【メタエンジニアの戯言】エゴセントリック vs アロセントリック
2025.12.09松林弘治の連載コラム
みなさんは、地図やナビをみる時、ノースアップとヘディングアップのどちらを好まれますか。また、どちらの表示でみていても、頭の中で難なく両者の対応をつけられるでしょうか。
ノースアップというのは、紙の地図などのように「いつも北が上」になっている表示のことです。対してヘディングアップは、カーナビの画面のように「自分が進んでいる方向が上」になる表示のことです。

私は、子どもの頃から地図をながめたり、近所の山を探検するのが大好きでした。そのせいか、「自分視点(ヘディングアップ)」と「空から見下ろした視点(ノースアップ)」の対応付けは、特に苦労せずにできてきた気がします。
ところが、これが苦手な方は意外と多いらしい、ということを知りました。ちなみに私の娘もこの対応が大の苦手で、「地図を頼りに移動するのがホントに難しい…」とぼやいています。
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私はここ数年、コンピュータサイエンスやコンピュテーショナル・シンキング(≒プログラミング的思考)を意識した、「コンピュータを使わない」5〜6歳児向けの授業を制作・監修し、実証授業を都内保育園で行っています。
工夫をこらしたさまざまなテーマの授業の中に、「地図」と「ルート」を扱う回があります。未就学児には難しいだろうとは思いつつも、あえてこの「ノースアップ vs ヘディングアップ」を取り入れたアクティビティを設計してみました。
簡略化した地図を大きめの紙に印刷し、その上をぬいぐるみを動かしていきます。そのとき、
- 地図上ではどの方向を向いているか
- ぬいぐるみの目線では、曲がる方向は左か右か
- ある例示した景色が見えているとき、ぬいぐるみは地図のどこにいて、どちらを向いているのか
など、みんなでワイワイ言いながら楽しく体験する、といった内容です。
できるかぎり難しくならないよう、スモールステップでアクティビティを構成したつもりでしたが、やはり「むずかしい」と感じた児童も少なくありませんでした。まだまだ工夫の余地がありそうです。
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これが難しい理由のひとつには、空間認知能力のしかたに関係があるでしょう。
エゴセントリック(自分自身を中心として位置や関係性を把握)、そしてアロセントリック(地図など外部を基準として位置や関係性を把握)という視点があります。このふたつの視点を脳内で切り替えて行き来したり、対応づけたりするのが得意な人もいれば、そうでない人もいます。慣れていないと大人でも難しいと感じるのは、そんな個人差があるからなのでしょう。
一方で、心的回転(メンタルローテーション)という、思い浮かべたイメージを頭の中で回転させて想像する能力があります。ちょうど、アロセントリック視点の地図をイメージで回転させてエゴセントリック視点に対応付ける際に対応します。そしてこれは、訓練により鍛えられることが知られています。
こうしたスキルは、自分を客観的に見つめたり、相手の立場を想像したりすることとも関連していると言われています。つまり、「自分の視点」と「相手や外側の視点」を行き来する訓練にもなるわけです。ビジネスの世界でも十分に活用できるスキルといえそうですね。
そういえば、むかし小学校で受けさせられた知能テストで、紙に書かれた図形やイラストを脳内で回転させて回答する問題があったなぁ、と思い出しました。
地図のノースアップとヘディングアップ、そして空間認知に関する研究や論文は、数えきれないほど存在しているようです。そうした知見も参考にしながら、「楽しく」「難しすぎると感じさせない」アクティビティにどう落とし込めるか、これからも、ますます掘り下げて調べてみようと思っています。

松林 弘治 / リズマニング代表
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。

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