AI、IoT時代のDX人材育成教育 研修事例:キヤノン株式会社

2023.01.01育成事例
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ソフトウェア開発力やDX力を高めるために技術研修を強化、社員に活躍の機会を創出

事例概要

 

課題や背景

  • プロダクトのソフトウェア志向や AI、IoT 時代の到来を受け、ソフトウェア開発力や DX 力を高める重要性を認識、技術研修強化に乗り出した
  • 社内にも高い DX 力を持つ事業部はあり、そのスキルを横展開する計画があるが、当該事業部は本業で多忙であるため、なかなか研修に時間が割けない

人材育成による改善

AI、IoTの時代を迎え、AIの活用による製品の差別化、製造現場でのIoT 対応など、ソフトウェア開発の需要が拡大 していると認識。そのためキヤノンでは、ソフトウェア技術者を育成する研修施設「CIST(Canon Institute of Software Technology)」を設立。新入社員や職種転換者向けの講座をはじめ、スキルアップ研修、事業を牽引するトップレベルのエンジニア育成まで、充実したカリキュラムを展開している。

導入前の背景・課題

高まり続けるソフトウェア開発力の重要性

近年、あらゆるプロダクトでソフトウェア志向が高まっている。キヤノンの生み出すカメラや産業機器、医療機器といった分野も例外ではなく、競争優位を維持するためにソフトウェア開発力を高めることが重要と同社は実感。東京・大田区の本社敷地内にソフトウェア技術者を育成する研修センターを立ち上げた。岡部哲夫氏はこのセンターのソフトウェア技術人材開発における統括責任者だ。 時代が変化する中、技術研修は実施が年々難しくなっていると岡部氏は語る。大きく 2つ理由があるという。1つは、「新しい技術への対応」だ。たとえばクラウドの API 化といった技術は日々変化していく。これを研修カリキュラムの中にどう盛りこんでいくか。また、もう1つは「研修内容と効率の両立」だ。AI の機械学習を例に取ると、理論から理解しようとするなら、最適化問題や統計数学などといった科目も必要になり、3~4 年はかかる。「レベルの高い技術者を養成しようとするほど手をかける必要がある」のが悩ましいと、岡部氏は語る。

展開のポイント

キヤノン技術研修体系の一角を担うアイ・ラーニング

キヤノンは以前からアイ・ラーニングを利用しており、もともとは組み込みソフトウェア分野の新人研修を担当してきた。現在、この研修は社内講師が受け持つようになったが、新人技術者が学んでおきたいアルゴリズムなどといった基礎的なカリキュラムについては、引き続きアイ・ラーニングの講師が教壇に立っている。また新しい技術に強いというのも大きな評価ポイントだ。同社では、全社的な DX 推進において、DX に強い事業部がその技術やナレッジを社内に横展開するといった施策を取っている。しかし、当該事業部は本業で激烈に忙しく、研修のためになかなか時間が確保できない。そこで、たとえばデータサイエンスであれば、基礎的な領域をアイ・ラーニングが担っているのだ。

「講師の質」と「企画力の高さ」を評価

なぜアイ・ラーニングなのか。岡部氏はまず、講師の質が高いことを挙げる。「ベテランの方が多く、引き出しが深い。研修生から何を聞かれても適切に答えてくれる。社内講師が白旗を上げるほど」だと言う。社内講師の質がことさら低いわけではない。たとえば C 言語を例に取ると、日常の開発で経験しているだけにナレッジは豊富で、一般的な技術研修講師以上の水準を満たしている。その彼らがかなわないと感じるレベル。実は、そうした社内講師を育成したのもアイ・ラーニング講師だったということもあり、“講師の講師”たる実力を有していることが、キヤノンがアイ・ラーニングに技術研修協力を要請し続ける理由の一つとなっている。

もう 1 点は「企画力がすばらしい」ことであるという。「『こういった研修を実施したいんだけど』と相談すると、研修カリキュラムとしてまとめあげて持ってきてくれる」と岡部氏は高く評価。アイ・ラーニングは頼りになるパートナーの役割を果たしている。

展開後の成果

「学び直し」で社員に活躍の機会、会社にはイノベーションの機会

キヤノンには、会長の提案に端を発した「100年ライフ」という考え方がある。人生100年時代、学生のときに勉強したことのみで仕事を続ける必要はなく、望むのであれば新たに勉強をして、その知識をもとに違う仕事をすればよいというのがその主旨だ。そこで考案されたのが「研修型キャリアマッチング制度」。これは、専門・専攻にとらわれず、自らの可能性を切り拓くべく、新たな領域にチャレンジしたいと手を挙げた社員のために研修機会を提供するものだ。これにより、たとえばこれまで電気技術に携わってきた中堅技術者が、ソフトウェア研修を受講したのち、システムエンジニアとしてソリューション開発分野で活躍するといったことが実現している。

現在と今後の展開

DX力・ソフト開発力はソリューション提供のために

コロナ禍は、キヤノンの技術研修にも大きな影響を及ぼした。緊急事態宣言が出た当初は、さすがに空白期間が生じてしまったという。しかし、上で見たように同社には研修型キャリアマッチング制度があり、応募は引き続きやって来る。そのモチベーションを下げたくないと、早くも翌月には再開。研修を終了しなければ、その分、彼らの異動が遅れてしまう。そのような事態を避けたい思いもあった。

ただ、技術研修は誰かが書いたコードをみんなでワイガヤでレビューするといった点が特徴で、簡単にオンライン化はできない。そのため、引き続き集合研修を実施。ホワイトボードやペンをこまめに消毒したり、書記を決めたり、お互い近づきないように注意したり、ホワイトボードではなくプロジェクターに切り換えたり、ありとあらゆる工夫を行ったそうだ。現在は少しずつオンライン化も進めており、テレワーク環境でも利用できる研修システムを導入中だという。

今後、同社が力を入れていく分野として、「クラウド」「AI」「データサイエンス」の3つを挙げた。この先研修として新たに立ち上げていくのもこれらの領域だ。「プロダクトがソフトウェア寄りになり、ソリューション提供が主流となる中で、DX やこれらのテクノロジーを深く理解してこそ、いろいろな企業に提案もでき、仕事を一緒に進めていける」と、岡部氏は言葉に力をこめていた。

インタビューを終えて

ソフトウェア技術者育成専門の研修施設を立ち上げたという点に、大きな覚悟を感じた。それだけプロダクトのソフトウェア志向が進んでいるということで、キヤノンは今の時代に即応するという決意のあらわれでもある。同社はまた、非常に網羅的な人事研修制度を有していることでも知られ、「自ら成長する意欲」を持った社員を積極的に支援している。DX人材育成教育研修もその一環であり、「共生」理念の下、社員を生涯大切に育て続ける企業であることを改めて認識した。


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