【メタエンジニアの戯言】生成AIと外注の共通点
2024.05.09松林弘治の連載コラム某大手食品メーカの基幹システム切替に伴う障害により、商品である冷蔵品が出荷停止になった、というニュースが4月に話題になりました。全貌が明らかになるのはずっと先でしょうが、ネット記事や各種SNS上では、憶測も交えて多くの情報が飛び交っています。
切替前・切替後のシステムはなんだったのか、移行を担う主幹ベンダはどこなのか、などの詮索もある一方、どのような原因で今回の障害が起こったと考えられるか、「他山の石」「失敗事例」からいかに学びを得るか、の議論も行われているようです。
この個別事例については、具体的な原因調査・公表を待つこととして、このような事例を目にする度に、もはや誰もが知っている「生成AI」との付き合い方についても考えさせられます。以下、一般論として記します。
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会社のある部署や担当者が、システム開発を外注する。内製を行おうにも内部に理解できる人材がおらず、もろもろ大変だから、外部の業者に開発を依頼するわけです。
その際、「なにもかも丸投げしてしまう」というケースがあると思います(「大半」ではないことを祈りますが…)。
業務のことは社内の人が一番良く知っている、しかしシステム構築のことは業者の方が知っている、だから外注するわけです。しかし、技術と業務は不可分ですので、お互いのドメインのことを知らないまま外注し開発してしまっては、良いシステムができるはずもありません。
だからこそ、発注側は技術のことを学び、受注側は業務のことを学び、互いに協力して共同作業をする必要があります。そうでないと、発注者は納品されたシステムの良し悪しを判断できませんし、要改善点の抽出や適切な改善指示もできないことになります(逆もしかり)。
そのようなことを「わからないことを外注しても、大抵の問題は解決しないどころか悪化する」であったり、さらに過激に「バカがバカに仕事出して、そのバカがバカなことやって、バカがもっとバカになる」であったり、そのように表現される方もいます。
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2022年あたりに起こった、生成AIの広範な認知、活用に向けての社会実験的ムーブメント、いわゆる「ブーム」ですが、ここでも全く同じことが言えると思うのです。
我々の想像を軽く超えるレベルでいかなる問いにも回答してくれる対話型AIに顕著ですが、必ずしも常に正しいことを答えてくれるわけではありません。しかし、質問内容について最低限の知見を持っていないと、回答の真贋判定すら行えないことになります(理想を言えば、より広範で体系的な知見を持っている人でないと難しいでしょう)。
すでに知見を持っている人は、ますます活用してさらに知見を加速度的に深められる一方で、何も知らない人が「単刀直入に答えだけ知りたい」という使い方をしてしまっては誤った知識を得ることになりかねません。
ある意味、新しい「情報格差」とも言えます。
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人対人であっても、人対コンピュータであっても、知らないことを知り、理解を深めたいと思い、能動的に学び、そして行動する。それをやらない限り、良い学びにはつながらないし、いいものは生まれない。
そういった当たり前のことをつらつらと考えている大型連休ですが、ちょうど X(旧 Twitter)で類似の話をカリカチュアしたかのようなエピソードが投稿されているのを目にし、うーむ、と唸ってしまいました。
松林 弘治 / リズマニング代表
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。