i-Learning 株式会社アイ・ラーニング



iLL連載コラム:ATDコンファレンスから見たラーニングの潮流


第五回:スマート・ラーニングとは

学習機能のバージョンアップ

アメリカの人財コンサルタントのパトリシア・マクラガンは、学びの大きな変化が起きていると言います。それをラーニング4.0と呼び、人間のOSである学習機能のバージョン・アップを提唱しています。その背景として以下の状況をあげています。

・生涯に渡って学び続ける能力、ラーナビリティが重要な時代

・あらゆる経験や他者との会話、会合などから、自主的に学び取る時代

・脳科学や行動心理学の飛躍的な進歩を、自分の学習に活かせる時代

・AIをはじめとしたテクノロジーの賢い使い手になる時代

これらの時代の変化に合わせて学びのバージョン・アップができる人とそうでない人とに大きなラーニング・ギャップが生じるという訳です。

これからのラーニングで重要なこと

変化のスピードが速くなり、現在身につけているスキルだけでは、生涯仕事を続けることができなくなりました。リスキルとかアップスキルという言葉が、経済産業省や企業の現場で言われています。また人生100年時代になり、働き続ける年数も延びるので、ますます学習し続ける能力としてのラーナビリティが重要になります。

学ぶべきことは増える一方ですが、人間の脳のキャパシティは増えるわけではありません。ある研究によると、人間の脳の記憶容量はだいたい1ギガバイトくらいだそうです。今使っている私のノートPCのハードディスクが120ギガバイトですから、人間の脳の記憶容量はかなり小さいと言えます。「知ってるつもり ― 無知の科学」のスティーブン・スローマンも言うように、私たちは自分の脳だけを使っているわけではありません。特に現代は様々な専門知識をそれぞれ個人が持っているので、その人たちの知識や経験をいかに活用するかが問題です。昔は相手の時間に合わせて電話をしたり面談をする必要がありましたが、今はメールでいつでも特定の人に聞くことができますし、会ったこともない世界中の専門家の意見も、簡単に聞くことができます。もちろん判断をするのは自分ですが、意見を求める情報のソースをどれだけ多様に広範に拡大することができるかも、これからのラーニングにとって重要なことです。

脳のスイッチング

かつては、何も考えていない時に脳は活動していないと思われていました。最近の脳科学の研究によると、何かについて考えたり感じたりしている時の脳のエネルギー使用量は全体の30%くらいで、むしろ何も意識していない時に70%のエネルギーが使われているそうです。瞑想やマインドフルネスの訓練では、この意識しない状態を作ろうとします。 また、意識していない時の状態と意識している状態をスイッチさせる機能があることもわかってきました。このスイッチングが気づきや腹落ち感を生むと言われています。幹細胞の研究でノーベル賞を受賞した京都大学の山中先生は、幹細胞のことばかり考え続けた1日の終わりに、自宅でシャワーを浴びていて突然、問題を切り開くアイデアがひらめいたそうです。創造力を鍛えるには、このスイッチングが大切ですね。

テクノロジーの活用

そしてテクノロジーの賢い利用です。原始時代から産業革命を経て、人間は常に道具を作り出し、自分の力よりも大きなエネルギーを動力として活用してきました。より大きな破壊力、より速い移動力、より多くの伝達力、そしてより正確で膨大な記憶力と演算力を使いこなしてきました。

そこで次なる問題はAIです。人間は思考力をも機械に委ねるのでしょうか。 クイズで人間に勝る解答をしたワトソンは、問題の意味を理解していたわけではありませんが、問題を分析しデータを参照して、最も正解である確率の高い回答をすることで、人間のクイズ王に勝ちました。アルファ碁は戦略の持つ意味を理解しているわけではありませんが、100万回を超える機械対戦によって、場面ごとに打つ手の良し悪しの確率評価を積み重ねて、最終的にトップ棋士に勝ちました。 AIの良さは人間の先入観や常識に囚われず、好き嫌いなどの感情に揺れることなく、最適解を導こうとすることです。与えられた情報から問題解決のための方法を、確率の高い順に並べて提示することができる力は素晴らしいものです。この力で人間の思いつかないやり方や、新しいアルゴリズムを発見してもらいたいですね。 でもアルファ碁を開発したディープマインド社のデビス・ハサビスも、「なぜアルファ碁があの局面であの手を打ったのかはわからない」と言います。つまりAIの出した答えが、倫理観や価値観の視点からどのように解釈するべきか、あるいはその答えに対する意味付けは、AIを使う人間の責任であるということなのです。

デジタル時代のスマートラーニング

倫理観や価値観について学ぶこと、人生の目的とか意味について考えることは、文学や哲学や様々な芸術に触れることでもあります。デジタル時代のスマート・ラーニングは、リベラルアーツについての学びでもあります。

これらの点から、スマート・ラーニングは

・ラーナビリティ、学習し続ける能力を高め

・コミュニティや他人から学ぶ力を高める

・創造性を高める

・テクノロジーを利用しながら意味と価値観を深める

ものであるべきだということになります。

参考図書・情報

・『Unstoppable You』 Patricia McLagan

・『知ってるつもり ― 無知の科学』スティーブン・スローマン

「デフォルトモード・ネットワーク(DMN)」 日経サイエンス 2010年6月号

アイ・ラーニングラボ 片岡 久