人的資本経営とは?注目の理由・開示・実践のポイントなどを解説
2023.08.23ビジネス
従業員の技能や資質などを企業の資本と捉え、戦略的に投資・運用する「人的資本経営」が、注目を集めています。今回は、競争力の維持などのため必須とも言える、人的資本経営のポイントや対応すべきことなどを確認してみましょう。
人的資本経営とは
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉える考え方です。以下の通り、従来型の人材を「資源」として捉える考え方とは対照的な、新しいあり方と言えます。
人的資本経営と従来型の経営の比較 | ||
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人的資本経営 | 従来型の経営 | |
人材の捉え方 | 投資対象 | コスト |
人事と経営戦略 | 連動する | 連動しない |
人材の運用主体 | 経営陣 | 人事部 |
ここでは、そもそも人的資本とは何か、人的資本経営は従来型の経営と何が異なるのかを見ていきましょう。
そもそも人的資本とは
人的資本とは、無形資本の一種で、従業員の技能・資質・経験・意欲などのことです。無形資本には他に、知的財産権・ブランド・ノウハウ・ステークホルダーとのつながりなどが含まれます。
このような従業員の知識や技能・資質などの能力を経営戦略において、知的財産権などと同様に資本として活用するのが、人的資本経営です。
人的資本経営では、これまでの経営と何が変わるのか?
人的資本経営と、従来の経営との最大の違いは、「人材の運用を人事任せにしないこと」と言えるでしょう。
人材を無形資本として経営に活かすには、経営戦略と連動した人材戦略を立て、従業員の育成や採用を戦略的に行う必要があるからです。そのためには、経営者自身が人材の運用・管理に関わっていくことが欠かせません。
人的資本経営が注目される3つの理由
人的資本経営は、人的資本の開示が義務付けられている大企業だけが取り組むべきものと思われがちですが、中小企業にとっても他人事とは言えません。
経済産業省の中小企業庁が公表している「中小企業白書2022」では、87%もの企業が重視する経営課題を「人材」であると回答していることから分かる通り、人材の質は中小企業にとっても大きな問題であるためです。
ここでは、人的資本経営が注目される3つの理由をご紹介します。
- 他社との差別化をはかり、競争力を維持するため
- 働き方の多様化
- ESG投資の浸透
他社との差別化を図り、競争力を維持するため
他社との差別化を図り、競争力を維持するためには、人材の戦略的な育成・運用が欠かせません。そこで、人的資本経営が注目されています。
AIやビッグデータの活用が進む中、他社との差別化を図るには、従業員による独自性のある発想や提案が欠かせないからです。
働き方の多様化

働き方が多様化していることも、人的資本経営が注目される理由の1つと言えます。人的資本経営における戦略的な取り組みには、従業員が働きやすい環境づくりや、従業員のスキルアップなどが含まれているからです。
多様化する中でも、優秀な人材を確保する上で人的資本経営は重要なポイントとなるのです。
ESG投資の浸透
「環境(Environment)」「社会(Social)」「経営の管理体制(Governance)」を重視して投資先を判断するESG投資の浸透も、人的資本経営が注目される大きな理由です。
ESG投資においては、人材を含む無形資産の状況も大きな評価ポイントとなります。そのため、人的資本経営に取り組むことで投資家へのアピールができます。
企業には人的資本経営の開示と実践が求められる
人的資本経営に関して企業が求められるのは、人的資本経営に関する情報開示と実践の2つです。両者の概要を見ておきましょう。
人的資本経営に関して、具体的に企業が求められること2つ | |
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人的資本経営に関する情報開示 |
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人的資本経営の実践 |
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人的資本経営の開示のポイント3つ
人的資本経営の開示に関して、押さえておくべき基本のポイントは3つあります。
- 4つの要素について開示する
- 経営戦略との関わりを明確にして開示する
- できるところから開示する
内閣府「人的資本可視化指針」を参考に詳しく説明しますので、参考にしてみてください。
4つの要素について開示する
人的資本について開示する際は、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの視点から、行う必要があります。
人的資本開示の4つの要素 | |
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ガバナンス |
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戦略 |
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リスク管理 |
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指標と目標 |
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上記の視点から情報を整理して公開することで、投資家に自社の強みを効果的にアピールしやすくなるでしょう。
経営戦略との関わりを明確にして開示する
人的資本を開示するときは、経営戦略とどう関連するのかを投資家にも分かるように説明しましょう。
経営戦略の実現に向けて、「人材をどのように活用しているのか」または「これから、どのように活用しようとしているのか」というビジョンを投資家は重視しているからです。
データや成果を示すことに終始し、企業の理念やビジョンとの関係性が不明確にならないように注意してください。
できるところから開示する
人的資本は「できるところから開示する」を念頭に、整理できたところから徐々に開示を進めていきましょう。
完成させることにこだわるあまり、開示の時期が後ろ倒しになってしまっては投資家への印象を高められなくなるからです。
できたところから開示してみて、フィードバックを受けて充実させていくといったスタンスで取り組みを進めましょう。
人的資本経営を実践するため行うべき取り組み例3つ
人的資本経営を実践するためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。 ここでは、経済産業省が公表している「人材版伊藤レポート2.0」を踏まえて取り組みの一例をご紹介します。
経営戦略と人材戦略を連動させる
人的資本経営を行うには、経営戦略と人材戦略を連動させることが欠かせません。両者を連動させるには、経営陣の一員として人材戦略を検討するCHROを設置し、CHROが中心となって人材に関する課題や連動の方向性などを検討していくことが有効です。
KPIを設定する

人的資本経営を成功させるには、KPIを設定する必要があります。具体的な目標があることで、精度の高い人材戦略を立てられることに加え、投資家への情報開示時にも説得力が出るためです。
経営戦略と連動させるためにも、KPIは他社の動向に左右されず、自社の強みや課題解決に関連の深い独自の項目を設定しましょう。
企業文化に定着させる
人的資本経営を軌道に乗せるには、人材に戦略的に投資するあり方を企業文化として定着させる必要があります。そのため、企業理念を再定義するとともに従業員に対するITスキル・ビジネススキル習得のための企業研修実施や、それらに関する資格取得などが欠かせません。
戦略的な人材運用を定着させて初めて、持続的な企業価値の向上が実現できるでしょう。
まとめ
戦略的に人材へ投資し、経営戦略と連動させて運用する人的資本経営は、今後企業の競争力を高める上で欠かせない考え方です。今回ご紹介した基本的なポイントを参考に、経営戦略と人材戦略の連動から着手してみてはいかがでしょうか。
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