アジャイルコラム:一点集中で成果倍増!アジャイル手法「スウォーミング」の効果とは
2025.08.12アジャイル「スウォーミング」という言葉、聞いたことありますか?
私はアジャイルを学ぶまで知りませんでした。でも実は、なにか新しい発明というものではなく、ある意味当たり前のことをうまく活用する手法です。
今回は、アジャイルの中でも特に効果的な手法の一つである「スウォーミング」について、その意味と有効性について分かりやすくご紹介します。
スウォーミングとは?
スウォーミングとは、チームのメンバーが一つのタスクに一斉に取り組むことを指します。アジャイルチームでは通常、各メンバーがそれぞれ異なるタスクに取り組むことが多いですが、スウォーミングでは全員が最も優先度の高いタスクに集中します。この様子を、ミツバチなどの虫が群れを成して1か所に集まる様子になぞらえて「Swarming(群がる)」と呼びます。
例えば、重大なバグの修正や重要な機能の実装など、チーム全体で取り組むべきタスクがある場合では、スウォーミングが非常に効果的です。全員が一つのタスクに集中することで、短期間で高品質な成果を出すことができます。
スウォーミングの有効性
スウォーミングの最大のメリットは、チームの生産性を劇的に向上させることです。具体的には以下の効果が期待できます。
・コンテキスト・スイッチの削減
通常、複数のタスクを同時に進めると、メンバーは頻繁にタスクを切り替える必要があります。これを「コンテキスト・スイッチ」と呼びますが、これが多いと生産性が低下します。
スウォーミングでは、一つのタスクに集中するため、コンテキスト・スイッチが減り、生産性が向上します。
この「コンテキスト・スイッチ」については、後ほど詳しくご説明します。
・チームの一体感の向上
全員が同じ目標に向かって協力することで、チームの一体感が高まります。これにより、コミュニケーションが円滑になり、問題解決もスムーズに進みます。
・問題解決のスピード向上
多様な視点を持つメンバーが一斉に問題に取り組むことで、迅速かつ効果的に問題を解決できます。特に複雑な問題や緊急の課題に対しては、スウォーミングが非常に有効です。
・メンバーの成長機会が増える
チーム全員が一つのタスクに取り組むことで、異なる得意分野を持つメンバーから多くを学び合う機会が増えます。これにより、個々のスキルアップにもつながります。
そもそも「コンテキスト・スイッチ」とは?
ここで、先ほど触れた「コンテキスト・スイッチ」について少し掘り下げてみましょう。
「コンテキスト・スイッチ」とは、異なるタスクやプロジェクト間で意識や注意を切り替えることを指します。
例えば、メールをチェックしている最中に電話がかかってきて、その後またメールに戻るといった状況です。このような切り替えが頻繁に発生すると、集中力が途切れ、生産性が低下します。
業務の兼務とコンテキスト・スイッチの関係
さらに現場でよくあるのが「業務の兼務」です。例えば、ある社員が複数の業務をかけ持ちして、複数プロジェクトに0.3ずつアサインされるようなケースです。できる人に業務が集中して、結果として一人何役も担当することも多いのではないでしょうか。
特にウォーターフォール的な業務の進め方では、体制図やWBSで細かく役割分担をするため、こうした兼務は“あるある”な状況です。
しかし、こうした状況では、必然的にコンテキスト・スイッチ(切り替え)の頻度も増加し、その結果、以下のような悪影響が出やすくなります。
- 集中力の低下
頻繁な切り替えで集中が途切れ、深い作業や集中が難しくなります。 - 生産性の低下
タスクに再び集中には時間がかかり効率が落ちます(切り替えに平均23分かかるという研究も)。 - ストレスの増加
切り替えの多さや優先順位の調整が心理的負担となり、バーンアウトのリスクもあります。 - 品質の低下
注意が分散しやすくなり、ミスやエラーが増え品質が低下するリスクがあります。
例えば、何かの作業に集中していて、次の作業に入るときに「えーっと、これ何だっけ??」などと、思い出すのに時間と頭を使うこと、ありませんでしょうか?私はよくあります(笑)。
人間である以上、これは避けられない「スイッチ」と考えられます。だからこそ、アジャイルでは、これを回避する仕組みとして、「スクラムチームは専任メンバーとする」という原則が大切にされています。
スウォーミングの実際の適用事例
では、実際にスウォーミングは効果があるのでしょうか?
例えば、ある医療現場での事例では、スウォーミングを導入したところ、チームのベロシティ(パフォーマンス)が200%も向上したという報告があります。このように、スウォーミングは業界を問わず、さまざまな場面で効果を発揮します。
スウォーミング活用のススメ
スウォーミングは、チームの生産性を高める強力な手法です。
また、生産性だけでなく、人材育成の観点からはマルチスキルの強化や、チームとしての一体感の醸成からモチベーション向上など、様々な効果をもたらします。チーム全員が一つのタスクに集中することで、コンテキスト・スイッチを極力減らし、迅速な問題解決やチームの一体感を実現できるのです。ぜひ、あなたのチームでもスウォーミングを試してみてはいかがでしょうか。
きっと、アジャイル・アプローチの楽しさと効果を実感できるはずです!

阿部 仁美 / 株式会社アイ・ラーニング
研修企画開発プロデューサー(専門分野:アジャイル&プロジェクトマネジメント)
Certified Scrum Master (CSM)®、Registered Scrum Master (RSM)®、Project Management Professional (PMP)®
日本アイ・ビー・エム株式会社にて、SW新製品開発/ITシステム開発のプロジェクト・マネジャー、プロジェクト・レビュー、および日本アイ・ビー・エム社全体のプロジェクト・マネジャーの育成・認定等に30年以上従事。情報処理推進機構(IPA)にて人材育成に携わった後、楽天モバイル株式会社にてPMO:新製品開発プロセス策定/強化に取り組む。2022年より現職。DXの構造における①ベンダー企業②官③事業会社の3つの視点の業務を経験。