【メタエンジニアの戯言】誰に向かってどう伝えるか、の難しさ

2023.09.08松林弘治の連載コラム
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

オンラインショッピングサイトの商品レビュー、特に書籍のレビューでは、両極端な評価に分かれたりするのをよく目にします。

例えば、ある技術入門書があったとして、「とても分かりやすく理解しやすかったです」「丁寧に順を追って説明されていました」という評価がある一方で、「内容が薄い」「こんなことはググればすぐに見つかる内容」という手厳しい評価がついていたり。

前者がサクラのレビューで、後者が悪意を伴った攻撃的レビューなのでしょうか。もしかしたら、そういうケースもあるかもしれません。ですが、前者は入門者(書籍で扱われた内容にまだ明るくなかったり、これから勉強する方)によるレビュー、そして後者はすでに理解している人によるレビュー、と推測されるケースも少なくないように感じます。

学校の授業や、職場での研修などでも、同様の両極端な評価になる場合があります。「教科書・参考書が簡単すぎてつまらない、先生の講義は退屈だ」と思う学習者もいれば、「あまりに難しすぎて、なにを学ぼうとしているのかすら、全く分からない」と感じる学習者もいたりします。全く同じ場にいて、同じことをやっていたとしても、です。

これが、私も日々感じている、「不特定多数に伝えることの難しさ」です。

教える側、伝える側は、ある特定の聞き手や学び手がいて、その人の前提知識や興味などにあわせて、表現方法を工夫することで、より相手に伝わりやすく、理解してもらいやすくしようとします。

しかし、不特定多数に対して一斉に伝える場合、または文章や音声で提示する場合、聞き手のペルソナというか、どのような人にどのように語るか、のイメージが持ちにくくなりがちです。学術的な文書の場合は、フォーマットやある程度の前提知識を念頭に置いた上で書くため、あまり問題になりませんが、特に初学者〜熟練者が混在するマスに対して語ったり伝えたりする際に、この問題がいつも頭をもたげてきます。

この辺りの話は、当コラムの「感想を噛み締め、批判から学ぶ」や「「個別指導」最強説」でお伝えした内容と類似しているかもしれません。そして、私が不特定多数に一斉教授する方法があまりしっくりこなかったり、むしろ少人数の学びをファシリテートする方が性に合っている、ということも関係しているかもしれません。

 

 

—-

さて、このような話を書いたのは、先日とあるCS番組に出演し、アナウンサーと90分間対談をしたことがきっかけです。

その番組では、番組制作スタッフの方々が事前に用意してくださったスライドを写しながら、お子さんのいらっしゃるそのアナウンサーの方(もちろん非エンジニア)と、コンピュテーショナル・シンキング(≒プログラミング的思考)側からの視点も取り入れつつ、親子で楽しく日々の探究や学びの活動について話す、そんな内容の歓談でした。

本当はもっと広範なトピックに触れたかったですし、「視聴者の皆さんに誤解を招くかも」という懸念もあったのですが、事前打ち合わせの時間もほとんどなく、個人的には若干消化不良の収録となってしまったのが残念です。それでも、生収録中の2人の対話は非常に楽しく進みました。特に、洗濯物干し〜取り込み〜畳む作業に対して、並々ならぬ最適化や効率化への情熱をお持ちで日々試行錯誤を繰り返されている(笑)そのアナウンサーの方とは、エンジニアリング的観点と主婦・主夫の観点を交えながら話が非常に盛り上がり、有意義な90分間でした。

一方、その番組が後日、某所で公開されると、「このような中身の薄い話をするとは」といったような批判的なコメントもついていました。まぁそれはそうですよね、バリバリのソフトウェアエンジニア(私も一応そのひとりではありますが)の方々にとってはあまりにも物足りなく感じられる話でしょう。

これが、地方のイベント会場で、親子向けのアクティビティとして話したり一緒に遊んでいた場合であれば、そのようなコメントはなかったのかもしれません。ともあれ、不特定多数に語る難しさを改めて感じることとなりました。

—-

一方、つい先日、未就学児〜小学校低学年のお子さんとその保護者の方向けに、アンプラグドアクティビティが開催され、オブザーバとしてオンライン参加しました。実は当事業を後方サポートしており、コンテンツ制作や理論的裏付け、実施計画立案などに携わっているのです。

当事業担当者(兼先生役)の方の優れたスキルのおかげでしょうし、私と定期的に行っているブレストや議論も、もしかしたら少しはお役に立っているかもしれません(笑)。ともあれ、オンライン実施というハンディをものともせず、アクティビティは非常に盛り上がり、子ども達も大盛り上がり、成功裡に終わりました。保護者の方々は、職業エンジニアの方もいれば、非エンジニアの方もいらっしゃったようですが、後日回答していただいたアンケートも含め、概して好意的な反応を得られました。

—-

私にとってこの両者は、全く同じスタンスで、全く同じ価値観で、専門的にも可能な限り不備がないよう細心の注意を払って取り組んだものです。ただし、想定対象層が全く異なり、伝え方も異なります。そして、不特定多数に収録後公開されるものと、数十名の参加者を対象としてリアルタイムに語りかけるものとでは、やはり反応が大きく異なりました。

改めて「伝えることの奥深さ、そして難しさ」を思い知らされたのでした。

【他社事例から学ぶ】自社のDX推進を成功に導くために

DX時代をけん引する人材を育てるための戦略

  • このエントリーをはてなブックマークに追加