【メタエンジニアの戯言】今年もまた小学生に多く教えられる

2024.07.10松林弘治の連載コラム
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地元の公立小学校で総合学習の授業を担当させてもらうようになって、今年で10年目となりました。

1クラスにつき延べ6時間、という限られた時間ですが、「プログラミング」という側面にこだわらず、コンピュータ科学の基礎やその歴史を絡めながら、みんなが当たり前に使っている情報機器や技術の背後にある人類の叡智の素晴らしさに少しでも気づいてもらい、ますます興味を持ってもらうことを主眼としています。

今年度の6年生向けには、「『情報』ってなんだろう」「通信の歴史」「情報の符号化・暗号化の歴史」などを裏テーマとしました。21世紀生まれのディジタルネイティブな小学生には縁のないであろう手旗信号やモールス信号、電報、ファックスなども紹介しつつ、「情報をつたえるということ」の奥深さを感じてもらえたら、と、GIGA端末上で動作するScratchも活用してさまざまなアクティビティを行いました。

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多くの児童が、前のめりになって授業に参加してくれ、合いの手を次々に入れてくれ、ワイワイガヤガヤと楽しく授業進行でき、本当に楽しいのですが、最も学びが多いのが、授業後に毎回提出してもらうアンケート(Google Forms による自由な感想)です。授業中には聞けなかったこと、担任の先生の目を気にして(笑)発言を躊躇してしまったこと、など、児童たちの素朴な疑問、純粋な質問が多く集まり、毎年多くの気づきや刺激をもらえ、次回の授業、さらには次年度の授業に活かすことができるからです。

以下、原文ママをランダムにピックアップします。

「昔縄文時代の頃は、遠い人に伝える時、どういう手段を使って会話をしていたのか、気になりました」

「インターネットのなかった時代はたくさん工夫していたりしていて大変だったんだなと思いました」

「なぜ、海底にケーブルが埋まっているのですか?そのケーブルは、何年ぐらいかけて行ったり、どれくらいの深さだったりするのか」

「どうして漢字のモールス信号はないのですか」

「コンピュータはプログラムの通りに動くので、このパソコン1台にはどのくらいのプログラムが仕込まれているのか気になりました」

「松林さんが小学6年生のときは、どんな生活をしていましたか」

「今は、AIが普及しているので、自分で言った言葉が、そのままプログラムにならないんですか」

「学校のタブレットを2020年よりもう少し前に配布することはできなかったのでしょうか」

これらひとつひとつの素朴な疑問について、もし実直に回答し児童と一緒に探究学習的に考えたり実践したりしようとしたら、1トピックにつき6時間あっても足りないくらいです。話したいこと、知って欲しいこと、興味をもって欲しいことなど、多くの背景と歴史が絡んできます。とはいえ、一部は次の授業でざっくり考えるヒントを出して児童のみんなとワイガヤしたりしました。

興味を喚起することができれば、無垢の好奇心でぶつかってきてくれる。一週間後に、自分なりに調べたことを嬉しそうに話にきてくれる児童もいる。中には「5年生の時の授業で言ってたあのゲーム、あれから時間をかけてこんな風に進化させてみたので遊んでみてください!」と言ってくれる児童もいたりする。このように、みんなから気付かされたり教えてもらったりすることだらけで、本当に楽しくて仕方がありません。

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同様に、いろんな開発現場で、エンジニア、非エンジニアを問わず、若手のメンバと交流する際にも、多くのことを教えられ、同時に多くの好奇心を喚起し、楽しく共同作業できる、というシーンがあります。特に、エンジニアと非エンジニアの間で仕事をする PM / PMO の立ち位置の若手の皆さんとの対話・協働は、本当に示唆に富むことだらけです。

「教育」は、「共に学び育む」の意の「共育」、そして、教師vs生徒や上司vs部下という関係性だけではない、「多様な立場・領域の連携による学び」の意の「協育」だなぁ、という原点を忘れず、これからも仕事の現場でより気持ちよくプロダクト開発ができるよう、より良いサービスが設計できるよう、取り組んでいきたい、そんな清々しい気持ちにさせられました。

某小学校の児童のみなさん、今年度も一緒に遊んでくれて、学んでくれて、多くのことを教えてくれて、本当にありがとう。

 


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