アジャイルコラム:アジャイルのDNAは日本にあり?!トヨタ生産方式との共通点を読み解く
2025.03.05アジャイル , お役立ち情報
近年、自動車業界では、AIテクノロジーの発展と共に自動運転が本格化していますね。世界各地のモーターショーなどのイベントでは、一昔前はSFの世界の話だった「未来のクルマ」が実現しつつあります。
さて、われらが日本のトヨタですが、「ジャスト・イン・タイム」や「かんばん方式」などの言葉を聞いたことがある方も多いのではと思います。ここには、高品質で競争力の高い製品を世に送り出してきたトヨタ自動車の、ノウハウやベストプラクティスが詰め込まれています。そして、これらは時代を超えて今も認められる価値として、呼び名を変え、形を変えGlobalに広まっています。
今回は「トヨタ生産方式」を改めて振り返り、実はそれがアジャイルの源流になっている点を考察したいと思います。
■トヨタ生産方式とは?
トヨタ生産方式(Toyota Production System, TPS)は、トヨタ自動車が開発した生産管理の方法で、世界中で広く知られています。この方式の目的は、ムダを徹底的に排除し、生産工程を最適化することで、効率的で高品質な生産を実現することにあります。
■基本思想
トヨタ生産方式は、以下の2つの基本思想を柱にしています。
- ジャスト・イン・タイム(Just-In-Time, JIT):
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- 必要なものを、必要な時に、必要なだけ生産することを目指します。これにより、在庫を最小限に抑え、効率的な生産を実現します。
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- 具体的には、部品や材料が必要なタイミングで供給されるように調整し、無駄な在庫や作業の停滞を防ぎます。
- 具体的には、部品や材料が必要なタイミングで供給されるように調整し、無駄な在庫や作業の停滞を防ぎます。
- 自働化(Jidoka):
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- 機械が異常を検知した際に自動で停止し、不良品の生産を防ぐ仕組みです。これにより、品質管理が強化されます。
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- これは単なる「自動化」ではなく、人間の知恵を取り入れた「自働化」であり、異常を検知すると自動で停止し、作業者が問題を解決できるようにします。この点から、漢字は「自動化」ではなく、ニンベンがついた「自働化」と表記します。
- これは単なる「自動化」ではなく、人間の知恵を取り入れた「自働化」であり、異常を検知すると自動で停止し、作業者が問題を解決できるようにします。この点から、漢字は「自動化」ではなく、ニンベンがついた「自働化」と表記します。
■具体的な手法
トヨタ生産方式には、以下のような具体的な手法が含まれます
- かんばん方式:
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- 生産指示カード(かんばん)を用いて、必要な部品を必要な時に供給するシステムです。これにより、在庫管理が効率化されます。
- 平準化(Heijunka):
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- 生産量を均等にすることで、作業負荷を平準化し、生産効率を向上させます。
- ポカヨケ(Poka-Yoke):
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- 作業ミスを防止するための仕組みや装置を導入し、不良品の発生を防ぎます。
- 改善(Kaizen):
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- 継続的な改善活動を通じて、生産プロセスの効率化と品質向上を図ります。
トヨタ生産方式は、効率的で高品質な生産を実現するための、有効性が実証された手法です。ムダを徹底的に排除し、必要なものを必要な時に生産することで、コスト削減と品質向上を両立させています。この方式は、トヨタ自動車だけでなく、世界中の多くの企業で採用され成功しています。
■トヨタ生産方式とアジャイルの共通点
では次に、トヨタ生産方式とアジャイルの共通点を見てみましょう。
1. 継続的改善(カイゼン)
トヨタ生産方式のカイゼンは、常にプロセスを改善し続けることを意味します。「品質改善活動」という形で、多くの企業が社内で「改善活動発表大会」などを開催しているのではないでしょうか。アジャイル開発でも、各イテレーションごとにプロセスの改善を図ることで、プロセス全体の効率と品質を継続的に向上させます。
例えば、アジャイル開発の1つの実践形態である「スクラム開発」では、「スプリント」を回す中で「スプリントレビュー」として、スプリントの継続的改善を実現していきます。
2. 無駄の排除
トヨタ生産方式では、無駄を徹底的に排除することが重視されます。アジャイル開発でも、非効率な作業を特定し、改善することで無駄を排除します。
例えば、無駄な「在庫をできる限り減らす」、というトヨタ生産方式の考え方は、アジャイルで「仕掛中を減らす」、「タスクを1つずつ完了させてから次にいく」という原則と通じています。
3. 自働化の活用
トヨタ生産方式の自働化原則と共通する点として、アジャイル開発ではテストやデプロイメントのプロセスを自動化することで、エラーを減らし効率を向上させます。アジャイルでは、何度もイテレーションを繰り返すテスト作業等を自働化することによって、インクリメントを順次大きく品質高く作りこんでいけます。そして自動化ツール自体を改善するなど、日々、開発環境自体も改善していきます。
「自働化」の漢字は、ニンベンがついた「働」であると前述しましたが、実はここがアジャイルに共通する考え方と思われます。一般的に、自動化すればするほどブラックボックス化し、問題が起こった場合に対処が難しくなります。しかし、トヨタの「自働化」は人が必ず介在してその動きを理解して対応することにより、自動化ツール任せ(丸投げ)をしません。単なる自動化ではなく、人の知見や判断が介在することにより、本質的な生産性向上・効率化や改善が実現できる仕組みとなっています。
4. 人間尊重
このトヨタ生産方式は、トヨタ・マネジメント方式(Toyota Management System, TMS)との関連も深く、もうひとつの注目すべき点として、人を大切にする「人間尊重」という考え方がベースにあります。これは、組織風土やマインドセット的な観点で、アジャイルの「自律型人材」や「心理的安全性」に繋がる点です。単に無駄の排除や効率化を徹底することだけを考えるのではなく、プロセスを実行するのは人であり、つまり「プロセスに魂を吹き込む」ことを大切にする考え方だと私は捉えています。
魂が入ったプロセスだからこそ、継続的な改善が可能となり、価値を創りこむことが可能となっていると思います。その背景には、人を大切にするマインドセットやカルチャーがあり、これは現代に通じるとても大切な本質であることに、私は時を超えた普遍的な価値を感じます。つまり、「プロセスは形だけを作っても(真似しても)意味がない」、という点でも、とても示唆深いポイントです。
■アジャイルの源流
このトヨタ生産方式は、「リーン」として体系化され、この「リーン」が、アジャイルの源流のひとつとなっています。他にも、日本人の論文がアジャイル誕生の礎となるなど、私たちの身近な価値がアジャイルの誕生に寄与しています。私自身、知れば知るほど身近な世界感を感じています。
つまり、『アジャイルのDNAは日本にあり』、です。

阿部 仁美 / 株式会社アイ・ラーニング
研修企画開発プロデューサー(専門分野:アジャイル&プロジェクトマネジメント)
Registered Scrum Master (RSM)®、Project Management Professional (PMP)®
日本アイ・ビー・エム株式会社にて、SW新製品開発/ITシステム開発のプロジェクト・マネジャー、プロジェクト・レビュー、および日本アイ・ビー・エム社全体のプロジェクト・マネジャーの育成・認定等に30年以上従事。情報処理推進機構(IPA)にて人材育成に携わった後、楽天モバイル株式会社にてPMO:新製品開発プロセス策定/強化に取り組む。2022年より現職。DXの構造における①ベンダー企業②官③事業会社の3つの視点の業務を経験。