リスキリングとは?言葉の意味と実施時の注意点を解説

2023.08.25IT
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リスキリングとは?言葉の意味と実施時の注意点を解説

近年ビジネスシーンでよく耳にする「リスキリング」という言葉。経済産業省でもDX推進に絡める形で提唱されている、人材育成の1つの形です。
今回は、リスキリングという言葉の概要や類似した教育手法との違い、急速な普及にともなう社会的背景などをご紹介します。リスキリングに取り組む際の注意点やステップについても解説しますので、ぜひご参考にしてください。

リスキリングとは

リスキリングとは、英文の「Re-skilling」が基になった言葉です。日本語では「技能(スキル)の再習得」といったところになるでしょう。それまでとは異なる新しい仕事をするために必要な技術や技能を身につける、あるいは身につけさせることです。

英語圏では特に失業者に対する再教育の文脈で使われてきましたが、近年のリスキリングは、少しその意味が変わってきています。
DXやデジタル時代の到来が、ビジネスのスタイルや事業、サービスのあり方に大きな変化を迫っています。新しい職種や役割が生まれる一方で、これまでの仕事のなかには、需要が減少したり、今後なくなったりするものもあります。

近年のわが国においては、ビジネス変革にあわせた、新しい技能や技術の習得の必要性を強調する際に、リスキリングという言葉がよく使われます。 DXに対応するスキルの習得や、将来性のある新たなビジネスに就業するためのスキル習得を意味する用法が一般的です。

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングと類似する概念を持つ人材育成手法に「リカレント教育」があります。
リカレント教育の「リカレント(recurrent)」は、「循環/繰り返し」を意味します。従来、大学や専門学校を卒業したら引退するまで仕事を続ける働き方が一般的であったのに対して、社会人になってからも、任意のタイミングでいったん実務を離れ、主として専門の教育機関で学び直すことをリカレント教育といいます。
ビジネスのための外国語習得やMBAや士業などをはじめ、各種の資格取得のために大学や専門学校で学ぶというのが典型的なリカレント教育です。
個人のキャリア形成やライフスタイルの多様化とともにリカレント教育の有用性が唱えられることも多く、働き方や生き方の幅を広げるといった文脈でも注目されています。
これに対しリスキリングは、新しい「スキル(skill)」を身につけるという観点が強調されます。
またリスキリングの場合、必ずしも実務を離れるとは限らず、職場にとどまって働きながら学ぶことも少なくありません。

リスキリングとOJTの違い

OJTとは、On-the-Job Trainingすなわち職場で仕事を行いながら、先輩社員などのトレーナーから仕事を学ぶ教育のことを指します。 OJTの目的は、既に企業や業界内で確立されている既存の業務を身につける/身につけさせることです。
リスキリングとOJTでは、そもそも教育の目的が異なります。両者に優劣はありません。具体的な違いとしては、OJTは既存のノウハウによって社内で教育を行えますが、リスキリングの場合、求めるスキルによっては、社外リソースを用いた教育の方が適しているケースがあります。ビジネス変革によって生まれるニーズに対応するにも、社内に先行事例が見当たらないことが珍しくありません。

リスキリングが急速に広まっている背景

国内ビジネスにおいてリスキリングの認知度が急速に上がり、普及が進んでいることにはどのような背景があるのでしょうか。

2018~2020年の「リスキリング革命」

リスキリングという言葉が知られるようになった大きな機会は、世界経済フォーラムが2018年から継続的に「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」の必要性を訴えてきたことがあげられます。

2018年1月のレポート『Towards a Reskilling Revolution』では、米国の労働市場に関する予測データをあげて旧来の職種から次の職種への移行の重要性を論じました。
2020年1月の年次総会(ダボス会議)では、「2030年までに世界中の10億人の人々のために、より良い教育、新しいスキル、より良い仕事の提供」を目的とした「リスキリング革命」構想の開始を宣言しました。この宣言以降、日本でもリスキリングへの注目度が急上昇しました。

リスキリングに関する内外の動向

2011~2013年ドイツで「インダストリー4.0」のコンセプトが提唱される
日本国内では「第四次産業革命」として同コンセプトへの注目や期待が高まる
2016年内閣府 第5期科学技術基本計画で「Society 5.0」として未来のデジタル化が進んだ社会像を示す
2018年経済産業省 『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を公表する
2018~2020年世界経済フォーラムで「リスキリング革命」構想が興る

世界経済フォーラムが「リスキリング革命」を宣言するに至った背景には、2000年代以降の世界におけるデジタル化の進展や第四次産業革命に代表される、グローバルに進行する劇的なテクノロジーや産業の変化があります。
わが国でもこれらの動きに即して、「Society 5.0」や「DXレポート」の公表など、変革の必要性がたびたび取り上げられてきたところに、ダボス会議の「リスキリング革命」が登場したことが認知度向上につながったのでしょう。

DX時代の到来

DX時代の到来

ご存じのとおり、日本国内でもDX推進の動きが強まっています。ビジネスシーンで活用されるテクノロジーの急速な変化やデジタル化を進めるグローバル企業との競争など、内外の環境変化が早急なDX化が求められる大きな要因と言えます。

人手減少を視野に入れた人材育成

超高齢化社会の到来を迎えて、今後は業種を問わず人材の新規採用に際しての難度が高くなっていきます。変革のための新しいスキルをもつ人材が必要になっても、安易に求人市場に求めることができません。それを踏まえると、これからは既存従業員の教育の重要性が高まります。
業務の生産性向上も求められるでしょう。今後もビジネスの規模や速度を維持しながら品質を高めるためには、リスキリングによる新たなスキル習得が欠かせません。

リスキリングの注意点

リスキリングの実践にあたっては、気をつけるべき点もあります。リスキリングを社内で活かすには、どのような注意点があるのでしょうか。

リスキリングの対象はIT技術者だけではない

リスキリングはDXへの対応に非常に有用な教育手法です。
しかし、そもそもDXの実現はIT技術者だけが行うものではありません。
営業担当者やマーケティング担当者など、さまざまな立場・部署の従業員がデジタル技術を活用し、変革に取り組むことがDXの推進には欠かせません。
それらの多様な従業員が新しいスキルを個人のレベルや状態に応じて学び、身につけることが必要です。

DXプロジェクトを推進するためのリスキリング

また、DX推進のプロジェクトを進めるにあたっては、プロジェクトのマネジメントのやり方にも大きな変化がともないます。実務を引っ張るプロジェクトマネージャーはもちろん、管理職にもその変化に対応するためのリスキリングが必要と言えます。
たとえば2000年代頃から、ITプロジェクトの世界では、従来型のプロジェクトマネジメント手法ではなく、アジャイル開発のアプローチが注目されるようになっています。
アジャイル開発は、変化の激しい時代に適応した方法であり、DX実現にも有用です。
これからDXに関わる管理職の方であれば、学んでおきたい基礎知識のひとつといえるでしょう。

従業員のモチベーション管理が重要

従業員のモチベーション管理が重要

IT技術者にとどまらずほとんどの従業員に必要なリスキリングですが、その必要性を従業員自身が感じていなければ求める効果が得られません。それどころか、不満が生じたり途中離脱につながったりする可能性も否定できないでしょう。
リスキリングの実践にあたっては、その意義や目的を丁寧かつ親身に説明し、教育の受け手のモチベーション向上も継続的に図っていかなければなりません。
新しいスキルの習得に関して、個人にとってのメリットを示すことがモチベーション向上につながります。キャリア形成や報酬など、短期から中長期的な効果を示すことなどが考えられます。
またリスキリングの過程においては、上司や管理職が状況を把握して適宜フィードバックすることもモチベーション維持に有効な方法です。

リスキリングのステップ例

リスキリングを進めるにあたって、まず必要となるのが目標の設定です。またそれとともに、現状有している知識とスキルの棚卸しを行うことや、新たな習得が必要な知識やスキルを洗い出すことも必ず行いましょう。
ここでは、リスキリングを行う上でのステップの一例を、ケース別にご紹介します。

(例1)ビジネスパーソンがデジタル人財を目指す場合

これまでIT以外のビジネスにあたっていた従業員がIT、AI(人工知能)、データサイエンスに関する知識・スキルを身につけるケースです。 この場合は、現在持っているスキルと新たに必要なスキルのギャップを明らかにしなければなりません。
スキルデータベースなどのツールがあればそれを活用して分析し、一人一人の現状を可視化すると良いでしょう。
その上で、それぞれに習得が必要な内容をはっきりさせておきます。このとき、たとえばIT分野であれば情報処理試験などの資格体系を目標設定に利用すると、ゴールとなるスキルセットが明確になります。AIやデータサイエンスに関するスキルも同様です。

その後、リスキリングのプログラムを作成しそれに基づいて教育を行っていきます。自社でプログラムを作ることができればベストですが、外部のリソースやプラットフォームなどを活用することも検討します。

一定の知識やスキルが身についたら、必ず実務で知識やスキルを活用できる場を与え、簡単な作業から実践的なビジネスへと段階的に拡大していきましょう。リスキリングにおいては、「習って終わり」にしない取り組みが大切です。 実験的なプロジェクトやプロトタイピングなど、試行錯誤が可能な取り組みがあると効果を発揮しやすいでしょう。

(例2)レガシーエンジニアがクラウドネイティブ開発を目指す場合

こちらは、もともと従来型の技術環境を対象として一定のITスキルを保有するメンバーに、まったく新しいIT教育を行うリスキリングのケースです。

基本的な教育のステップは、前項でご紹介した手法と同じです。まず、現状あるスキルや知識とこれから必要なものとのギャップを明確にし、リスキリングプログラムに基づいて教育を実践します。その上で、身につけた知識やスキルを現場のビジネスに段階的に活用していくという流れです。

クラウドネイティブという考え方のもとでアプリケーション開発を行うために必要となる、おもなITスキルには以下のようなものがあります。

  • クラウド基盤やプラットフォームに関する知識やスキル
  • クラウドベンダ各社のサービスに関する知識やスキル
  • クラウドに適したプログラミングに関する知識やスキル
  • クラウドに関わるセキュリティに関する知識やスキル
  • マイクロサービスなどのアーキテクチャ設計に関する知識やスキル
  • DevOpsやアジャイルに関する知識やスキル
  • 開発環境や運用環境に関する知識やスキル
  • DockerコンテナやKubernetesに関する知識やスキル など

クラウドネイティブとは、変化するビジネスニーズや環境に対応しやすい、柔軟かつ堅牢なシステムをクラウドで実現するための設計や開発、運用のアプローチのことです。 クラウドネイティブの実現には、クラウドが持つ特性を理解した上で、メリットを最大限に活用するための知識やスキルが欠かせません。 オンプレミスや従来型のシステム開発で得られた知識やスキルをベースにしながらも、それとは異なる方法論や技術についても通じておく必要があります。 さきほどあげた知識やスキルのカテゴリと、現有知識・スキルとのギャップを見極めて、適したリスキリングを行うことが、クラウドネイティブに対応したエンジニアになるために、求められるのです。

まとめ

新卒一括採用・年功序列型の人事制度が長年取り入れられてきた日本では、キャリアアップを目的とした再教育の機会が他国よりも少ないとの調査結果もあります。この状況からDXを早期に実現するには、ビジネスパーソンにもリスキリングなど新たな教育機会を設けることが必要でしょう。
今後は、社員教育へ積極的に投資する企業も増えていくと考えられます。この機会に自社の課題を洗い出し、人手不足の時代に備えて既存の人材をより活かす教育手法の導入を検討してはいかがでしょうか。

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