メタエンジニアの戯言 : i-Learning アイ・ラーニング

i-Learning 株式会社アイ・ラーニング



松林弘治のコラム メタエンジニアのの戯言

 2021年10月11日

vol.43 小さなデジタル化、小さなカイゼン

前開発スプリントの状況報告、次開発スプリントに向けての課題、発生した障害対応の報告、インフラのメンテナンス予定日時の共有、プロダクトオーナ側からの最新情報提供、その他各チーム間での情報共有、などなど。

毎週開催される、某定例ミーティング(オンライン)で飛び交うトピックの数々です。

新しいプロジェクトが追加で走り出すにあたり、今週は少し長めの打ち合わせとなりましたが、その中で開発者の1人から出てきた強い要望がありました。

「今後、要件や要求仕様などの資料を .xlsx ファイルで提供するのはやめて欲しい」

エンジニア側の立場からすると、実にまっとうで理にかなった要望だ、と強く感じます。

さて、このコラムを読まれている皆さんは、彼(や他のエンジニア)がなぜこのように強く要望するか、理由について想像でき共感できるでしょうか?

Excel が嫌いだから? もちろんそれもないとはいえませんが(笑)、今回の主たる理由ではありません。非エンジニアの多くの方々が日常的に Excel を使い業務を回されていることは承知していますし、それを急激に変えてほしい、というわけではないのです。

スプレッドシートは、要件や要求仕様といった書類の論理的構造を表現するのに最適とは思えない(スプレッドシートは本質的に紙の文書を作成するツールではない)から? もちろんそれもありますが、やはり今回の主たる理由ではありません。

ではなぜでしょうか。

「書類」(ドキュメント)が、メールやファイル共有、Slack などのコミュニケーションチャネルで飛び交い、混乱してしまうからです。似たようなファイル名の書類が送った側送られた側に複数存在し、どれが最新のものか直感的にわかりにくくなるからです。

また、現在では会議はオンライン開催が主となっていますが、画面共有でその .xlsx ファイルを見せられたところで、会議中に別ページを参照することもできません。画面共有中に変更が加えられた箇所も、会議が終わってまた新しい .xlsx を送ってもらうまでは参照できません。

Google Drive や OneDrive などのオンラインストレージに置いて共有する場合でも、ファイル名に日時をつけてさまざまなバージョンのファイルが大量に置かれていては、不便極まりありません。

せっかく、オンラインでひとつのファイルを共有し共同編集できるクラウドサービス、例えば Microsoft 365 (旧 Office 365) や Google Spreadsheet というものがあるのに、なぜそれを使わないのか?ということなのです。

それらを使うことで、「どれが最新か、変更履歴はどうなっているか、が、固定された単一のURLで参照可能」になります。たったこれだけのことで、どれだけ「心地よさ」「快適さ」「効率化」につながっているか、ぜひ皆さんにも体感しご理解いただきたいと願っています。

非エンジニア側からみても「コミュニケーションコストの改善」につながるわけですしね(お絵描きツールとしては多少不便さが生じるかもしれませんが)。

DX、クラウド、AIなどのお題目や、流行りのアプリやサービスなどは、キラキラして見えるパワーワード(あるいは「バズワード」)です。けれども、本当の意味でのデジタル化って、最新鋭のツールやアプリがあればそれで解決、とかではありません。

実際には「いかに効率的に活用できるか」だったり「情報を活用しやすくする業務手順はどうあるべきか」だったり、地に足がついたレベルでの「メタな思考の実践」のことなんだ、ということです。

結局、この「.xlsx ファイルでの要件/要求仕様の受け渡しはやめよう」という要望は、プロダクトオーナー側にも理解してもらえ、現在社内の One Drive 上の Excel ファイルをどうやって社外の開発者たちとオンライン共有 / 共同編集できるか、を調査・調整してくださっています。ありがたいことです。

些細で小さな「カイゼン」の積み重ねによってこそ、エンジニアも非エンジニアもデジタル化のメリットと恩恵を理解し、心地よく目先の開発やビジネスが進められるようになる。そしてそのはるか先に、本当の意味での「DX」がある。

こういった感覚が、日本中のビジネスパーソンに当たり前に広がればいいなぁ、と思ったエピソードでした。

松林 弘治:プロフィール
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。