メタエンジニアの戯言 : i-Learning アイ・ラーニング

i-Learning 株式会社アイ・ラーニング



松林弘治のコラム メタエンジニアのの戯言

 2021年5月12日

vol.38「個別指導」最強説

私が現在取り組んでいる大きめの開発案件では、プロダクトオーナー側とも開発側とも連携しながら、よろず承り屋として充実した日々を送らせていただいています。この案件では、発注元である企業自らがプロダクトオーナーとして、いまや開発者(企業・個人)複合チームを主体的に取りまとめ、利用者への提供価値を吟味し、開発の方向性を定めた上で、エンジニアと切磋琢磨しながら日々「カイゼン」に努めておられます。

驚くべきことに、この企業は非IT系です。以前から社内に情報システム部がありましたが、内製部隊というよりは、かつては外注して開発された基幹業務システムや各種IT機器の運用保守などが主な業務だったはずです。それがいまや、アジャイル的・スクラム的な開発現場において、社外のエンジニアチームたちからも信頼を十分に得ており、皆気持ちよく開発を行う雰囲気が醸成されています。コロナ禍によるオンライン開発へと移行する前に、そのような関係性と信頼関係が構築できていたことも大きく、そこに微力ながら協力できたことは光栄です。

そんなプロダクトオーナーのひとりから数週間前、とある相談を受けました。曰く、この数年間で培かってきた「エンジニアチームとのやり取りに必要な基礎知識やスキル」を、今後の新入社員向けに研修パッケージとして構築したいので、相談に乗って欲しい、というものです。

彼は上述の情報システム部の一員ですが、大学では法学部に所属、コンピュータや開発などについて専門的に学んできたわけではないはずです。それでも、現在の仕事を通じて「生きた知識」を身につけ吸収してきた経緯があります。そして今回、さらに若い世代に還元していこうというわけです。しかも、上司から指示を受けたわけではなく、彼自身がこの研修パッケージ制作の重要性をプレゼンして上司にOKをもらったというのです。もうこれだけで全力で応援したくなるものです。

遠隔ミーティング週に1~2回、2時間ずつ、zoom を通じたミーティングがすでに数回行われてきました。基本的には彼が考える「非エンジニア職であっても基本的に理解しておくべき知識」を体系化し整理する作業になるのですが、その吸収の早さ、そして溢れんばかりの知識欲には毎回驚かされます。私ともう一人のエンジニアが、彼が若干理解が追いついていないキーワードや概念を噛み砕いて説明してあげると、靄が晴れたかのような清々しい反応が返ってきます。自分にとっても、教えたり知識共有する楽しさがあります。

そんな充実の「打ち合わせ」と銘打った勉強会ですが、雑談タイムの時に「これっていわゆる個別指導だよね」という話題になりました。いわゆる社員研修や、教育機関における一斉講義・授業とは異なり、学ぼうとしている人が一人いて、その人の現在の理解レベルや興味の方向性などにあわせ、その場で即興的に教え方をカスタマイズしながら進めるスタイルです。

このスタイルは、教える側からすると本当にやりやすいものです。学ぶ側が何を考え、いまどこで悩み、どこまで理解できているか、をリアルタイムなフィードバックとして感じ取れるので、教える側もそれにあわせてより効果的な伝え方・表現方法を(なかば無意識に)試行錯誤で取り入れやすいのです。学ぶ側対教える側、という分け方ではなく、むしろ共同作業の様な趣もあります。

自分達にとって最大の発見だったのは、こういう個別指導的な学びの場合、オンラインであることがほとんどデメリットになっていない、ということでした。オンラインと言ってもビデオはオフ、資料の画面を共有しながらのボイスチャット状態ですが、それでももどかしさや「痒いところに手が届かない」感は全くありません。

一方、ある一定数以上の学習者を前にしたスタイルでは、対面ではなくオンライン形式だと、「何かしっくりこない」「うまく伝えられているか、理解してもらえたのか、コミュニケーション出来ているか、不安になる」などと思ってしまうのに、です。そういう意味で「個別指導」は最強だなぁ、と改めて思いました(笑)

彼の考える最高の研修パッケージ作成に向けて、これからも全力で応援し協力していくつもりですが、「学び」という文脈で考える時、この「個別」の良さを、より多い人数に向けて行う際にどうやって生かせるか(あるいはどんな違う方法論があるか)、今後も自分なりに探求していきたいと思った次第です。

松林 弘治 / リズマニング代表
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。