講師インタビュー:現場で差が出る設計力 ― クラウドアーキテクトが磨くべき“思考”とは ―
2025.11.07IT , お役立ち情報
株式会社アイ・ラーニング クラウド講師 武田さおり インタビュー

クラウド活用はもはや前提となり、「導入するかどうか」ではなく「どう設計するか」が問われる時代になりました。その中で注目されるのが、“クラウドアーキテクト”という存在です。 単なる構成図の作成者ではなく、現場の課題を解決し、ビジネスに価値をもたらす設計ができるかどうか――その違いが、運用の安定性や開発のスピード、さらには組織全体の成長にまで影響していきます。
今回は、クラウド研修を数多く手がけてきた武田に、クラウドアーキテクトについて話を聞きました。
― 「クラウドアーキテクト=クラウド上でシステム構成を組める人」ではない?
武田: そうですね。「クラウドアーキテクト=クラウド上でシステム構成を組める人」ではありません。
もちろん、クラウドのサービスを理解して設計できるスキルは必要ですが、それは“入り口”にすぎません。
大事なのは、“なぜその構成にするのか”を説明できることです。 たとえば、「コストを抑えるため」「障害が起きても止まらないようにするため」「チームが運用しやすくするため」など、目的や背景を踏まえて最適な選択ができること――それが本当のアーキテクトの力です。
最近はAIが構成図を自動生成できるようにもなりましたが、「何を優先すべきか」「どんな制約があるか」を判断するのは人にしかできません。 アーキテクトとは、技術を“つなげる人”であると同時に、ビジネスを“動かすための仕組み”を考える人なんです。
だからこそ、これからアーキテクトを目指す方は、ツールの使い方を覚えるだけでなく、「なぜこの構成にしたのか?」を自分の言葉で語る練習をしてみてください。それが、クラウドを“使いこなす”設計者への第一歩になります。
― 「実行可能な現実解を追求する」はクラウドアーキテクトにとって重要?
武田: そうですね。実行可能な現実解を導く力はアーキテクトにとってとても重要です。
現場の制約を理解し、実際に動く仕組みを作ることができなければ、どんな理想も形になりません。ただ、それだけでは“今の延長線上の設計”にとどまってしまいます。
本来のクラウドアーキテクトの役割は、「現実を踏まえつつ、未来を見据えて仕組みを描く」ことだと思います。 たとえば、将来の拡張や組織の成長を見越して、“いま実行できる範囲の中で、あとで広げられる構造”を設計する。 その視点があるかどうかで、アーキテクチャの寿命や価値は大きく変わります。
つまり、現実解を追求するだけでなく、“未来の余白を設計する”こともアーキテクトの仕事なんだと思っています。
― 具体的には、クラウドアーキテクトにどういう“思考”が必要なのでしょうか?
武田: いくつかありますが、特に大切だと思うのは次の3つの“考え方”です。
1.目的から逆算する力
「なぜこの構成にするのか」を、まずサービスの目的やユーザー体験から考える力です。
技術の話から入るのではなく、どんな価値を届けたいのかを出発点にして、「要件 → 測定指標 → 設計」と順番に落とし込んでいくイメージですね。“技術のための設計”ではなく“目的のための設計”を意識してみると、構成に一貫性が生まれます。
2.リスクを軸に考える力
セキュリティ・可用性・運用性などのバランスを取りながら、「もし起きたらどうする?」を常に想定して設計する姿勢です。
すべてを完璧に守るのではなく、起こりうるリスクと復旧までの流れを想像してみる。そうすると、「ここは投資すべき」「ここは受け入れてもいい」といった判断ができるようになります。
3.将来を見据えて設計する力
クラウドの世界は日々変化しています。だからこそ、“いま動けばOK”で終わらせず、あとで変えられる仕組みを最初から考えておくことが大切です。
先に“変化の入り口”を作っておくことで、必要なときに無理なく広げられる――そんな柔軟な設計を意識してみてください。
この3つの視点を持っていると、「動く構成」を作るだけでなく、「成長し続ける構成」を描けるようになります。クラウドアーキテクトの面白さは、まさにその“考えながら形にする”ところにあると思います。
― クラウド特有の“落とし穴”もありますか?それはクラウドアーキテクトとしてどう対処していくべきでしょうか?
武田: あります。よくあるのが「とりあえずマネージドサービスを並べて満足してしまう」ケースですね。 クラウドには便利なツールが豊富にありますが、目的や方針がないまま選定すると、統一感のない構成になり、結果的に運用負荷やコストが増えることもあります。
「 SaaSを選ぶべきか、PaaSにするべきか」「自動化すべきか、人手を残すべきか」といった選択には、“何を優先し、何をあえて捨てるのか”という設計者の意図が欠かせません。
クラウドアーキテクトとして大切なのは、ツールを選ぶ前に“判断の軸”を作ることです。
たとえば、サービスの目的・チームのスキル・将来の拡張計画を整理しておくと、選定のブレを防げます。さらに、設計判断を「なぜそうしたのか」を言語化し、レビューやドキュメントとして残すことも重要です。 それが、あとから見直すときの“設計のコンパス”になります。 便利さに依存せず、目的から逆算してクラウドを“使いこなす”。 その姿勢こそが、アーキテクトとして落とし穴を避け、クラウドの価値を最大限に引き出す鍵だと思います。
― セキュリティやガバナンスの視点も、設計に影響しますね。
武田: まさにそうです。クラウドは利便性が高い分、設計者の判断が非常に重要になります。
ルールがないまま進めると、各チームが自由に環境を作ってしまい、誰が何を運用しているか分からなくなる――いわゆる“クラウドの野放し状態”になります。
一度そうなると後から統制を取るのは難しいため、最初からガバナンスを設計に組み込むことが欠かせません。 具体的には、アクセス制御で「誰が何をできるか」を明確にし、ロギングや監査で「何が起きたか」を記録・検証できるようにする。さらにアカウント構成や命名規則を整理しておくことで、組織全体のセキュリティと透明性を確保できます。
設計段階で“守る仕組み”を組み込むことが、クラウド時代のアーキテクトに求められる大切な視点です。
― アーキテクトに必要な経験やスキルは、どうやって身につければ?
武田: まずは「手を動かす」ことですね。設計の知識だけでは現場は動かせません。
実際に構築してみると、構成の裏側や制約、思わぬ落とし穴に気づくことができ、その体験が設計力の深みになります。 手を動かして動いた瞬間、止まった瞬間の“理由”を理解する――その積み重ねが設計の本質につながります。
もう一つ大切なのは、設計レビューの経験です。他人の設計を読むと、自分では気づかない発想やリスクの見方に出会えます。そうした対話の中で、自分の思考の癖や得意な観点にも気づけるんです。
アーキテクトは、一朝一夕で“なれる”職業ではありませんが、日々の手応えを積み重ねることで必ず育っていく仕事です。現場を動かしながら、少しずつ“考えられる設計者”になっていく過程そのものが、何よりの学びだと思います。
― 最後に、これからクラウドアーキテクトを目指す人へメッセージを。
武田: クラウドアーキテクトは、技術だけを扱う職業ではありません。
人・ビジネス・技術をつなぎ、現場に新しい価値を生み出す“橋渡し役”です。
クラウドの世界は変化が速く、覚えることも多いですが、だからこそ“学び続けられる人”に無限のチャンスがあります。 完璧を目指すより、一歩を踏み出す勇気を持ってください。
“作れる人”から“価値を届けられる人”へ、その過程そのものが、アーキテクトとしての成長だと思います。
■クラウド設計基礎から実践まで、段階的に学べる研修ラインナップ
アイ・ラーニングでは、クラウドアーキテクトに必要な「設計力」「構成力」「セキュリティ設計」「ハンズオン演習」などを段階的に学べる研修コースを多数ご用意しています。クラウドの基礎に不安がある方から、すでに設計に携わっている方まで、自分のフェーズに合わせて学べる環境が整っています。
👉 クラウド関連コース一覧はこちら
https://www.i-learning.jp/courses/it/cloud/

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