心理的安全性とは?組織に必要な理由と高める方法、ぬるま湯組織との違いをご紹介

2025.05.15ビジネス
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心理的安全

心理的安全性とは、自分の意見や考えを誰に対しても安心して発言できる状態のことです。心理的安全性が高いチームは、社員の生産性向上だけでなく、組織全体の活性化や業績向上など多くのメリットにつながるため、近年注目を集めています。

本記事では、心理的安全性の必要性やメリットを踏まえた上で、組織やチームの心理的安全性を高める方法をご紹介します。

組織における心理的安全性とは

心理的安全性とは、ハーバード大学で組織行動学を研究するエドモンドソン氏が1999年に提唱した概念で、「罰や屈辱のリスクを負わずに発言できるという信念」と定義されています。対人関係の中でリスクのある行動(質問する、間違いを指摘するなど)をしてもこのチームは安全という共通認識を持ち、メンバー誰しもが安心して自分の意見、考えを発言できる状態のことです。

ぬるま湯組織との違い

心理的安全性が高い組織は、「非難されない安心感」「居心地の良さ」という観点からぬるま湯組織と誤解されることがありますが、両者の持つ意味はまったく異なります。ぬるま湯組織は、残業や責任感がなく働きやすさを感じる場合もありますが、変化を恐れているためリスクを取ることをしません。一方で、心理的安全性が高い組織では、メンバーの新しいアイデアを取り入れて挑戦しやすい環境であるといえます。組織全体が仕事に対するやりがいやモチベーションを持ち、活発な意見交換が行われているという点でも大きく異なるでしょう。

心理的安全性が注目される背景

心理的安全性は、2012年から4年間にわたりGoogle社が行った「プロジェクト・アリストテレス」という研究によって知られるようになりました。この研究結果から、Google社は「心理的安全性はチームの効果性に影響する最も重要な因子である」と発表し、注目を集めました。

組織における心理的安全性を高めるメリット

チーム

では、組織において心理的安全性を高めるとどのようなメリットが得られるのでしょうか。

アイデアが生まれやすい

「意見やアイデアを言っても受け入れてもらえない」という状況は、メンバーの多様なアイデアを最大限活用できず、組織全体の生産性の低下につながります。「どんなアイデアも受け入れてもらえる」、つまり心理的安全性の高い職場であれば、メンバーからさまざまなアイデアが出てくるため、そこからさらに新たなアイデアや創造的な発想が生まれやすくなるのです。

社員一人ひとりの生産性が上がる

組織の心理的安全性が高いと、「自分の能力が尊重されている」と感じられるようになります。この安心感から仕事に対する意欲や責任感が高まり、個々のパフォーマンスが向上します。結果としてチームの生産性が上がり、組織の成長につながるでしょう。

チームのコミュニケーションが活性化する

組織やチームが積極的に発言できる環境であれば、安心感を持って活発なコミュニケーションを取ることができます。メンバー間で円滑なコミュニケーションができるチームは、業務を進める上で欠かせない情報共有や早期の課題発見、対処などをスムーズに行うことができ、チーム全体の活気につながります。

速やかな報連相が行われる

報告、連絡、相談はチームや組織全体の目標を達成するためにも欠かせないことです。心理的安全性が高い職場では、どのような場面でも不安を感じることなく発言できるため、速やかな報連相が実現されます。報連相がしっかりと行われていれば業務やプロジェクトが効率的に進むだけでなく、トラブルが発生しても早期に対処することができます。

社員の定着率が上がる

Google社によると、心理的安全性の高いチームは離職率が低いという結果が報告されています。積極的に発言をしてもリスクがないという安心感は、離職の理由に多い「人間関係」という悩みが生まれにくいです。誰しもが自由に発言できる立場にあるため、自分の能力を発揮しやすく、悩んだときに気軽に相談できる環境づくりが定着率の向上につながると考えられるでしょう。

心理的安全性が低くなる原因

エドモンドソン氏によると、心理的安全性の低下には4つの要因があるとされています。ここでは、4つの心理的安全性を損なう要因と特徴行動について解説します。

1.無知だと思われる不安(Ignorant)

業務上で分からない問題が発生したとき、チームのメンバーに聞きたくても「こんなことも分からないのか、と思われるのではないか」と不安になってしまいます。そのため、質問したいことや確認したいことがあっても聞けなくなってしまうのです。

2.無能だと思われる不安(Incompetent)

業務でミスや失敗をした際、チームのメンバーにミスを責められないか不安になってしまいます。そのため、何か問題があっても報告せずに隠す、他のメンバーに責任転嫁するなどの行動につながってしまうのです。

3.邪魔をしていると思われる不安(Intrusive)

会議やミーティング、もしくは業務中に発言したり質問したりすることで相手の邪魔になる可能性を考え、不安になってしまいます。自分の発言によって議論が長引いてしまったり、他の人の作業が中断してしまったりするのを恐れ、だんだん自発的に発言をしなくなっていきます。

4.ネガティブだと思われる不安(Negative)

業務やプロジェクトにおいて、改善提案や反対意見をしたくても相手への批判や否定と受け取られてしまうことに不安になってしまいます。そのため、現状をより良くしたいがための発言であっても、否定的な意味が含まれていると何も言えなくなってしまうのです。

心理的安全性が低い職場で起こる問題

心理的安全性が低い職場では、チームや組織にさまざまなリスクをもたらします。

社員のモチベーションの低下

心理的安全性の低い職場だと、社員は自発的に仕事に取り組むのではなく「与えられた仕事をただこなすだけ」になりがちです。意見やアイデアを出しても聞いてもらえないと感じれば仕事に対する価値を見出せず、モチベーションが低下してチームや組織全体の生産性の低下へとつながるでしょう。

仕事のパフォーマンスが下がる

「チーム内で自由に発言できない」「周囲の邪魔になるかもしれない」といった不安は、社員の自発的な行動を制限させてしまい、個々の持つ本来の能力を活かしきれません。しっかりと意見交換や情報共有がなされなければ仕事のパフォーマンスが下がり、大きなミスやトラブルにつながる恐れもあります。

トラブルの対応が遅れる

心理的安全性が低い職場では、メンバー同士の活発なコミュニケーションが行われず、ミスや失敗をしたときに報告しにくい状態です。質問や確認事項があっても気軽に聞くことができず、その結果として問題発見からトラブル対応までに遅れが生じてしまいます。

社員のメンタルの不調が起こる

心理的安全性が低い職場では、相手にどう思われるか分からないという不安からストレスや孤独感を感じやすく、仕事に対するモチベーションも低下します。誰にも相談できないまま心身の不調を起こし、離職につながる可能性もあるでしょう。

組織やチームの心理的安全性を高める方法

笑顔で談笑する男女

ここからは、組織やチームの心理的安全性を高める方法をご紹介します。

心理的安全性を体験できる仕組みを作る

心理的安全性を高めるには、安心して発言できるという環境や仕組み作りが必要です。業務中だけでなく業務外でも、相槌を打つ、目を見て聞く、質問をする、理解していることを表情や態度で示す、仕事への取り組みに感謝の気持ちを伝えるなど心理的安全性を体験することで、組織やチームの中での発言に不安がなくなるでしょう。

多様な価値観を受け入れる

社員一人ひとりの価値観を受け入れることも、心理的安全性を高める方法の一つです。多様な価値観が認められればさまざまな個性を持つメンバーが集まり、議論が深まりやすくなります。メンバーの考えに耳を傾け、積極的に意見やフィードバックを求めることで安心して個々の個性を存分に発揮することができ、創造力を高められるでしょう。

発言することに共通した価値観を持つ

個々が自発的に発言できるようにするためには、チーム全体で共通の価値観を持ち、年齢や役職に関係なく意見を出し合える環境を作ることが大切です。議論の場は「業績アップのため」「顧客満足度の高い商品やサービスを作るため」といった価値観をしっかりと全体に共有しましょう。

対話の機会を設ける

心理的安全性を高めて誰もが発言しやすい環境を作るには、日頃から社員同士の対話の機会を設けることが大切です。1on1や雑談会などで対話できる時間を増やすことで、部下から上司へ意見を言ったり相談しやすくなったりします。業務時間外での対話の回数も増えると、よりお互いの信頼関係の構築に役立つでしょう。

評価制度を見直す

「評価を下げたくない」「みんなの足を引っ張りたくない」という思いから、積極的な発言を控えたり、新しい挑戦の機会を逃したりすることもあります。評価制度を見直し、適正な内容にすることで社員の心理的安全性を高められ満足度向上につながります。

称賛し合う制度を作る

社員の仕事の成果や貢献に対して、日頃から「ありがとう」と感謝を伝え合うことが大切です。何か発言したり改善提案を発見したりする社員をまず称賛することで、さらに自発的な発言につながります。これを繰り返すことで、チーム全体が活性化し、心理的安全性の高い雰囲気作りができるでしょう。

上司やマネージャーによる心理的安全性の作り方

心理的安全性は、上司やマネージャーの意識によって作られるケースが多いです。ここでは、上司やマネージャーが部下と接する際に心理的安全性を高める方法を解説します。

積極的な姿勢を示す

まずは上司やマネージャーから、部下の話を聞くという積極的な姿勢を示すことが大切です。一方的に指示を出すだけでなく、「どう思う?」と意見を求めることで発言しやすい空気を作ってあげましょう。また、相手が話しているときはしっかりと目を見て、親身になって話を聞く姿勢を取ることもポイントです。

理解していることを示す

「自分の話を理解してくれている」「自分の意見を肯定してくれる」と感じると、部下の心理的安全性が高まります。相手の話を否定したり無反応で聞いていたりすると、かえって心理的安全性の低下につながりかねません。相槌を打ちながら会話するなどして、話をしっかりと理解していることを示しましょう。また、日頃の仕事に対する感謝の気持ちを部下へ伝えることも大切です。

相手を受け入れる姿勢を示す

心理的安全性は、部下や相手のことを受け入れる姿勢を示すことが大切です。業務しながらの会話のみでは、きちんと自分の話を聞いてくれているか不安につながってしまう可能性があります。1on1や雑談会など定期的に対話する時間を作り、ゆっくりと話を聞く機会を設けましょう。

具体的な指示を心掛ける

「このくらいであれば理解できるはずだ」という思い込みを決して持たず、具体的な言葉を用いて説明を行うことも重要です。また、指示をする際に分からない部分はいつでも聞く体制でいることを伝えてあげると、部下から積極的な質問や意見が引き出せるようになります。

心理的安全性を高めるマネジメント手法

組織やチームの中で心理的安全性を高めるマネジメント手法について解説します。

1on1

上司と部下のコミュニケーションの場として、雑談や仕事の相談を行える1on1を導入している企業は非常に多いです。集団の中ではなかなか意見を言い出せないが、1対1であれば話せるという方は少なくありません。定期的に1on1の機会を設けることで、上司と部下の距離が縮まり、信頼関係の構築につながります。「話しても大丈夫」「否定されない」という安心感が生まれることで、チームでの会議の場でも発言できるようになるでしょう。

ピアボーナス

ピアボーナスとは、メンバー同士が仕事の成果や貢献に対して称賛・評価し、報酬を贈り合う取り組みのことです。心理的安全性を高めるためには、「チームから認められている」と自信を持つことが大切です。直接感謝を伝える機会を設けてお互いを褒め合うことで、チーム全体の雰囲気が良くなり、発言しやすい空気感を作ることができます。導入する際は、義務化とならないよう組織に浸透させる体制を整備することがポイントです。

OKR

OKRとは、Objectives and Key Resultsの略で、直訳すると「目標と主な成果」という意味があります。具体的には、企業やチーム、個人の目標をリンクさせることで、それぞれの目指す方向性を一つに設定する管理手法のことです。OKRを明確に設定することで、メンバーは何を求められているかを理解して自発的に行動できるようになり、心理的安全性を高めることにつながります。

上司へのフィードバック

上司へのフィードバックは、社員がアンケートに匿名で答え、上司はレポート形式でフィードバックを受け取る方法が知られています。上司が部下からのフィードバックを真摯に受け取る姿勢が見られると、「誰に対しても意見を言いやすい」と感じ、心理的安全性を高めることにつながります。風通しの良いチームでは、上司と部下の信頼関係がしっかりと構築されており、上司への改善点や期待することなどを部下が恐れずに発言できます。

雑談

業務外でのコミュニケーションを増やすことは、心理的安全性を高めるのに必要とされています。1on1や会議などの業務上の対話だけでなく、よりプライベートに近い空気感でのコミュニケーションを行いましょう。雑談を通じてお互いの人間性や価値観が見えてくるため、より相互理解を深めることができ、仕事においても気軽に話せるようになっていきます。定期的に雑談会を設定する、雑談会でのテーマをいくつか用意しておくことがポイントです。

組織の心理的安全性を高めるときの注意

心理的安全性は、単に社員同士の仲が良い組織を作るということではありません。新入社員や不安を抱えるメンバーに対して誰も怒らない、優しく接するといった「ぬるま湯」のような組織とは違うことを認識しましょう。
心理的安全性を高めるには、組織やチームのメンバーが主体的な意識を持って仕事に取り組み、同じ目標に向かってお互いを尊重し高め合える雰囲気作りが重要です。そのためにも上の立場の社員は、メンバーへの指導や助言をする役割を担います。

まとめ

組織やチームの中で上の立場に立つ社員は、「部下と何を話せばいいか分からない」と悩むことも多いかもしれません。しかし、心理的安全性が高い職場は企業と社員の両方に大きなメリットをもたらすため、心理的に安全な環境作りに取り組む必要性は高いといえます。まずはコミュニケーションの仕方を変えたり、1on1や雑談会を取り入れたりするなど簡単にできることから変えるだけでも信頼関係の構築につながり、心理的安全性が高い職場へ変化していくでしょう。

アイ・ラーニングでは、組織の心理的安全性を高めたいと考えている方に向けて、信頼関係づくりに役立つコミュニケーション方法や対人関係能力など、さまざまな研修を用意しています。社員全体の心理的安全性を高めたいという場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

アイ・ラーニングコラム編集部

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