全社で実践 プロジェクトマネジメント研修事例:オリンパス株式会社
2023.01.01育成事例プロジェクトマネジメントを全社の共通言語に!実践的な研修で企業文化変革を推進
事例概要
【課題や背景】
- IoT/ICT/AIに代表されるネットワーク時代への変化に伴い顧客価値も変化し、製品のシステム規模拡大が急激に進んだ
- 磐石と見られがちなオリンパスの医療事業でも例に漏れることなく、時代の変化に適応させるものづくり体制を整えることが喫緊の課題であった
【人材育成による改善】
プロジェクトマネジメント手法を全社の共通言語にすることが重要と認識。社員に定着化させるために、アイ・ラーニングの実績・経験に基づいた実践的な研修を10年以上にわたり実施。部門問わず約1,500名にプロジェクトマネジメント研修を実施し、企業文化の変革を推進。
導入前の背景・課題
顧客価値に合わせて変わる必要があった
オリンパスは、医療分野において堅調なビジネスを展開している。しかし、プロジェクトがすべてうまくいっていたわけではないとRD 開発サポート部 課長代理の永住氏は言う。「過去は、開発者の生産性が悪いためのロスが生じており、計画通りに進んでいないプロジェクトもあった。また、プロジェクトマネジメントの考え方に反し、希望的な完了日だけを決められて、後は現場が頑張るという根性論で進めている部分もあった」と振り返った。
特に医療事業では、高いマーケットシェアを有する内視鏡分野が故に変化の荒波にさらされない状況が続いていたようだ。永住氏によると「時代の流れに伴い内視鏡システムは大きくなり、つながるものが増え、影響する範囲も広がってきたため、人の努力に頼るやり方ではうまく進まなくなってきた」と、荒波にさらされる大きな問題へと発展する懸念を抱くようになっていたと言う。
展開のポイント
プロジェクトマネジメント浸透の難しさ
そこで、プロジェクトマネジメントの考え方を浸透させていくことになったが、一筋縄ではいかなかったようだ。プロジェクトマネジメントの重要性を訴えても、なかなか認めてもらえない。さらに、現場からは「理想論だ」「実際に適用は難しい」など否定的な意見も多く、浸透させるのは困難な状況となっていた。そうした中でも現場ではとにかく手を動かせと言われ、メンバーは日々必死に業務をこなしていたが、現実的にはプロジェクトの遅れや品質問題が生じ、プロジェクトマネジメントの必要性を感じる人が徐々に増えてきていたという。
実践的なプロジェクトマネジメント研修の実施
オリンパスでは元々、プロジェクトマネジメントの研修は行っていたが、基本的には知識だけであり、実践には活かせていなかった。そこで、国内でプロジェクトマネジメント研修の実績・経験が豊富だったアイ・ラーニングへオーダーメイドでチューニングした研修を依頼し、より実践的で定着させることを目指した。 まずは、プロジェクトマネジメントが必要だと考えている部門からリーダー層を対象に研修を開始した。ところが次第に、リーダーだけ分かっていても全体で用語が理解できないと実際には浸透していかないことが分かり、リーダー以外のメンバーにも受講するように広げていったという。
また、主に開発のリーダー層に対しては、実際の製品図面や写真を例に使い、リアリティを出して実施。1 年目は話が合いやすいように部署毎に6 人チームで実施したが、逆に他の部署の話も聞きたいという声が多く出てきたため、2 年目からは部署を超えた混合チームで実施することになった。実施するたびに受講者や上長の受け止め方を確認して、理解度を上げるような工夫も重ねていった。永住氏は、「まずはプロジェクトマネジメントを推進する味方を増やしたかった」と言うように、最初はなかなか定着しないことに歯痒さを感じていたようだ。実際、最初の頃はプロジェクトマネジメント手法の導入に対し開発現場の理解が進まないことから、受講者の数は増えるがなかなか浸透しなかったという。
展開後の成果
プロジェクトマネジメントの浸透
この“プロジェクトマネジメント”という手法(PMBOK®) が徐々に浸透していくと、「こうやればいいんだ」「これで開発がうまくいく」と段々に実感する人が増え、年々受講者も増えていったという。共通言語として、開発部門だけではなく、マーケティング部門や営業部門も受講していき、すでに約1,500 人がリーダー層向けの研修を受講。メンバー向けも含めると、のべ3,400 人ほどが受講している。受講の主たる開発者に限れば、プロジェクトマネジメントがかなりの共通言語になっていることが分かる。実に10 年以上にわたり続けてきた、プロジェクトマネジメント研修の成果ではないだろうか。そして、これが好循環につながることも容易に想像できる。
PM 人材強化推進担当部長の脇氏によると、「特に、現場で問題や課題を感じている人のほうが真剣に学び、定着率も高い」と言う。「忙しくて困っている人ほど研修を受講し、解決策を見つけ出したいと考えている」とのこと。
現在と今後の展開
全国の製造部門にもPMBOK® を展開
オリンパスは、事業運営をマトリックス化することで、プロジェクト体制が基本となった。そのため、ますますプロジェクトマネジメントの重要性は高まり、現在はその実践を推し進めている。開発と製造現場に壁ができないように、全国の工場(製造現場)にも受けてもらえるように展開するという。「今は、製品やサービスを最初から開発・営業・マーケ・製造が一緒のチームで企画することも多く、共通言語をさらに広げる必要がある」。
永住氏は最後に、「PMBOK® を共有できる仲間を増やすことが一番大事」と言う。「昔は仕事の段取りをきちんと教わることはなく、人の背中を見て学 ぶしかない時代だったが、今は研修を受けた人の割合が増えたことで、会社としてPMBOK® が標準になってきている」。特に若い人は現実的で、根性論よりロジカルに進めることに肯定的とも。今後様々なプロジェクトが発生する中で、継続的に育成を続けていくことが大事と締めくくった。
インタビューを終えて
デジタルトランスフォーメーションの時代において、仕事はますますプロジェクト化し、デジタル化に伴いあらゆるモノとつながる中で、属人的なやり方や過去の成功体験だけでは通用しなくなってきている。その意味においても、同社がプロジェクトマネジメントを継続的に推し進める意義は大きい。業績の伸びも、このプロジェクトマネジメントに下支えされていると言っても過言ではないだろう。
永住 英夫(ながずみ ひでお)氏
オリンパス株式会社 技術開発部門 技術開発統括本部 RD 開発サポート部 課長代理
医療機器開発、全社の人材育成を経て、 技術者の人材育成を担当。 主にPM の育成に力を入れている。
脇 光司(わき みつじ)氏
オリンパス株式会社
技術開発部門 技術開発統括本部 PM 人材強化推進担当部長
技術職からプロジェクトでの様々な課題を 感じ、開発経験を活かしたプロジェクトマネ ジメントを広めるべく現在の部署へ異動。