情報革命
「世界中の情報を整理して、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」
これはGoogleがその使命として標榜しているものです。Googleが設立されたのは1990年代。たかだか20年前ですが、それまで、私たちは人類が生み出した膨大な知の集積がどこにあるかをほとんど知ることはなく、またそれらを問題解決に使うことなど想像もつかないことでした。
今、世界中で書籍として出版された情報や、大学に蓄積されている論文は、簡単に検索することができます。大学教授でも学生でもなく、OBでもない私が、スタンフォード大学の有名な教授の最新の脳神経に関する論文を、いつでも読むことができます。また、出張先の道路の渋滞情報や天気予報など、旅行の準備に便利な情報も、即座に確認することができます。20年前であれば、これらの情報は、政府の職員であったり特別な権限を持った人たちにしかアクセスできない、かなり限定的なものでした。それが誰でもいつでも、どこからでも入手できるようになったことは、まさに情報革命と言えます。
一方で様々な情報にアクセスすることができるようになった結果として、何のために情報を検索するのか、何のために活用するのかが問われるようになってきました。
仕事のもつ意味
ブリット・アンドレアッタ
今回のATDでブリット・アンドレアッタは、「未来へのつながり−目的の神経科学」という題でセッションを行いました。それによると、デジタル・キッズと言われたミレニアル世代の人達のうち、71%が意味ある仕事を見つけることがキャリアを成功させるために重要だと言っています。また、89%が自分にとって関心の高い仕事をやって社会に意味のあるものでありたいと言い、94%が自分のスキルを世の中の改善に活かしたいと言っています。その一方で50%の人たちが自分の仕事に意味も意義も感じられないと答えています。
現代は情報経済の時代と言われていますが、企業の仕事は一人ではできない大きな目的を実現するための連続的な情報処理活動であると言えます。その目的の達成のために、様々な情報が体系的に処理されていきます。それらが複雑になり、専門的に分化して、お互いの関係が見えにくくなってくるにつれ、個々の情報を処理する目的が、つまり仕事の持つ意味が失われていくように感じられます。
情報の民主化と仕事の仕方の変化
残念なことですが、最近多発している大企業の不祥事は、企業全体が創業の目的と使命を共有し続けていくことがいかに難しくなってきているかを如実に表しています。現場がコスト削減の一環として、無資格者による検査を続行したり、データの改ざんを行ったりしました。経営トップでさえ、目先の目標でしかない売上増や利益の確保を第一の目的にしてしまい、かえって本来の目的であるお客様からの信用や株主の信頼を大きく裏切る結果を招きました。
今、多様な情報にアクセスして、自分で判断することができる時代になってきました。それは企業内での情報の民主化が進んだことを意味します。それにより、指示命令型ではなく変化に応じた自主的、自律的な仕事の仕方が求められてきています。
例えば、変化のスピードが速くなっているビジネスの第一線では、現場の担当者が状況に応じて自ら判断をしていくことが必要になります。担当者は単に決められたことをこなすのではなく、手元のスマホやタブレットを通じて、必要な情報を検索しながら状況判断し、変化に対処していかなければなりません。
このような現場のリアルタイムの判断が、全体として企業の価値を決めていくことになります。そのため、経営トップから現場の担当者まで、経営目的や理念、ビジョンや使命について何度も話し合い、自分たちの仕事の判断の拠り所をもつことが、今まで以上に求められます。そして、自分たちの仕事が社会に対してもつ意味をお互いに理解し合う中で、いろいろな部署の様々な人たちの変化への対応が、ある一貫性を持った企業価値として社会に届けられるようになります。
一方でそのような判断を必要としない仕事は、デジタル化やRPAの進展によって、ますます自動化されていくでしょう。これらの要因がお互いに関係しながら進むことで、仕事の目的と意味が今まで以上に求められるようになり、生きがいと仕事のやりがいが重要なテーマになってくるはずです。アンドレアッタは、フレデリック・ラルーの「ティール組織」で表されているような人間の意識の自律化とそれに伴う自律的な組織への進化という流れがあると言っています。
アンドレアッタは仕事の目的を強化するための9つの方法を紹介しています。
そして先日亡くなったイギリスの天文学者、ホーキング博士の言葉を引用しています。
「仕事はあなたに意味と目的を与える。そしてそれがなければ人生は虚無だ」
皆さんは、今の目的をどのように感じておられますでしょうか?
彼女のセッションの内容や関連する項目をもっと知りたい方は、以下の本をご覧ください。
”Wired to Connect”, “Wired to Resist”, “Wired to Grow” By Britt Andreatta
「ティール組織」 フレデリック・ラルー
「コンシャス・ビジネス」 フレッド・コフマン
“Purpose Economy” By Aaron Hurst