【メタエンジニアの戯言】ますます「考えない」世界へ

2024.09.10松林弘治の連載コラム
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突然ですが、映画「燃えよドラゴン」の有名なセリフ「Don’t Think. Feel!」がありますよね。そのまま「考えるな、感じろ!」と訳されることもありますが、これは「何も考えずに行動だけしろ」という意味が込められていたのでしょうか。

むしろ、厳しい自己鍛錬と深い思考のもと、試行錯誤を経て経験値を高めたその先に、自らの感性を研ぎ澄ませて既成概念に囚われなくなることの重要性を説いたもの…と私は理解しています(さまざまな解釈が可能であるとは思いますが)。


学校教育における鉄板の議論ネタとして「掛け算の順序問題」と並び著名なものに「『みはじ』(または『きはじ』)論争」があります。「み」(道のり)または「き」(距離)、「は」(速さ)、「じ」(時間)、の関係をT字で区切った円に当てはめて覚えるものです。

「みはじ」を使った学習の是非については、さまざまな立場の方により意見が分かれ続けていますが、否定的な意見の多くに共通しているのは「意味も分からず、生活の中での実感と結びつくこともなく、盲目的にあてはめること」の弊害を指摘している点、といえそうです。

いわゆる「公式」と呼ばれるもの一般に当てはまるかと思いますが、「考え抜き、その公式の意味するところが自分なりに咀嚼できた上で、計算の時間短縮のために活用する」のが理想であって、「やみくもにあてはめて(よく分かってないけど)正解が出せている」ことで良しとするのは、「学び」の観点から本当は望ましくない、私もそう思う一人です。

私自身は、「丸暗記」や「単純記憶」が非常に苦手で、公式ですら覚えるのに苦労した一方で、意味やストーリーが付随していれば特に苦労しなかったので、テスト中に公式をその場で算出したりしていました(笑) 確かに「暗記が得意だったら…」とよく思ったものです。


「考える・考えない」に関連して、もうひとつ思い出したのが、スポーツでの素振りやティーバッティングといった反復練習です。いくら回数を重ね時間を費やしても、何も考えずに漫然と体を動かしているだけでは、疲れるだけで一向に上達しない、そんな実体験をお持ちの方もいるでしょう。しかし、身体の運動連関などひとつひとつに心を配り、自撮りした映像を見返し、考えながら取り組めば、最大限の上達が見込めると考えられます。

「考え抜き試行錯誤した上で」体に覚え込ませれば、最後は何も考えなくても自然に望ましい動きができるようになる、という点で、公式と類似の話であろうと思っています。


そもそも人間は「楽をしたい」生き物です。コンピュータ技術の世界でも自動化技術はそうやって生まれ発展してきました。人間は感情に左右されますしミスだって犯しますが、コンピュータは(正しくコードが書かれている限りにおいて)超高速でミスなく遂行してくれます。

その自動化コードを設計し書いた人は、理屈を理解した上で書いていますが、自動化によってサービスを利用している人の多くは、中の仕組みを知らずして便利さを享受できます。

それはいいのですが、もし年月が経ち、その自動化ソリューションを改修したり機能追加しようとしたときに、中の理屈を理解できる人がいなくなっていたとしたらどうなるでしょうか。


当該コラムでもことあるごとに触れてきた生成AI系の各種サービスやソリューション、私も仕事、趣味、日常生活の場で、便利さを享受しているひとりですが、その進化の早さには日々驚かされるばかりです。

生成AIの仕組みそのものの理解は非常に難解であるとしても、生成された回答をあくまで参考として、さらに自ら調べたり別ソースにあたったりしながら「考えた上で」活用されている方が多いでしょう。

しかし、面倒臭いからと何も考えずにコピペしてしまう人が増加してしまったら、そのような営みを我々人類が10年20年と続けてしまったとしたら、世の中は「考えない」人だらけになってしまったりしないだろうか、そんな不安に駆られる時があります。

とはいえ、レポート課題の丸写し提出、「10分でまとめた」的な動画をみただけでの読書感想文執筆、サイトからのプログラムコードの(何も考えずに)コピペ、本文を読まずに記事のタイトルだけ目にしての反射的な感想、など、以前から「考えずに楽する」行為を散々やらかしてきた(笑)我々人類ですから、今に始まった話ではないのでしょうが。


大変久しぶりに「燃えよドラゴン」を観て、「楽をする」と「考えない」は違うよなぁ、などなど、脈略なくあれこれ考えをめぐらせてしまった、そんなある日の夜でした。



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