人材開発支援助成金とは?制度内容や申請方法をわかりやすく解説
2024.01.17ビジネス少子高齢化が進み、労働人口である生産年齢人口(15歳~64歳)は減少傾向にあります。人材採用が厳しくなっているなか、企業としては従業員の労働生産性を高めていくことが重要です。一方、人材育成には多額の費用が必要となるため、なかなか実践できないという企業は多いのではないでしょうか。
そこで、活用したいのが労働者のキャリア形成を段階的・体系的に支援する「人材開発支援助成金」です。 本記事では、人材開発支援助成金について、制度内容や申請方法を解説します。
▼人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金とは、労働者の職業生活設計の全期間を通じて、職業能力開発にかかる費用を助成するものです。具体的には、事業主が労働者に対して、仕事内容に関連した知識やスキルを習得させるために、職業訓練などを計画的に行った際の経費や訓練期間中の賃金の一部を国から助成されます。
企業では収益性を向上させるため、作業の自動化や人材育成を行う必要があります。しかし、長期にわたって活躍できる人材を育成するには多額の費用が発生するものです。そのため、企業によっては資金の少なさから、なかなか人材育成ができない、といった課題も多く聞かれます。
人材開発支援助成金は人材育成にかかる費用を一部助成し、企業の負担を軽減できる制度です。
▼人材開発支援助成金の7つのコース
人材開発支援助成金には、7つのコースが設けられています。
こちらでは、それぞれのコースについてご説明します。
▼▼人材育成支援コース
人材育成支援コースは、従業員に対して職務に関する知識や技能を習得させるための訓練にかかる費用の一部を助成するコースです。
こちらは令和5年に、下記3コースを統合したことで新たに設立されました。
- 特定訓練コース
- 一般訓練コース
- 特別育成訓練コース
こちらのコースでは、計画的に人材育成を行う企業や事業主を支援することが目的であり、新卒採用後の育成にも利用されています。
出典:厚生労働省ホームページ「令和5年度版パンフレット(人材育成支援コース)」
▼▼教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースとは、事業主以外が行う教育訓練などを受けるために休暇制度を企業に導入した際に発生した経費と、休暇中の賃金の一部を助成するものです。
対象となる教育訓練は、事業主以外が実施する教育訓練や各種検定、キャリアコンサルティングです。この場合に取得できる教育訓練休暇は、労働基準法第39条の規定による年次有給休暇とは異なります。制度導入や実施時には30万円から36万円程度が支給されます。
一方、OJTや業務命令で受講される訓練や各種検定、キャリアコンサルティングは対象とならない点には注意が必要です。
出典:厚生労働省ホームページ「人材開発支援助成金 (教育訓練休暇付与コース)」
▼▼人への投資促進コース
人への投資促進コースとは、デジタル人材の育成や従業員の自発的な能力開発の促進を目的とした施策を助成するものです。
人への投資促進コースの対象となる訓練は下記の6種類です。
● 【デジタル/成長分野】高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練
DX推進や成長分野などでのイノベーションを推進する高度なスキルを持つ人材の育成のための訓練や海外を含む大学院での訓練を行う事業主に対しての助成。
例:中小企業において高度なデジタル分野の人材育成のために、プロジェクトマネージャーの資格取得講座を実施する など
● 【IT分野未経験】情報技術分野認定実習併用職業訓練
IT分野未経験者を即戦力化するためOFF-JT(※)とOJTを組み合わせた訓練を行う事業主に対しての助成。
例:中小企業においてIT分野未経験の従業員にプログラミング講座の訓練を実施する など
※ OFF-JT(Off the Job Training)は日常の業務から離れて行う研修や学習のこと。OJT(On the Job Training)は職場で実際の業務に取り組みながら行う育成方法のこと。
● 【サブスクリプション】定額制訓練
従業員が多様な訓練の選択・実施ができる「定額制訓練」(サブスクリプション型の研修サービス)を行う事業者に対しての助成。
例:中小企業において、営業力向上のための定額受け放題のeラーニング訓練を導入する など
● 【自発的能力開発】自発的職業能力開発訓練
従業員が自発的に受講した訓練費用のうち、2分の1以上を負担した事業主への助成。
例:従業員の自発的な資格取得の受講費を会社負担にする など
● 【教育訓練休暇】長期教育訓練休暇等制度
従業員が働きながら訓練を受講するための休暇制度や短時間勤務などの制度を導入する事業主への助成。
例:インバウンド対応のため海外の語学学校で半年の英会話クラスを受講するための休暇を取得できる制度の導入 など
人への投資促進コースを利用するには、事業内職業能力計画を作成・提出してから制度導入を経て支給申請を行います。詳しい申請方法については、後述の見出し『人材開発支援助成金の申請方法の流れ』にて詳しくご紹介しています。
近年では、ITやDXといったデジタル関連の事業へ投資する方が多くなったことから、利用する事業主が増加傾向にあります。
▼▼事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは、企業の持続的発展のため、新製品の製造など新分野に展開する際に行った人材育成を助成する制度です。
新商品や新サービスの製造開発や、ITツールの活用といった既存事業にとらわれない新規事業を行う際に利用することができます。また、カーボンニュートラルや省エネルギー化といった、既存事業の環境保全能力向上などにも活用できます。
このように、事業展開等リスキリング支援コースは新規・既存問わず企業や環境保全、DX化などに活用できる助成です。支給対象となる訓練は訓練時間が10時間以上、OFF-JTであることなどいくつかの条件があるため、事前に確認しておく必要があります。
出典:厚生労働省ホームページ「事業展開等リスキリング支援コース」
▼▼建設労働者認定訓練コース
建設労働者認定訓練コースとは、建設労働者に対して認定訓練を受講させ、受講期間中には通常の賃金以上の金額を支払った場合などに受けられる助成です。
建設業ではほかの業種と比べて危険性や法律の順守などが厳しい傾向にあることから、従業員や役職者にさまざまな教育を行わなければなりません。
下記、助成の対象となる訓練課程です。
- 機会整備系
- 建設施工系
- 建設外装系
- 土木系
- 揚重運搬機械運転系
出典:厚生労働省ホームページ「建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)」
▼▼建設労働者技能実習コース
建設労働者技能実習コースは、建設事業主が対象となる講習や技能実習を受講させた場合、それにかかった経費や賃金の一部を助成するものです。
先述した建設労働者認定訓練コースと類似しますが、対象となる認定訓練や講習内容などが異なります。
下記、対象となる講習会の一例です。
- 足場の組み立て等作業主任者技能講習
- 足場の組み立て等特別教育
- フルハーネス型墜落制止用器具特別教育
- 低圧電気取り扱い業務特別教育
- 除染等業務従事者特別教育
対象となる事業主は資本金や出資の総額が3億円以下で、労働者数が300人以下の建設事業主であることなどが求められます。
また、助成金の種類と金額については経費助成や賃金助成、賃金向上助成などさまざまであることから、事前の下調べが必要です。
出典:厚生労働省ホームページ「建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)」
▼▼障害者職業能力開発コース
障害者職業能力開発コースは、障害者が仕事に必要な能力を開発・向上させるための教育訓練にかかる経費を助成するものです。
対象となるのは下記のいずれかに該当する方で、人によって最適な訓練が異なります。
- 身体障害者
- 知的障害者
- 精神障害者
- 発達障害者
- 高次脳機能障害のある者
- 難治性疾患を有する者
支給額はその内容によって最大5,000万円や更新に要した費用の3/4など、さまざまです。
出典:厚生労働省ホームページ「人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)」
▼人材開発支援助成金の申請方法の流れ
人材開発支援助成金を受け取る際は、コースによって申請方法が異なります。
こちらでは、「人への投資促進コース」の申請方法を例にご紹介します。
▼▼職業能力開発推進者の選定
職業能力開発推進者とは、従業員のキャリア形成を支援し、企業の職業能力開発に取り組む方を指します。
企業体質や目的などに沿って事業主は最適な推進者を選びます。
▼▼事業内職業能力開発計画の作成
事業内職業能力開発計画とは、従業員の職業能力の開発や向上が段階的、かつ体系的に行われるように作成する計画書です。
いつ、どのような状態になっている、などゴールやプロセスを記したもので、従業員は当計画書に基づいて行動します。
▼▼訓練実施計画届の作成
訓練実施計画届は国が実施する職業訓練の対象者数を明確にし、計画的な職業訓練を実施するために使われる資料です。
こちらには、実施する職業訓練の内容や効果などを記載します。
▼▼職業訓練の実施
計画書に則り、対象者に技能訓練を受講してもらいます。
ほとんどの場合、助成金は後払いであることから一旦事業者が立て替えておくことになります。
▼▼支給申請書の提出
指定されている期限内に支給申請と必要書類を労働局に提出します。
労働局は申請された書類を確認し、支払額や支払先を選定するため、必ず満額を受け取れるわけではない点には注意しましょう。
▼人材開発支援助成金はいくらもらえる?
受け取れる助成金の金額については、コースや条件などによって異なります。
人への投資促進コースを例にとってご説明します。
訓練メニュー | 対象者 | 対象訓練 | 経費助成率 | 賃金補正額 | OJT実施助成金 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
中小企業 | 大企業 | 中小企業 | 大企業 | 中小企業 | 大企業 | |||
高度デジタル人材訓練 | 正規 非正規 | 高度デジタル訓練 | 75% | 60% | 960円 | 480円 | – | – |
成長分野等人材訓練 | 正規 非正規 | 海外も含む大学院での訓練 | 75% | 75% | 960円 | 960円 | – | – |
情報技術分野認定実習 併用職業訓練 | 正規 非正規 | OFF-JT+OJTの組み合わせの訓練 | 60% | 45% | 760円 | 380円 | 20万円 | 11万円 |
定額制訓練 | 正規 非正規 | サブスクリプション型の研修サービス | 45% | 30% | – | – | – | – |
自発的職業能力開発訓練 | 正規 非正規 | 労働者の自発的な訓練費用を事業主が負担した訓練 | 45% | 45% | – | – | – | – |
長期教育訓練休暇等制度 | 正規 非正規 | 長期教育訓練休暇制度 など | 20万円 | 20万円 | 6,000円 | 6,000円 | – | – |
このように、訓練メニューや企業規模などにより、受け取れる助成額が変動します。
▼人材開発支援助成金を活用する際の注意点
人材開発支援助成金を活用する際の注意点をご説明します。
▼▼コースごとの支給要件をチェックする
先述の通り、人材開発支援助成金を活用する際には技能向上について、さまざまな分野に分かれています。また、分野によって支給条件や助成額なども異なるため、最適なものを選ばなければなりません。人材開発支援助成金を活用する際は、自社ではどのコースでいくら受けられるのかを確認しておきましょう。
▼▼支給申請後に審査がある
補助金や助成金で勘違いされることが多い点が、訓練や機器導入の実施前に助成金を受け取れると考えられていることです。また、申請内容などによっては必ず支給されるわけではないという点にも注意しましょう。
▼人材開発支援助成金を活用して研修費用を削減
本記事では、人材開発支援助成金についてご説明しました。人材開発支援助成金は労働者の職業生活設計の全期間を通じて、職業能力開発にかかる費用を助成するものです。従業員のスキルアップを図ることができるため、支給要件を満たしているのであれば積極的に申請・活用することをおすすめします。
当社では、高度デジタル人材訓練の対象となる研修を用意しています。ご興味がある方はお気軽にお問い合わせください。