ITリテラシーとは?DX推進企業におけるITリテラシー教育の重要性
2023.08.25IT昨今、「ITリテラシーの必要性」や「社員のITリテラシーの欠如によるトラブル」など、普段の会話にも上がるようになった「ITリテラシー」というキーワードですが、その正確なところは何を意味しているのか理解があいまいな人は多いです。また、企業においてDXの推進は必須の課題ですが、その推進にもITリテラシーは重要な役割を果たします。
今回は、ITリテラシーの定義やメリット、欠如による弊害と共に、ITリテラシーの高め方についてご紹介します。
ITリテラシーとは
一般的な用法では、情報技術(IT /Information Technology)を利用し、使いこなすスキルのことをITリテラシーと呼びます。デジタルリテラシー(Digital Literacy)も近い意味で使われています。
もともとITリテラシーは標準規格などで定められていたわけではなく、使用される場面や文脈によって言葉の意味する範囲も異なり、統一された定義もありませんでした。
近年、官民におけるデジタル化機運の高まりやデジタルトランスフォーメーション推進の潮流のなかで、ITリテラシーの必要性や教育への関心が高まり、ITリテラシーとは何かという議論が改めてなされています。
公のものとしては、厚生労働省が2017年に発表した平成29年度ITリテラシーの習得カリキュラムに関する調査研究報告書があります。この報告書では、「基礎的ITリテラシー」を次のように定義しています。
「現在入手・利用可能なITを使いこなして、企業・業務の生産性向上やビジネスチャンスの創出・拡大に結び付けるのに必要な土台となる能力のこと。いわゆるIT企業で働く者だけでなく、ITを活用する企業(ITのユーザー企業)で働く者を含め、全てのビジネスパーソンが今後標準的に装備することを期待されるもの。
具体的には、
- 世の中にどのようなITがあり、それぞれどのような機能・仕組みを有しているか、どのような場面で活用されているかについての理解。
- 企業・業務の課題解決場面に有用なITを選定し、そのITを操作して目的に適う情報を取得・分析・表現し、課題解決に繋げる能力。
- ITを安全に活用するための情報セキュリティやコンプライアンスの知識。
また独立行政法人情報処理推進機構(IPA)では、2018年に閣議決定された「未来投資戦略2018」に基づいてITリテラシーに関する基準策定を目的とするITリテラシーWGを組織し、「ITリテラシースタンダード(ITLS)」を検討した成果をITリテラシースタンダード IT Literacy Standard(ITLS)<初版>「ITLSの概要」として公表しています。
ITLSではITリテラシーを次のように定義しています。
「社会におけるIT分野での事象や情報等を正しく理解し、関係者とコミュニケートして、業務等を効率的・効果的に利用・推進できるための知識、技能、活用力」
さらに、ITリテラシーにとって必要となる知識領域として「ITの動向」「ビジネスの改善・刷新」「リスク対応」「ITへの投資」の4つをあげています。
これらに共通して読み取れるのは、ITリテラシーとは単なるPCの操作方法などではなく、ITをビジネスの問題解決に役立てたり、事業や業務を効果的に遂行したりする能力というニュアンスです。
今日、ITリテラシーが欠けている人物には、ビジネス上での効率低下やトラブルの発生、そして個人の生活にも問題が起き得るのが実情です。
ITリテラシーが低い社員が多いことによる弊害
それでは、ビジネスパーソンのITリテラシーが低い場合、どんな問題が起きるのでしょうか。本項では、その弊害について記載します。
生産性低下
ITを業務に活用し、業務の効率化、生産性向上を図るデジタル化、IT化は企業にとっては必須の課題です。その先のDXを見据えてすでに達成しておきたい課題でもあります。しかし、これらのデジタル化、IT化もITリテラシーが低いことが要因で達成が妨げられてしまうことが多々あります。FAXによる伝達、紙の文書でのやり取り、PCが適切に使用されずに手作業で長時間労働が蔓延することなどが起こり、ひいては生産性の低下につながってしまいます。
コミュニケーションロス
どのような業務を行うにしても、複数の人が関わる場合はコミュニケーションを行うことは大切です。共通の理解、指針をもって業務にあたる重要性はビジネスパーソンならば認識しているところです。しかし、ITリテラシーが低いことによりコミュニケーションロスがしばしば起こります。メール、チャット、ビデオ会議といったツールによるコミュニケーションの特性をITリテラシーが低いため理解できておらず、コミュニケーションロスが発生してしまうこともあります。
ニューノーマルへの移行停滞
2020年の新型コロナウイルス感染症の蔓延により、テレワークの導入は急速に進み、ニューノーマル時代と呼ばれる新しい働き方を取り入れる企業も増えてきました。リモートで仕事を行うなどとても便利なツールや仕組みが多く提供されているのですが、ITリテラシーが低ければそのツール、仕組みを利活用できません。ITリテラシーの欠如がテレワーク、ニューノーマルへの移行を阻害してしまっているのです。
日本の組織の風土や習慣といえば、形骸化した事務手続きが多いこと、ハンコ文化、属人的な業務範囲、縦割りの組織による業務の縛りが強いことなどがよく指摘されます。こうした問題がすべてITリテラシーで解決するわけではありませんが、ニューノーマルに移行するための必須の能力であることは間違いないでしょう。
セキュリティインシデントの発生
ITリテラシーの低さはセキュリティインシデントの発生に直接的につながってしまいます。情報の重要性の確認、信ぴょう性の検証といったスキル、また情報の重要性の認識と慎重な取り扱いはセキュリティインシデントの予防には欠かせないものです。
情報漏洩の発生
セキュリティインシデントによって、企業としては対外的な信頼を大きく損ねてしまう情報漏洩に繋がってしまうこともありえます。USBメモリーなどの記憶媒体の紛失やメールの誤送信による情報漏洩や、フィッシングなどによるネットワークセキュリティの隙を突かれた企業ネットワークへの侵入による情報詐取、改ざんも、ITリテラシーの低さが招いてしまう害なのです。
SNSの炎上
今日では、企業においてもSNSを利用したマーケティングは、一般的なビジネス手法となっています。また、企業のSNSでなくとも、個人が行っているSNSでの投稿なども、情報を辿って所属する企業を特定されることも多いです。そんなSNSにおいて、TPOやモラルが守れずに炎上に繋がってしまうケースも、ITリテラシーの欠如による弊害の一つです。
DX推進企業におけるITリテラシー教育の課題
デジタル技術の利用によって起こすビジネスの変革、DX。総務省によって示されたDXレポートでは、各企業が取り組まなければならない課題としています。しかしながら、DXの成功例はそれほど多くの事例があるわけではありません。DXへの取り組みが始まってからまだ期間も短く、その方法論が浸透していないこともその理由の一つなのでしょう。
そんなDXへの取り組みですが、推進に向けての課題について記載していきます。
DX推進への組織体制
IPA独立行政法人情報処理推進機構の調査によれば、DXの推進において高い成果を上げている企業ほど専門の組織を作って対応を行っています。DX推進では部門や業務範囲の枠を超えて、連携した対応を取れる体制が必要となってきます。
DX推進の社内展開にはITリテラシーの底上げが必須
DXは部門や業務の範囲を超えて取り組み、時には横断的な対応も必要となります。そういった場合に、関係する各所でITリテラシーを持った担当者やキーパーソンが存在することでスムーズなDXの実現が可能となってきます。
しかしながら、情報部門以外の部署ではITリテラシーが高まっていないという現状があります。IPA独立行政法人情報処理推進機構の2019年のDXに関する調査によると、26.1%もの企業が「DXを実現する上で、社員のITリテラシーが不十分である」ことがDXを推進する際の課題となっていると回答しています。
業務の効率化、DXの推進にはITの力は不可欠
業務効率の向上はIT抜きには考えられません。新しい事業の創出やサービス推進でもIT利活用が前提となっています。
企業や組織内の情報の価値を活かすには、それらの情報がデジタル化され、適切に管理されていることが肝要です。そのためには、業務に従事しているすべての社員がデータの価値に気づいて行動すべきなのです。
DX推進では第3のプラットフォーム(クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータ)を一人一人の社員が抵抗なく利用する状況が前提となります。DX推進の文脈におけるITリテラシーには、これらのプラットフォームを使いこなすことも含まれているのです。
社員のITリテラシー向上によるメリット
非IT職の社員がITリテラシーを向上させることのメリットとして、以下のメリットが挙げられます。
セキュリティの強化
ITリテラシーを高めることで、情報、データについてその重要性、業務への影響度合いについての認識を高めることが出来ます。必然的に、情報セキュリティの必要性にも気づき、根本的な部分から社内の情報セキュリティへのアプローチを行うことが出来ます。
不祥事の未然防止
ITリテラシーを高めることにより情報セキュリティの強化につなげれば、それは情報漏洩、改ざん、詐称などの不祥事を未然に防ぐことにもつながります。情報、データの漏洩はすべての社員がその発端となってしまう可能性があるため、全社的な対応の底上げが必要なのです。
生産性の向上
業務を効率化し、生産性を向上させるためにも、全社的なITリテラシーの向上は効果を発揮します。特に今までITリテラシーが高くなかった非IT職の社員がITリテラシーを高めた場合、今まで実現できなかった業務へのIT化へのヒントを見つけられるかもしれません。小さな点から大きな流れまで、生産性を向上させるためのIT化が可能な業務はまだ残っているのです。
DX推進の強化
DXの推進には部門、業務範囲を越え、全社横断的に取り組む必要があります。企業のもつビジネスそのものの変革がターゲットとなっているため、ITリテラシーをもった人材が各部門に配置され、自社のDXに携わっていくことで、DX実現が見えてくるのではないでしょうか。
社員のITリテラシーを高めるには
最後に、社員のITリテラシーを高める方法をご紹介します。
ICT環境の整備
社員のITリテラシーの向上のためには、PC、モバイル、クラウドなどデジタルデバイスや技術にアクセスしやすい設備・環境を整えることが必要となります。これらのビジネス環境の整備は、必要不可欠な投資といえるでしょう。
IT関連の資格取得支援
社員にIT関連の知識を自習し、知識を身に着けてもらうため各種の試験を推奨する制度を整備するのもITリテラシーを高めるための方策となります。ITパスポート、基本情報技術者試験、MOSなどの資格取得者に受験費用や報奨金を支給する制度を設ける企業も多くあります。
社外研修の受講
ITリテラシーを高めるための社外研修を利用し、全社員に受講させるというのも、ITリテラシーを高める方法の一つです。自社内の常識にとらわれることなく、世間一般で必要とされているITリテラシーを身に着けることが可能です。 時代に合ったオンラインセミナー(ウェビナー)も多く行われているので、社員の自宅などから受講することもできます。
i-Learning のDX推進スキル強化研修はこちら
👉https://www.i-learning.jp/service/dx.html
おわりに
社員のITリテラシーの欠如はビジネスへの弊害を生むものです。DXに向けてITを利用した業務効率化を目指すためには、社員のITリテラシー向上も必要な要素となります。
非IT部門の社員のITリテラシーが向上することにより、社内のIT化は業務に根付いた形で促進され、情報セキュリティの向上にも期待することが出来ます。さらにDXを推進させるにはITリテラシーを高めた社員により専門の体制を設けて、全社横断的にアプローチすることが重要といわれています。社員のITリテラシーを高めるべく、環境の整備、教育などが必要な投資となります。