精神的自立性」が高い事でした。このような人を見極めるには、同じ組織で長い期間ともに仕事をしていれば、気づくことも可能ですが、皆様はご自身の仕事もありますし、時間を割くのは難しいかもしれません。そのような皆様には、行動心理学に基づいた20年以上の歴史を持つ人材アセスメントを活用することが近道といえるでしょう。これを通して意外なところにいるダイヤの原石を見つけることもできるかもしれません。

思考力のある方の発掘と育成、マネージャーへの登用を繰り返すことにより、皆様の会社の組織は、チャレンジを楽しみ、変化し続けることが出来る“VUCAの時代を勝ち抜く組織”に着実に近づいていくことでしょう。

※人材アセスメントについての詳細は、アイ・ラーニングまでお問い合わせください。
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