新入社員IT研修におけるローコード開発実施事例:ベニックソリューション株式会社
2024.10.31育成事例Power Apps / Power Automateを活用した新入社員研修
DX推進に向け、DX人材を育成するプログラムを新入社員研修に組み込みたい
従来型の対面でのプログラミング研修からハイブリッド環境(リモート+オンサイト)でのローコード開発へと大きく転換。IT初学者が、Power Apps/Power Automate、Redmineを活用することにより、20日間の短期間でアルゴリズム基礎からアプリ開発までのカリキュラムを完遂。受講者はやりがいや達成感を得られた。
会社紹介
ベニックソリューション株式会社は、川崎重工業の本社情報システム部門から 20年前に分離独立し、一般のお客様も含めてソリューション系を展開している企業。従業員数は354人で、兵庫県を中心に東京や大阪にも事業所を構え、全国的に対応。
ビジネス領域
ITインフラ構築/運用ソリューションサービス、ビジネスソリューションサービス、各種システム開発、ITインフラ管理ソリューションサービスの事業を展開。
ご担当者紹介
ベニックソリューション株式会社
管理本部 副本部長 棚橋 謙治
※ 2023年4月1日時点のものです
新人社員研修を大きく変えることになった背景
アイ・ラーニング:
今年の新入社員研修をそれまでと大きく変えることになったというお話ですが、企画された背景を教えてください。
棚橋氏:
新入社員研修は2022年4月から新しいプログラムに変更したのですが、3年前から当社では「キャリアプラン面談制度」というものを開始していました。この制度は一般職の社員が10年後のキャリアビジョンを書いて、その姿のために今やりたいキャリアプランを示し、これを毎年上司と面談する制度です。上司から一方的に指示が下りるメンバーシップ型から、自身のなりたい姿を会社や部門が支援するジョブ型人財に変えていくことを目的としたものです。それに伴い、階層別研修内容を、一般から幹部まで3年かけて全面変更してきました。新入社員研修だけはまだ社員になりたてであることから、キャリア形成について検討できないこともあり、実施はしていませんが、2年目社員以上はこの制度も定着化してきており、実際にキャリアパスも行われています。
一方、同時期から川崎重工業ではDX化が活発化しており、IT子会社である当社の新入社員も、DX人財の基礎部分を何かしら組み込みたいと考えていました。
アイ・ラーニング:
後にDX化を新入社員研修に取り入れていく中で、カスタマーエクスペリエンスや従来型のプログラミング言語からローコード開発へと大きなチェンジをされたきっかけですね。
棚橋氏:
当社は、主に川崎重工グループのIT支援サービスを提供していますが、その中で、当社員が川崎重工業の一員となって、拠点LAN管理業務や小規模システム開発やプロジェクト参画などをするオンサイトサービス部門と、川崎重工グループ向けのITインフラ管理を24365体制で実施する運用サービス部門があり、これら2部門に、新入社員研修において、実際にエンドユーザー(カスタマー)へ提供して支援しているサービスの理解と、カスタマーとの会話と、カスタマーが望むことを理解してもらう実体験型の研修プログラムを実施しています。これら2つの研修は過去から実施していましたが、これら研修を「カスタマーエクスペリエンス研修」と名称変更し、2022年度から実施することにしました。
この研修以外に、過去まで、20日間ほどシステム開発研修があり、言語習得と簡単なプログラミング研修をしていましたが、いまいち達成感や成果がなく、この研修をどうするかが課題でした。
新入社員のITスキル差が大きいこともあり、PGM言語を覚えるためにはどうしても基礎から研修させないといけませんが、当社では20日間という制約があったため、PGM言語習得時間の後の開発時間が不足してしまい、結果として中途半端な開発テーマ(お題)にならざるを得ず、新入社員の達成感も得られませんでした。
ローコード開発研修へのチェンジ
アイ・ラーニング:
そこで初めての試みであるローコード開発研修という大きなチェンジをされたわけですが、どのような願い・目的・目標でしたか?
棚橋氏:
まず、プログラミング研修の一般的なプロセス(言語習得、アルゴリズム基礎、業務課題の把握、解決手段検討、仕様設計、開発、テスト、稼働)言語習得は最低限の日数かゼロにしたいと思っていました。当社の新入社員は毎年度文系と理系が混在しており、ITスキルを持たない新入社員もいましたので、言語習得よりも、アルゴリズムの理解と実践、システムが稼働した喜びを得られるようにしたいと思っていました。
ローコード開発への強いこだわりがあったわけではありません。「DX人財、開発、新人」、のようなキーワードでググっていましたが、その中で、アイ・ラーニング社のサイトを見つけ、声を掛けたのが始まりです。私自身がローコードやノーコードについての理解がなかったため、話を伺って、開発研修20日間で何が実現できるか、新入社員の頭に何を植えつけられるかの議論をしました。
また、新型コロナウィルスの影響で、今回の開発研修をオンサイトで行うか、全員オンラインで行うかの検討もしました。講師側のアイ・ラーニングが東京で、受講者の当社新入社員は兵庫県の当社事業所に全員集めて実施する、ハイブリッドで行うことになりました。受講者だけが社内で集合し講師は全員リモートという、かつてない環境で、不安や緊張の中での研修開始となりました。
研修カリキュラムのアウトライン
実際のカリキュラムのアウトラインを簡単にご紹介します。全体で20日間のスケジュールを、開発プロセス、プロジェクトマネジメントをテーマにした研修、ローコード/ノーコード開発など4つ程の内容に分けています。今回はMicrosoft Power Apps/Power Automateを採用し、インプットする研修の後に個人開発研修でアウトプットして、最後にチーム開発の研修に最も長い期間を充てました。
チーム開発演習の内容
架空ではありますが、「従業員向けのITサービス提供における業務効率化」がテーマでした。つまり、サービスデスク・ヘルプデスク業務のことです。新入社員は皆、事前に体験型プログラムで、ある程度はサービスデスク・ヘルプデスクの現場の雰囲気を感じとっていたと思います。そこを自分たちで改善していくシナリオで、12日間でプロジェクトに取り組んでもらいました。そして、12日間を経て、最後に完成したものを発表する流れでした。
開発研修では、何かしらのテーマ(業務課題)を与え、アプリケーションで課題解決するまで実施しないといけないのですが、今回、このテーマ選定は、当社の一事業でもある、サービスデスク(ヘルプデスク)の業務改善をアイ・ラーニングに検討いただいたのもあり、そのまま採用しました。ユーザからの問い合わせに対して、解決するまでの、連絡や管理の仕組みを作成していただきました。新入社員は皆、前述したカスタマーエクスペリエンス研修で、ある程度はサービスデスク・ヘルプデスクの現場の雰囲気を感じとっていたと思います。そこを自分たちで改善していくシナリオで開発してもらいました。
20日間のローコード開発研修の成果発表
アイ・ラーニング:
一番不安を感じていたのが、最後の後半にあったチーム開発演習だと思います。実際に発表を観た感想をお聞かせください。
棚橋氏:
新入社員研修発表の様子
7月1日に新入社員が配属されるため、その前日の6月末に全役員、所属する幹部、新入社員が配属される部門長、そしてメンターが集まり、緊張感が漂う中で報告会が行われました。私は、今回のフルオンラインでの開発研修内容はほとんど参加していなかったため、チームで検討した業務改善テーマも、完成したアプリケーションも、当日まで全く知りませんでした。このため、新入社員とは異なる不安と緊張がありました。
右に、実際に当時の新入社員が発表した画面の一部をお見せします。想像をはるかに超えたものでした。
社内の反応
当社の開発部門の部長は、「まさか実際に動くアプリケーションがこの短期間でできるとは思っていなかった」というコメントでした。4チームが各々違うアプリケーションを開発していたことも驚きで、多いチームは4~5つも作成していました。アプリケーションでの業務改善内容はもちろん気になる点が多いですが、未経験の人も含めた新入社員が短期間でここまでできるというのは、役員幹部皆が驚きでした。まだ当時社内では、Power Appsの開発者を増やそうとしていたところでもあり、新入社員に先を越された状態でもありました。
また役員は、「この研修で実際に動くアプリケーションを作った感想と、難しかったところは」と文系出身のチームリーダーに聞くと、「アプリケーションが動いた時は感動した、難しかったところは、メンバーの役割決定で、メンバーの長所を生かす編成にしたことで、自身はプログラムは苦手だが会話は得意なのでリーダーをすることに決めたが、決めたからには迷惑かけないように皆ががんばった」と、非常に嬉しい回答がありました。
研修実施の成果
アイ・ラーニング:
研修終了後に新入社員の皆さんにアンケートをとらせていただきましたが、研修に対するやりがいや達成感を非常に感じられていました。様々なお客様の新入社員研修アンケートをとっていますが、今回はその中でも研修に対する意欲が感じられるコメントが多く、私たちとしても嬉しい結果が得られたと思っています。
いくつかピックアップすると、最初は本当に不安な部分もあったが実習を受けてよかった、本当に学びが多い実習だったという声がありました。また、プロダクト経験とアプリ開発の両方の経験ができたなど、狙った通りというところではありますが、予想以上に前向きに取り組んでいただき成果を感じられました。一通り研修の内容を振り返り、成功したと思えますが、研修の成果についてと今後の展望についてお聞かせください。
棚橋氏:
今回はリモート講師と受講者が全員オンサイトというハイブリッド環境でローコード開発という新しいスタイルにチャレンジしましたが、今回の研修内容については事前に経営幹部と打診をしました。まだローコード開発というものが出始めの頃でもあり、皆中身が何なのかよくわからないのもあり、特に大きな質問も出ず実施になりました。恐らく、他社様も、新しい技術に対する取組は、似たような状況になるかと思います。言葉だけであれば流行りでもあるため、実施することはできると思います。
社内では全くローコード開発の研修体制は組めませんでしたので、外部にお願いするしかなかったのですが、ローコード開発を研修する機関の選定は少し時間がかかりました。当時のローコード研修は、ツールの使い方がメインの研修が多かったのですが、これは受講させるつもりはなかったため、アイ・ラーニングは、既に他社でローコード開発研修を実施した経験値があったことが一番の決め手となりました。
成果からの学び
アイ・ラーニング:
私たちとしては自信はもちろんありましたが、昨年までの研修スタイルと大きく変わるため、御社としては不安は多少あったかと思います。
棚橋氏:
そこに関しては、研修を企画する時に何度もオンラインで緻密にミーティングができたため、あまり心配はありませんでした。
もう一つお伝えすると、新入社員は年々変化しています。私には来年就職する次男がいることもあり、新入社員の世代が学習する方法が私たちの時代と大きく違うことを感じています。息子を見て気づいたことですが、パソコンで勉強するよりもスマートフォンを使ってYouTubeで授業を観たり、レポートをスマートフォンで入力してそれをパソコンでWordやPowerPointにコピー&ペーストして文書作成したり、学習するスピードが違います。彼らは本を買って読んで書いて、ということをあまりしません。能力が低いというわけではなく、むしろ、情報をまとめ上げているYouTubeなどを観て学習する癖がついているため、我々よりも調べ上げて知識を習得するスピードは圧倒的に早いと思います。おそらく私たちが企てるようなプランは今の世代には長すぎて、我々が20日間の研修にしたように、もっと凝縮しても良いのではないかと考えています。
アイ・ラーニング:
今回、従来型の積み上げ式で行うよりも大幅にショートカットしていて、例えば従来では時間をかけていたアルゴリズムの学習も短い期間で実施することになり心配はありました。ですが、結果的には皆さんついてこられたというのが実感として感じられました。
棚橋氏:
今回の新入社員研修の中でPower Appsで作ったアプリケーションのように、開発の研修については凝縮が非常に効果的であると感じました。しかし、PowerPointのスキルや文章を書くスキルについては旧来のレベルとあまり変わっていませんでした。開発は圧倒的なスピードで研修できましたが、文章を書く能力や相手に伝えやすくする表現、ポイントを掴む文章などはある程度経験値が必要なため、あまり短縮しても効果が出ないように感じました。ただ、アプリケーション開発については今回の手段は非常に有効だったと捉えています。
新しい世代の研修のかたち
棚橋氏:
当社でも現在進めているところですが、AppsやAutomateのスキルを持った社員が続々と出てくる中、新入社員はそこに先んじて入る形になるため、できるだけ新入社員などの若い世代から開発研修を実施していくことも英断は必要ですが有効だと思います。
アイ・ラーニング:
かえって先輩社員の方が、スキルを持った新入社員の存在が刺激になることはありますか?
棚橋氏:
立派な新人研修発表をしたので、先輩社員は配属時には刺激を感じたとは思います。ただ、中途半端な昨年度の開発研修との違いはありますので、新入社員側の気持ちの変化の方が大きいと思います。いずれにせよ、役員から先輩社員までどの階層にも今回の研修内容はマイナスになることはなかったと考えています。
新入社員研修のアンケートにもありましたが、研修がつまらない、面白みがない、新しさを感じない、といった声が一つもありませんでした。研修は、受講者を飽きさせないようなコンテンツ作りが非常に大切かと思っています。
研修は、講師が、一度研修プラン(コンテンツ)を作りあげると、それを次年度も繰り返して実施してしまいます。社外の同じ研修講師を何年か見てきたのでよくわかります。これを5年10年実施しつづけると、とんでもない時代遅れの研修コンテンツになります。受ける側からしたら、時代遅れのつまらない、ありきたりな、ボリューム圧倒型の、記憶に残らない研修になります。社内で研修を企画する側も、受講者がわざわざ忙しい時間を研修に使ってくれる意味や、わざわざ集合して面着して受講する意味をよく考えて、時代に合わせた、記憶に残す研修を、継続的に、少しずつ変化させていくべきだと思っています。そのためにも、新しいテクノロジーや、研修スタイルを、働き方に合わせて取り入れていきたいと考えています。
今回は新入社員にDX人財の基礎知識として、カスタマーエクスペリエンスとローコード開発を取り入れましたが、今後も、変化する若手人財の働き方に合わせた能力開発を企画し実施していきたいと考えています。
※ 本事例内容は2023年4月1日時点のものです