アジャイルクロストーク:変化の時代を乗りこなすアプローチ〜アジャイルとウォーターフォールの実践的融合〜

2026.01.23アジャイル , お役立ち情報
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


はじめに − リアルな現場から導き出された知恵と工夫

急激に変化する現代社会において、企業の現場は常に環境適応を迫られています。スピードと柔軟性を武器に変化に対応する「アジャイル」、そして一歩ずつ確実に進める「ウォーターフォール」。これらは対立するものではなく、状況によって使い分け、あるいは融合していくべき手法です。

今回のアジャイルクロストークでは、アジャイルとウォーターフォールの「実践的融合」をテーマに、現場経験豊富なアジャイルコーチ・清水さんにご登場いただきました。机上の理論ではなく、リアルな現場から導き出された知恵と工夫の数々を、じっくり伺っていきます。

《ゲスト》

清水  麻由 氏 / Scrum Inc. Japan  スクラムトレーナー、スクラムコーチ

編集者、ゲームディレクター、コンテンツクリエイターなどのキャリアを経て 2017 年に家庭用ロボット開発のベンチャーに参加。まだ世の中にない新しいものを作るため、開発だけでなく組織全体のアジャイル・スクラムの適用にスクラムマスターとして従事。チーム支援、スクラム型組織の構築・推進、社内アジャイルコーチなどを行う。イノベーティブなプロダクトを生み出すためには アジャイルへの変革が必須であると感じ、現在は Scrum Inc. Japan のスクラムコーチ、トレーナーとして様々な企業・現場へのスクラムの導入を支援している。

《MC》

阿部 仁美 (Hitomi Abe)株式会社 アイ・ラーニング 研修企画開発プロデューサー
(専門分野:アジャイル&プロジェクトマネジメント)

Certified ScrumMaster (CSM)®、Registered Scrum Master (RSM)™、Project Management Professional (PMP)®

日本アイ・ビー・エム株式会社にて、SW新製品開発/ITシステム開発のプロジェクト・マネジャー、プロジェクト・レビュー、および日本アイ・ビー・エム社全体のプロジェクト・マネジャーの育成・認定等に30年以上従事。情報処理推進機構(IPA)にて人材育成に携わった後、楽天モバイル株式会社にてPMO:新製品開発プロセス策定/強化に取り組む。DXの構造における①ベンダー企業②官③事業会社の3つの視点の業務を経験。2022年より現職。現在は、アジャイル&プロジェクトマネジメント分野の研修企画開発と共に、新しい研修モデルの開発に取組む。

異色のキャリアから「アジャイル」にたどり着くまで

阿部:本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは清水さんのご経歴について、少し変わったスタートをされたと伺っていますが。

清水:はい、私のキャリアは出版やゲームなど、エンタメ業界から始まりました。コンテンツ制作やプロデュースに長く携わってきた中で、後に家庭用ロボット「LOVOT(ラボット)」の開発に参画することになります。

この LOVOT というのは、従来の製品開発ではなかなか形にしづらいコンセプトを持つ製品でした。だからこそ、従来の「計画して作る」スタイルだけでは限界があり、「柔軟に学びながら進化させていく」アジャイルな考え方が必要になったんです。

その開発の中で、プロダクトマネジメントだけでなく、チームづくりや文化づくりにまで関わるようになっていきました。自然と

「どうすればチームが自律的に動けるか」「どうすれば価値を最大化できるか」を考えるようになり、アジャイルコーチとしての道に進むきっかけになったわけです。

現在はスクラムインク・ジャパンに所属し、様々な企業の現場を支援しながら、アジャイルの可能性を伝え続けています。

阿部:ありがとうございます。今日は清水さんのそうした「体験ベースの知恵」を、ぜひ深く掘り下げさせてください。

アジャイルは曖昧じゃない
  —  ウォーターフォールとの違いを解きほぐす

阿部:アジャイルと聞くと、「曖昧なまま進めてもよい」「仕様変更はいつでも可能」といったイメージを持つ方も多いようです。ウォーターフォールに慣れている現場では、アジャイルに対しては、特にそう感じられるかもしれません。

清水:確かにそういった誤解はよく耳にします。ですが、実際にはアジャイルは「曖昧さを許容する」のではなく、「不確実な状況下で確実に価値を積み上げる仕組み」なのです。

ウォーターフォールは、明確なゴールがあるプロジェクトに非常に向いています。要件を確定し、スケジュールを立て、その通りに進めていく。安定した環境では非常に有効な進め方です。

一方、アジャイルは「最初から全てが見えていない」「変化が頻発する」状況にこそ力を発揮します。だからこそ、「曖昧」であることを前提にするのではなく、「小さく明確に作って、そこから学ぶ」ことが基本になります。つまりアジャイルは曖昧なまま進めるのではなく、「最初から分からないことが多い」という前提を受け入れ、そのとき明確に見えている範囲から小さく作り、早い段階でフィードバックを得て学びを積み重ねていくアプローチです。

阿部:なるほど。単に“自由”なのではなく、明確なサイクルと判断基準の上で動いているのですね。

清水:そうです。そして、アジャイルでは「仕様変更」も“気分で変える”のではなく、スプリント(アジャイルプロジェクトにおける計画・実行・検証の最小単位)という短いサイクルの中で学んだことを、次の計画に反映させていく。これは「変更」ではなく「適応」として捉えます。

阿部:ウォーターフォールは、計画と実績のズレをいかに埋めるかが鍵ですが、アジャイルはむしろそのズレを“気づき”に変える前提で動いているのですね。

清水:まさにその通りです。アジャイルは、変化が前提の時代に対応する“設計思想”そのものだと言えるでしょう。

アジャイルは「全体を見失いやすい」のか?

阿部:アジャイルは全体感を見失いやすいのでは、という質問をよく受けますが、いかがでしょうか。

清水:その指摘は理解できます。スクラムでは短いスプリントごとに決めた内容に集中するため、部分最適に見えてしまうことがあるからです。小さく作ることを続けていると、最終的な成果が見えにくいという不安につながるのだと思います。

ただしアジャイルでは、最初の段階で「プロダクトビジョン」をしっかり定めます。インセプションデッキなどを使い、チームとステークホルダー全員で「どんな価値を届けるか」を深く共有し、常にそのビジョンに立ち返りながら進むのが特徴です。つまり小さく作りながらも、顧客価値に近づいているかを毎スプリント検証することで、全体感を維持します。

阿部:ビジョンが旗印になるわけですね。

清水:そうです。価値を達成するには何を作ればいいかを探り続けるプロセスなので、一人ひとりが主体的に考える力も求められます。アジャイルでは「指示されたものを作る」のではなく、「価値を実現するために何が必要か」をメンバー全員で考え続ける働き方になるわけです。

最小で最大の価値を生むチーム設計
— スクラムのしくみと役割とは

阿部:「MVP」という言葉、現場でもよく耳にしますが、その本質的な意味を教えていただけますか?

清水:MVP、Minimum Viable Product は、「最小限の実用的な製品」と訳されることが多いですね。これは、「とにかく作る」のではなく、「使える」ことに意味があります。

アジャイルでは、まず価値仮説を小さく形にしてユーザーに試してもらう。その反応から学び、必要に応じて次の開発方針を判断する。この繰り返しが核になります。

たとえば Web サービスなら、「ログイン機能」は後回しでも、「注文ボタンが押せる」だけの構成で先に出す。結果、それが使われるかどうかで次のステップが見える。そういった進め方です。

阿部:「全部できてから」ではなく、「最も大事な一要素だけ」で検証するんですね。

清水:そうです。そして、その「検証と学習」を支えるのが、チーム全体のビジョン共有です。スクラムではインセプションデッキ(アジャイルにおけるプロジェクトの全体像を明確にするためのドキュメント ) などを通じて、「何のためにこのプロダクトが存在するのか」を最初に全員で決め共有します。

阿部:進んでいく中で道に迷わないための“羅針盤”のようなものですね。

清水:はい。それがあるから、短期に集中していても、全体の目的から外れずにいられるんです。

信頼が文化を育てる
  —  チームビルディングとコミュニケーションの実践

清水:チームが新たに立ち上がるときや、大きな方針転換があったとき、あるいはメンバーの入れ替えがあったとき。そんな節目にこそ、チームが立ち戻る「共通の土台」が必要になります。そこで私たちアジャイルコーチがよく提案するのが、「ワーキングアグリーメント」の作成です。

これは、誰かから押しつけられるルールではなく、チームが自ら話し合って作り出す“合意事項”のことです。自分たちで決めたからこそ、実感を持って守ることができる。いわば“自律のための道しるべ”と言えます。

そして、このアグリーメント(合意)で大切なのは“数を欲張らない”こと。あれもこれもと 20 個並べても、結局誰も覚えていない。
むしろ 3 〜 5 個程度に絞り、日々意識できるものにすることが肝心です。よく見かける例としては、「5 分悩んだら誰かに聞こう」や「NO を言うときは代替案も添える」など。チームが互いに助け合い、前向きに対話するための小さな約束です。

阿部:たしかに、そのような環境があることで、チームの働きやすさは大きく変わってきますね。

清水:もうひとつ最近重視されているのが「祝福の文化」です。これは、「成果を一緒に喜ぶ」「仲間をちゃんと讃える」といった、感情的な交流の土台になる文化です。たとえば「リリースできたら打ち上げをする」「誰かがいい働きをしたら、みんなで感謝を伝える」といったものです。最近はチャット上で使う“絵文字”に独自の意味を持たせて、「ありがとう」の気持ちをアイコンで送り合う工夫もよく見られます。

阿部:ハートマークが貯まったら、ハート型のチョコがもらえる、みたいな(笑)。

清水:そういう遊び心も、とても大切なんですよ。チームにとっては、「信頼」と「笑顔」が両立することが理想です。
そして、こうした文化を育てる土壌として、スクラムでは「10 人以下のチーム編成」が推奨されています。人数が多くなると、どうしても情報共有のコストが上がり、「A さんは知っているけど B さんは知らない」といった認識のズレが起こりやすくなる。清水:人数が少ないからこそ、会議でも一人ひとりが発言しやすくなり、誰かの言葉が置き去りにされにくい。チームの温度感を共有しやすくなる。それが、信頼の文化を育てる基盤になるのです。

「支えるリーダー」がチームを変える 
 —  サーバントリーダーシップの力

阿部:メンバーのスキルにバラつきがあるチームでは、どうやって学び合いや成長を促すのでしょうか? 特に新人や専門性に偏りがあるときなど、気になります。

清水:とてもよくある質問ですね。アジャイルの文脈では、「誰ができるか」ではなく、「どうすればチームとしてできるようになるか」という視点が重要になります。

たとえば「T 型人材」という考え方があります。これは、ひとつの分野に深い専門性を持ちつつ、隣接する分野にも一定の理解を持つようなスタイルのことです。そして、この“横の広がり”を育てるのがペアプロ(ペアプログラミング)やモブプロ(複数人での同時作業)といった手法です。阿部:プログラミングだけじゃなく、企画やデザインでも使えそうですね。

清水:その通りです。たとえば、データベースに詳しいメンバーと、未経験のメンバーが一緒に作業することで、知識が自然と共有されていくんです。その結果として、スキルの“柱”が複数に増えていく。T 型がπ型(パイ型)、さらに“櫛型”に育つというイメージですね(笑)。

阿部:お互いに頼れる関係が、自然とスキルも底上げしていくんですね。

清水:そうです。短期的には「できる人がやった方が早い」ように見えても、それではチームとしての成長にはなりません。だからこそ、育て合う文化を組織として支えることが重要です。

このような考え方の延長線上にあるのが「サーバントリーダーシップ」です。これは、メンバーの前に立って引っ張るリーダー像とは異なり、「支える側に立つ」リーダーシップのことです。

阿部:まさに「縁の下の力持ち」ですね。そういうリーダーがいると、安心して自分の力を出せそうです。

清水:ええ。そして、スクラムではチーム全員がこの「支える姿勢」を持つのが理想です。一人のリーダーが統率するのではなく、全員がそれぞれを支える。そういう状態が、もっとも強いチームだと私は思っています。

スクラムマスターはプロジェクト・マネジャーではない

阿部:よくいただく質問ですが、スクラムマスターはプロジェクト・マネジャー(PM)に相当する役割なのでしょうか。

清水:非常によく聞かれる質問ですね。「PMがスクラムマスターを兼ねればよいのでは」といった声もありますが、両者は本質的に異なります。まずスクラムには「マネジャー」という役職が存在せず、従来のように一人が管理し、他が管理される構造は前提としていません。チーム自らがマネジメントを行う点が大きな特徴です。そのため、PMが担っていた責務はプロダクトオーナー、スクラムマスター、開発者の三つに分割されます。

阿部:スクラムマスター=PMではない、という点が重要ですね。

清水:はい。プロダクトオーナーは「何を実現するか」に責任を持ち、開発者は「どのように実現するか」を主体的に決定します。作業の進め方や進捗管理も自分たちで行うため、誰かが管理し、誰かが管理されるという関係性がなくなるのが特徴です。

そのうえで、スクラムマスターは「チームの働き方」に責任を持つ役割です。プロダクトそのものではなく、チームが最大限パフォーマンスを発揮できる環境を整えることに注力します。チームビルディングやワーキングアグリーメントの整備などがその例で、PMが担ってきた統制型の役割とは大きく異なります。

阿部:まさにサーバントリーダーシップのイメージですね。

清水:その通りです。スクラムガイドでも、スクラムマスターは「真のリーダー」と表現されています。サーバントリーダーシップは、上から強く引っ張るだけのリーダー像ではなく、メンバー一人ひとりが力を発揮できるように支え、場やカルチャーを整えることで、結果的に人が自然とついてくるようなリーダーシップです。スクラムマスターだけでなく、チーム全員がそのスタイルを発揮できると、とても強いチームになりますね。

阿部:そういう意味では、いろいろなタイプの人がリーダーになり得るスタイルですよね。

清水:そう思います。従来の「強いリーダー像」に当てはまらない人でも、自分らしいリーダーシップを発揮できる。スクラムマスターは、一見“前に出て指示する人”には見えないかもしれませんが、実はチームをリードしている、そういう役割だと思います

アジャイル川柳

阿部:せっかくの機会ですし、最後に少し遊び心を交えて

「アジャイル川柳」でもご一緒しませんか?

清水:いいですね(笑)。ちょっと考えてみますね。阿部:では、私から。

──「アジャイル  使いこなし  二刀流

アジャイルとウォーターフォール、どちらか一方ではなく、両方を自在に使いこなしていこうという思いを込めました。最近は大谷選手の活躍もあって、「二刀流」がいいイメージで広がっていますしね。

清水:素敵ですね。それでは私も一句。

──「Teamwork makes dream work

“チームワークが夢を実現する”という思いを込めた一言です。

英語では“Teamwork makes the dream work”が正式なのですが、今回はあえて“the”を省いてリズムを重視してみました。

阿部:いいですね。「ドリーム」という言葉に希望があって、しかもスッと心に入ってくる感じがします。清水:はい。アジャイルも、ウォーターフォールも、組織づくりも。すべてはチームワークがあってこそ。そんなメッセージを込めてみました。

 

終わりに

阿部:今日のお話を通して、アジャイルとは単なる開発手法ではなく、考え方や文化そのものなのだと実感しました。最後に、これからアジャイルに取り組もうとしている方々にメッセージをお願いできますか?

清水:はい。まず、アジャイルに「完璧な正解」はありません。理論を学び、プロセスを理解することは大切ですが、実際に現場で動かしてみないと分からないことがたくさんあります。

そして、何より大事なのは「失敗を恐れないこと」です。うまくいかなかったときに責め合うのではなく、そこから何を学び、どう次に活かすか。アジャイルとは、まさに「学びながら前に進む」営みなのです。

阿部:すぐに成果を求めるのではなく、少しずつでも土壌を耕していくようなイメージですね。

清水:まさにその通りです。焦らず、諦めず、対話を重ねながら、目の前のチームと向き合っていく。それが結果として、組織全体の変革につながっていくと私は信じています。

阿部:本当に力強いメッセージをありがとうございました。現場の知恵に触れ、私自身もとても刺激を受けました。清水:こちらこそ、ありがとうございました。また現場の話をぜひご一緒できたら嬉しいです。

※本記事は、アジャイルクロストークVol.2の動画を元に再編集したものです。

「YouTube チャンネル  アジャイルクロストーク」実際の対談をご視聴いただけます
https://www.youtube.com/@agilecrosstalk

[ アジャイル研修 ]
https://www.i-learning.jp/project-management/agile/

[ プロジェクトマネジメント研修 ]
https://www.i-learning.jp/courses/projectmngmnt/pm/



【他社事例から学ぶ】自社のDX推進を成功に導くために

DX時代をけん引する人材を育てるための戦略

  • このエントリーをはてなブックマークに追加