量子コンピュータとは?従来のコンピュータとの違いや種類をわかりやすく解説
2025.05.21IT
次世代のコンピュータとして注目を集める「量子コンピュータ」。近年では、世界中の巨大IT企業が開発を加速させており、各企業の研究結果や製品がニュースで取り上げられています。日本でも、富士通や理化学研究所など著名な企業や研究機関が量子コンピュータについての取り組みを発表してきました。
そもそも量子コンピュータとはどのようなものなのでしょうか。この記事では量子コンピュータの基本的な仕組みや特徴、従来のコンピュータとの違い、量子コンピュータの種類について解説します。
量子コンピュータとは
量子とは、物質を構成する非常に小さな粒子やエネルギー単位のことです。量子コンピュータは、量子力学における「重ね合わせ」などの原理を情報処理に適用したコンピュータです。1980年代から量子力学の原理で動くコンピュータが提唱され、長年研究が進んできました。現在も研究が進められており、世界ではIBMやカナダのD-Wave、日本でも富士通や理化学研究所、大阪大学などといった企業・組織が量子コンピュータを研究しています。
従来のコンピュータとの違い
従来のコンピュータは、電気信号がONの状態を1、OFFの状態を0として情報処理を行う二進法が使われています。常にONかOFFかのどちらかであり、0と1が同時に存在することはありません。
量子コンピュータでは、量子力学の基本法則で、相反する2つ以上の状態が共存できる「重ね合わせ」の法則を利用します。0と1が同時に存在できることから、従来のコンピュータでは時間を要する処理でも、量子コンピュータでは短時間の処理が可能になると期待されているのです。なお従来のコンピュータでの情報の最小単位は「ビット」ですが、量子コンピュータでは「量子ビット」が基本単位となります。
量子コンピュータの方式の種類

量子コンピュータの実現手法には、光や超伝導、中性原子など、さまざまなものが試みられています。問題を解く方法として研究が進められているのが、主に量子ゲート方式と量子アニーリング方式です。
量子ゲート方式
二進数の論理演算を行う仕組みを「ゲート(論理回路)」と言います。入力がすべて1の場合に1を出力する「AND回路」や、入力のいずれかが1の場合に1を出力する「OR回路」、1と0を反転させる「NOT回路」などがゲートの代表的な例です。コンピュータはこのゲートを組み合わせることで、処理を実現します。
量子ゲート方式はゲートをさらに発展させ、いわゆる「行列」の形式で、複雑な演算を可能にします。量子ゲート方式は量子アニーリング方式と比べて汎用性が高いと言われますが、実用化にあたっての課題が多いため、本格的な実現は先となる見込みです。
量子アニーリング方式
量子アニーリング方式では、原子や分子などの非常に小さいスケールで結果がばらつく現象である「量子ゆらぎ」を利用し、0と1の重ね合わせ状態を実現します。量子ゲート方式と比べると、組み合わせの最適化問題に向いている方式です。量子アニーリング方式の量子コンピュータは、製造業における生産ラインの最適化や物流における配送経路の最適化といった用途で実用化が期待されており、一部実施されています。
量子コンピュータを活用するメリット
量子コンピュータは、次のようなメリットが期待されています。
高い処理能力
量子コンピュータは、従来のコンピュータよりも計算回数が増えにくく、メモリも消費しにくいことが特徴です。そのため膨大な数の処理を高速で行えます。
複雑な問題解決
高い計算処理能力をもつことから、従来のコンピュータでは解くのに時間がかかる問題にも対応できる見込みです。ただし現在はすべての複雑な問題が解決できるわけではなく、既に問題解決までのアルゴリズムが考案されているものに対して有効といえる状況です。
量子コンピュータの実現により期待されること
量子コンピュータは現在開発中であり、社会へのインパクトは未知数ながら、さまざまな分野への適用と競争力の向上に期待が寄せられています。たとえば下記の分野です。
機械学習
テキストや画像といったデータに対する機械学習のアルゴリズムを用いて、高速化を図ることが期待されます。また量子センサなどを用いた入力や、未知の状況に強い機械学習の実現などが研究されています。
新薬の研究開発
新薬の研究開発には、研究対象となる疾患や標的の決定、素材の組み合わせなど膨大な手順があり、競合他社との競争で研究にかかる時間やコストも上昇しています。薬の作用のシミュレーションなど、従来のコンピュータではできなかった取り組みが量子コンピュータで実現すれば、研究開発期間の短縮につながるでしょう。
高度な金融取引
金融商品の価格算出やリスク予測などには、膨大な計算量と時間が必要です。量子コンピュータによる高速処理を行えば、より高度な金融取引戦略へとつなげることが可能になります。
交通・物流・災害対策
交通に関して挙げられる用途は、物流ルートの最適化や、交通渋滞の解消、災害時の避難ルート最適化といった、社会課題解決に関する事項です。将来的には、人命救助に関わる活用に期待が寄せられています。
量子コンピュータの課題

量子コンピュータの本格的な運用に向けては課題もあります。課題は主に「量子ビット」の性質に関する事項です。
エラー訂正処理
量子コンピュータの基礎となる量子ビットは、量子の状態を維持する時間が短く、電磁波や熱といった外部環境の影響を受けやすいという性質があります。そのため計算処理中にエラーが発生しがちであることが難点です。そのエラーを訂正するための処理としては量子ビットを冗長化するという方法もありますが、システムが大規模で複雑になる、計算処理速度が遅くなる、エラー訂正が完全ではないなど、課題もいくつかあります。今後も効率的で安全な方法の研究が進められると考えられます。
冷却技術およびコスト
電磁波や熱に弱い量子ビットの状態を安定させるためには、量子コンピュータを極低温の環境で動作させることが必要です。しかし現在の冷却技術は大型でコストも高く、周辺機器も考慮すると実用性に乏しいという問題があります。今後、より低コストで効率的な冷却技術が求められます。
暗号技術
量子コンピュータの登場で、RSA暗号や楕円曲線暗号が解読されることが予測されています。現在の暗号技術によってつくられた暗号の解読を従来のコンピュータで行うと、ほぼ解読不可能といっていいほどの計算時間がかかりますが、量子コンピュータでは計算時間を短くできるためです。実際にRSA暗号の解読において、従来のコンピュータと量子コンピュータでは計算時間に圧倒的な違いが出ることが試算されています。
現段階ではまだ暗号解読が実現する可能性は低いものの、情報漏えい等への予防策を講じていくことが必要です。現在では「量子暗号」という技術の開発や実証実験が進められています。
まとめ
量子コンピュータの概要をわかりやすく解説しました。40年以上前から構想されてきた技術である量子コンピュータ。その実用化の片鱗が見えてきた中で、今後重要になるのはそれらを「使いこなす人材」です。データ分析や利活用のスキルを、今のうちから身につけておきましょう。
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アイ・ラーニングコラム編集部