エンジニア向け営業スキル研修事例:BIPROGY株式会社

2024.04.05育成事例
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ビジネスエコシステムを形成して社会課題を解決すべく、エンジニア部門の新たなケイパビリティを追求

BIPROGY株式会社

馬場 定行
業務執行役員
テクノロジーサービス部門長
テクノロジーサービス部門担当(デジタルエンジニアリング本部、サービスプラットフォーム本部、総合技術研究所)
2020年4月に業務執行役員就任。全社を横断して技術支援する部門の責任者。サービスビジネスを加速させる施策の推進に携わる。

富永 陽一
デジタルエンジニアリング本部アドバンスド技術部 技術開発室二課 課長
新卒入社後、エンジニア部門に所属。現在はデジタルテクノロジーを活用したデザイン力や適用力に繋がるサービスの企画推進、社内教育などに携わる。


今回は、さまざまな企業をつなぐプラットフォーム提供企業として顧客の課題解決に取り組むBIPROGY様に取材をさせていただきました。エンジニアがお客様との対話においてケイパビリティ向上を図るため、セールスエンジニア向けのスキル強化研修を実施し、エンジニアのマインドや行動に変化をもたらしています。

――まず、BIPROGY社についてお聞かせください。

馬場氏:BIPROGYグループは、社会の変化に対して先見性と洞察力でテクノロジーの持つ可能性を引き出すとともに、さまざまなお客様やパートナー企業とのビジネスエコシステムを形成することにより、持続可能な社会の創出を目指しています。

同時に、ICTサービスの提供だけにとどまることなく、これまで推進してきた、社会を豊かにする新しい価値の創造と課題解決の取り組みを加速させ、社会的価値を創出する企業への変革を進めています。

「ビジネスエコシステム」とは、お客様やパートナー企業とそれぞれの技術や強みを活かして業種・業界の垣根を超えて共存共栄する仕組みですが、その仕組みを具現化するのがサービスビジネスであり、弊社は現在、サービスビジネスへのシフトを加速すべくさまざまな施策に取り組んでいます。

――今回取材にご協力いただいている馬場様は、BIPROGY社内の横断的な技術支援を行なうテクノロジーサービス部門をご担当され、その部門内に富永様の所属されているデジタルエンジニアリング本部があります。部署での役割やミッションを教えてください。

BIPROGY株式会社富永様

馬場氏:BIPROGYにはお客様の業種・業界を基軸に営業および技術部門を編制したビジネスイノベーション部門(BI)とビジネスサービス部門(BS)があります。

私が担当しているテクノロジーサービス部門は、BI/BS部門に対する横断的な技術支援を行うとともに、サービスビジネス加速の一翼を担うため、BI/BS部門と連携してビジネス企画や新しい技術の実装、セキュリティ強化などの取り組みをミッションとしています。

富永が所属するデジタルエンジニアリング本部は、新技術の調査や評価、適用、社内への教育を行なっています。サービスビジネスの展開にあたり、個別に技術を調査して開発することは非効率ですので、開発の効率化および安定的な保守・運用を実現する技術や、お客様の新規事業の早期立ち上げに資する技術を我々の部門であらかじめ目利きをして「型化」し、お客様のご要望に応じて最適なサービスを迅速にご提案できるように準備しています。

従来、弊社が接していたのはお客様の情報システム部門です。しかしながら、新規事業の場合は、お客様の企画部門などにコンタクト先が変わります。お客様から新規事業のご相談をいただく際、デジタルエンジニアリング本部のエンジニアが営業に同行して提案活動をするケースもあります。

研修実施前の課題

――今回、研修の実施・検討に至った背景を教えてください。

馬場氏:技術部門にはサービスビジネス加速のために2つの課題があり、それを解決したいと考えていました。
1つ目は、独自の販売チャネルの形成です。従来、自社のプロダクトおよびサービスを展開する際はBI/BS部門と連携して、彼らのビジネスにうまく組み込んで販売するのですが、今後は技術部門としての販売チャネルも増やしたいという想いがありました。
そして2つ目が最大の課題ですが、我々の部門には、お客様と直接対話して本質的(根本的)な課題や潜在的なニーズを引き出すケイパビリティ(組織能力)が十分ではなかったことでした。

技術部門の人間は、世の中の技術には精通していますし、ものづくりの専門家です。ただし、新しく開発したサービスを展開する局面では、お客様の課題やニーズを正確にとらえて、自分たちのサービスがフィットするのかアジャストを行なうのか判断する必要があります。その判断材料として、お客様の直接的なフィードバックが何より重要です。

お客様からフィードバックを繰り返しいただきながら継続的な品質向上と最適な「型化」を図ることが、サービスビジネスの加速につながります。そのために、まずお客様と対話の中から適切な課題やニーズを引き出せるケイパビリティを備えたエンジニアをより多く育成することが必要だと考えました。

研修の選定理由

――営業スキルの研修というとさまざまな選択肢があったかと思いますが、そのなかでアイ・ラーニングを選んだ理由や選定ポイントを教えてください。

馬場氏:弊社がアイ・ラーニングの研修を採用したのは、実は今回の研修が初めてです。2022年8月にアイ・ラーニングと面談する機会があり、抱えていた課題を相談したところ、「つまり営業的なセンスを身に付けることではないか」と整理いただき、今回のエンジニア向けの営業スキル研修をご提案いただきました。

アイ・ラーニングは、長年IT業界の教育・研修に携わっているので、最初に会話した際、まったく違和感なく課題を共有できました。他社の現状もお聞かせいただき「弊社だけの課題ではない」と納得できたのも大きかったです。IT業界に詳しくない通常の研修会社であれば、会話が噛み合わなかったかもしれないですね。

我々としても、今回の研修が正解かどうか確証を持てていませんでしたが、アイ・ラーニングと相談を重ねるなかで「試しに1回やってみよう」と決断し、2022年12月に第1回目の研修を実施しました。私自身も実際に研修の様子を見学させてもらいました。

また、研修後に受講者から感想を聞いたところ、「これまで経験して来なかったことを学べた」「講師の方が一人ひとりに気づきを与えてくれた」と、軒並み高評価でした。それを受けて、ぜひ横展開すべきという結論になり、2023年の年末に第2回目、3回目の実施に至りました。

研修の実施効果

――富永様は第3回目を受講されました。研修の内容について聞かせてください。

BIPROGY株式会社富永様

富永氏:研修は日程の間隔を空けた計3日間で実施されました。研修対象者は16名、1チーム4名に分かれて受講しました。受講者は、自分も含めて第一線で働いているエンジニアばかりでしたね。

研修の内容は、最初に講師の方から営業スキルの基本的な知識を座学で教えていただきましたが、それ以降の大部分の時間は実践的なロールプレイでした。具体的には、架空の企業を設定し、受講者はその企業の情報を収集し、受領したRFP(提案依頼書)に基づいてお客様にヒアリングします。

ヒアリングは、実際の応接室のような場所を用意して行なわれます。講師とは別で、お客様の担当者役・部長役など、さまざまなタイプのお客様役が設けられ、現実さながらの態度で接してきます。

初回ヒアリングで課題を把握して、次回の研修までに解決方法を提案書としてまとめます。いきなりお客様へ提案するのではなく、上司役の人にレビューをもらう場面も設定され、レビューでいただいた指摘やアドバイスを反映した内容で、お客様への最終プレゼンを行ないます。座学で得た知識をリアルに近い形ですぐに実践できた点も、スキル定着に効果的だったと感じています。

我々のような技術者は、新人研修の際にマナー研修を受けたきり、その後はもっぱら技術力を身に付けるキャリアを歩みます。あらためて営業としての振る舞いや考え方を勉強する機会は皆無ですから、受講者は不安や心配が大きかったと思います。講師の方は、その気持ちを受け止めて、一人ひとりの意見に耳を傾け、尊重する雰囲気づくりをしてくれました。心理的安全性の高い状態でなければロールプレイも安心してできませんので、そうした空気づくりも素晴らしかったですね。

――研修を受けられて、どういった点に気づきがありましたか。苦労された点やご自身の課題として残ったことなどもお聞かせください。

富永氏:限られた時間のなかでお客様の課題を特定することの難しさと、ヒアリングでの優先順位の設定です。また、お客様のご発言の裏にある想いや、真意を読み解く力が求められることも大きな学びでした。

例えば、お客様の真の課題が会社の中期経営計画に掲げる数値目標の達成だった場合、達成できなければ立場が危うくなります。そうしたお客様の危機感をヒアリングで汲み取り、最適な提案に結びつけられるかが難しいところでした。中期経営計画の重点施策からロジックツリーなどを使って分解し、論理的に説明できなければ、お客様に響きません。

正直にいえば、これまでお客様に説明するにあたり、事前に中期経営計画を確認するような準備はしていませんでした。研修を通じて、従来のエンジニアの思考から脱却し、より課題解決型のエンジニアにならなければならない、と痛感しました。

――課題解決型のエンジニアを志向されるようになった点は、研修の大きな効果ですね。

馬場氏:これまで我々技術者は、どちらかといえば営業部門に「連れて行かれる」場合が多かったのです。お客様の情報も営業から共有してもらうことが当たり前でした。それが、今回の研修後のアンケートに「自らお客様の情報収集を心がけるようになった」というコメントがありました。

これは、お客様と対話するうえで欠かせないことだと思います。要は、お客様の立場で考える、という姿勢ですね。自分たちのプロダクトの押し付けになってはいけません。自分の理解が正しいかどうかわからなくても、自発的にお客様を知ろうとするマインドが芽生えたことは、大きな変化だと感じます。

――ほかにも、研修のなかで印象的だったことを、可能な範囲で共有いただけますでしょうか。

富永氏:講師の方の「仮説を立てて提案に臨まないとスピード感が出ない」というお話が印象的でした。

プロダクトやサービスの説明に終始するのではなく、「おそらくこういう課題をお持ちなので、こういう使い方をしたらいかがでしょうか?」と仮説を初回提案時に投げかけてみる。そうしたアプローチができなければ、次の提案にはつながらない時代になっている、と。

また、研修の振り返りのなかで、受講者の「今までは営業についていくスタイルだったけれど、これからは自分が率先してお客様に会いに行く」というコメントも印象深いものでした。

馬場氏:すでに受講者の行動の変化を感じています。行動が変われば成果につながりますので、元に戻ってしまわないように注意しなければなりませんし、変化を持続させるためのサポートは、我々マネジメントの役割だと考えています。

今回のセールスエンジニア研修は評判が良く、受講者は「技術者全員が受けてほしい」というくらいです。研修に対して辛口な人間も多いのですが、今回の研修はそれほど効果を実感できているという表れですね。

今後の展望

――今回実施された研修以外に、ご興味のある研修などがありましたら聞かせてください。

馬場氏:BIPROGYでは、人事制度においてROLES(ロールズ)を取り入れています。ROLESとは「業務遂行における役割」を指し、人的資本の種類・質・量を可視化する概念です。

今後、サービスビジネスを加速させるために、「エバンジェリスト」のROLESを育てたいと考えています。なぜなら、サービスビジネスの立ち上げの時期でこそ認知度が低くて当然ですが、サービスの理念やそのサービスがどのように社会課題の解決に結びつくのかを提唱することで認知度を向上させるケイパビリティが、今後の技術部門には求められるからです。

また、サービスの事業化にあたり、お客様の課題を特定して解決するための企画・立案プロセスを整える「プランナー」の存在も必要だと考えています。

馬場様と富永様

社会課題を解決するビジネスエコシステム形成のために

――今後、社会課題の解決のためにデジタルテクノロジーの果たす役割は大きくなり、ビジネスエコシステム形成のため、テクノロジーサービス部門のケイパビリティの更なる強化が求められそうです。また、貴社に限らず、エンジニアのケイパビリティ強化の重要性が増すと思います。研修の気づきを踏まえ、他社へのアドバイスをお願いできますか?

富永氏:今回の研修では、お客様と対話をして課題解決に取り組むことで、エンジニアとしての自分の仕事がどのようにお客様の役に立っていて、ひいては社会課題の解決に結びついているのかを気づかせてもらえたと感じています。

技術者は自分たちの開発する技術が、どのようなお客様でどう使われるのが最適なのか、常に考えなくてはいけません。その基本を見つめ直す良い機会になると思いますし、お客様や社会に貢献しているという気づきはモチベーションアップにもつながります。

そうした意味では、我々のようなICTサービス企業に限らず、ものづくりに携わる企業全般に幅広く推奨できる研修だと思います。

馬場氏:セールスエンジニアとしてのケイパビリティは、弊社特有の課題ではなく、すべての企業でも必要ではないかと思っています。

多くのICTサービス企業の役割は、お客様のご要望に基づきコンピュータシステムを受託開発し、実装することでした。しかしながら、今後はお客様とともにビジネスを生み出し、お客様と事業の「共創」を通じて、お客様の事業に貢献するといった役割にシフトします。

そうした変化のなか、ICT技術に携わる企業には、お客様と対話するケイパビリティが必要不可欠になります。

会社にはさまざまな職種がありますが、どんな職種であっても仕事やプロダクトをより良くするために自ら見直し、改善していく思考が大事です。エンジニアがお客様の本質的な課題を理解する能力を身に付けることは、仕事の幅を広げてくれますし、価値の向上にもつながると考えています。

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