【メタエンジニアの戯言】省略語とカタカナ用語のあれこれを考える

2025.06.10松林弘治の連載コラム
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最近、自宅の固定電話にかかってくる海外からのSPAM電話の回数がますます増えており、あやしげな番号からの着信は片っ端から着信拒否に登録しています。

そんな折、ふと「いま使っている電話はけっこう古いなぁ」と思い立ちました。最近の機種にはどんな機能があるんだろう、と気になり、オンラインショップで「固定電話」と検索してみました。ところが、出てきたのはある1社の数機種だけでした。

携帯電話が普及しているとはいえ、さすがにそんなに少ないことはないだろう、と検索を繰り返すうちに、あることに気づきました。そうか、「固定電話」ではなく「コードレス電話」で検索すればよかったのか、と。単純に「電話」で検索しても良かったのかもしれませんが。

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そういえば、「固定電話」というコトバは、もともとは「電話」とだけ呼ばれていたものがあったところに、固定されない(=持ち運び可能な)携帯電話が登場したことで、区別のために生まれた言い回しと思われます。これは、単なる「テレビ放送」が、「衛星放送」と区別するために「地上波」「地上放送」と呼ばれるようになったのと似ていますね。

「コードレス電話」というコトバだって、それまでの固定電話やテレビのイメージ画像カールコードで本体と物理的につながっている受話器を指す従来の電話と区別するために生まれたはずです。字面どおりに解釈すれば、携帯電話だってコードレス電話ですが、一般的には固定電話のうち受話器がワイヤレスのもののみを指すコトバとして使われています。

この辺りは英語圏でもおおむね同じで、「mobile (cellular) phone」の登場によって、単なる「(tele)phone」から「fixed phone」と呼ばれるようになっています。

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しかし、なんといっても日本独特なのは、前半部分だけに省略する例が多数あることで、興味深いです。

たとえば「携帯電話」が「携帯(ケータイ)」と略されるのは有名ですが、「携帯」そのものは本来「持ち歩けるもの」全般を指す言葉です。ゲーム機だったり音楽プレーヤだったりトイレだったり、と携帯できるものは他にもたくさんあるのに、携帯電話だけが「ケータイ」と呼ばれます。

似た例では「スーパーマーケット」が「スーパー」と呼ばれたり、「ハンディキャップ」が「ハンディ」、「コンビニエンスストア」が「コンビニ」、「アパートメント」が「アパート」、などなど、枚挙にいとまがありません。

なかには「テレビジョン」のように、本来は「テレ(tele) + ビジョン(vision)」つまり「遠距離(伝送)映像」なのに、後半の頭も一緒にして「テレビ」となる例もあったりします。関西で「McDonald」を「マクド」と省略するのも似ていますね。ちなみに「Mc」は「〜の息子」を意味する接頭辞です。おや、そうすると、全国的な省略形である「マック」は、「息子」って言ってることになり、「ケータイ」の場合と似てるケースかもしれませんね(笑)

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このように、元の正式な呼び方や外来語がどんどん省略され、その過程でいつしか元の形が忘れられながら定着していったり、時には本来とは違うニュアンスが加わったりすることもあります。このような進化は本当に興味深い現象で、生きたコトバの面白いところでもあります。

しかも、これらの省略語がすんなり普及し問題なく通じるのは、多くの人が「同じものを指している」という共通認識を持っているからでしょう。と言いながら、そういえば、「スプシ」って略語、つい数年前まで私はなんのことだか全く分かっていませんでしたが…(笑)

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こうした言葉の変化・進化を眺めているときに、ふと頭に浮かんだのが、ビジネスの現場で飛び交う「カタカナ用語」の数々でした。

広く浸透している上記の省略語とは違い、同じ部署や同一業界内では通じるものの、少し離れた立場の人には通じなかったり、「カタカナ用語のオンパレードで何を言ってるか分からない」「分かりやすく日本語で伝えてほしい」と思われてしまうこともある、アレです。

営業や経営に限らず、ソフトウェアエンジニアリングの世界でも、日本語に置き換えづらい専門用語がそのままカタカナ表記で使われているものがありますし、それらは非エンジニアからするとチンプンカンプンでしょう。

とはいえ、コトバは生き物ですから、こういったカタカナ用語の中には、時代を経てより多くの人に使われ、おさまりの良い省略形が生み出され、一般的な用語になっていくものが登場するかもしれませんね。例えば今では、「リモート」や「プロトコル」なんて、元々は技術用語だったのに、ビジネスの世界で当たり前に使われていたり。

このように、言葉はまさに生き物であり、変わっていくものだからこそ、「通じる」「通じない」の境界を意識しながら、相手や場にあわせて使っていかねば、と思った次第です。

 


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