i-Learning 株式会社アイ・ラーニング

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iLL連載コラム:ATDコンファレンスから見たラーニングの潮流


第六回:脳科学とモチベーション(1)

そろそろ新年度を迎える時期ですが、新入社員の研修準備は進んでいらっしゃいますか。
最近では、自ら勉強しない社員や、学習意欲が続かないというような話題をよく耳にします。アリストテレスは「人間は学ぶことを欲する動物である」と言い、孔子は「学びて時に習う、また楽しからずや」と言いました。本来「学び」は私たちにとって楽しいはずなのですが、学習意欲を継続させるのは、なかなか難しいですね。

脳内の反応

若くして「ダンシング・アインシュタイン」というユニークな名前の会社を立ち上げた青砥瑞人さんは、脳科学の専門家で、最新の脳の知識を応用して人々の学習を支援しています。彼によると、脳が学習するにはそれなりにエネルギーを必要とするとのことです。脳にもマズローの欲求の5段階説が当てはまるそうで、脳はまず呼吸や食事などの原始的な機能に優先的にエネルギーを使うそうです。一方で、考えたり判断したり、学習して記憶したりする脳の高次機能は、エネルギー使用の優先度が低いため、意識してそれらの機能を働かせなければなりません。そのためにはモチベーションが必要になります。

青砥さんは、モチベーションとは「記憶、思考、判断などの高次機能を伴う行動を誘発するために、脳内の直接的な反応を『認識』した状態」と定義しています。かなり持って回った言い方なので少し解説してみましょう。

学習のための3つこと

脳が学習しようとするためには、実は3つのことが必要です。まず間接的な原因として「モチベータ」と言われるものがあり、それによって脳内に直接的原因となる「反応」が起き、そのような反応が起きていることに「気づく」ことで、初めてモチベーションが高い状態となります。

脳内の直接的原因をモチベーション・メディエーターと言います。例えばドーパミンとかエンドルフィンなど脳内物質と言われるものの反応のことです。 これらの反応が起きていても、例えばうつ病の人はその変化に気づかないため、学習意欲や行動につながらないと言われます。つまり「気づき」が大事ということです。

例えば不思議なピカピカ光るものがあって、何だか楽しそうで「何だろう」と思うことでドーパミンが出ますが、その変化に「気づく」ことが大切なのです。自分の感覚や感情、思考の状態を認識することをメタ認知と言いますが、モチベーションはメタ認知ができていないと生まれないということなのです。

学びの大前提

ソクラテスはアテネの広場でいろんな人と対話をし、知者と言われている人たちが、自分が知っていることを誇るばかりで、自分が知らないことに気づいていないことに驚きます。そして、「私は自分が無知であることを知っている。その点だけは他の人より優れている」という確信に至ります。このエピソードは、まさに学びにとっての大前提は、「自分が知らないということをメタ認知する」ことであるということを教えてくれます。

モチベーションは、モチベータがトリガーとなって高まるわけですが、トリガーをルーティン化することで、モチベーションを高めやすくすることが知られています。例えばイチローのバッティング前の動作や、自分が気に入っている名言、アイドルの写真、いつも行く喫茶店で自分が決まって座る席など、シンプルでありながらできるだけユニークなものが、モチベータとして機能します。

これらのモチベータによって、脳内ではドーパミンなどの快楽物質が出ます。その結果、一時記憶のためのワーキング・メモリーが拡張されたり、さらに好奇心や探究心が湧いたりして、学びたいというエネルギーの増加につながります。そして注意力や集中力、発想力が高まり、さらに記憶の定着力も高まります。そう考えると、モチベーションを高めて脳を学習する状態にすることはとても大切なルーティンになりますね。

モチベーションを高めるために

倫理観や価値観について学ぶこと、人生の目的とか意味について考えることは、文学や哲学や様々な芸術に触れることでもあります。デジタル時代のスマート・ラーニングは、リベラルアーツについての学びでもあります。

ここで、青砥さんがあげているモチベーションを高めるヒントをご紹介しましょう。

  1. 「知らないこと」「新しいこと」に対する恐れや不安を受け入れてみましょう。できたらそれが楽しいこと、面白いものだと感じてみましょう。
  2. モチベーションを上げる自分のトリガーを発見しましょう。そしてモチベーションが高まっている時の自分の状態に目を向けてみましょう。
  3. 自分なりのトリガーを習慣化して実行してみましょう。
  4. 体調は大事です。睡眠や生活のリズムを整えることでモチベーションは高まりやすくなります。
  5. 朝の太陽を味わい、ありがとうと言いましょう。歩行や呼吸など単調な運動に集中してみましょう。セロトニンが出てきて、夜ぐっすり眠れます。

いかがですか。より効率的な学習や、継続して学習するための方法を工夫する上で、脳科学の情報はとても有効です。次回も、最近進歩の著しい脳科学の研究成果と学習の関係について、お届けしたいと思います。

アイ・ラーニングラボ 片岡 久