メタエンジニアの戯言 : i-Learning アイ・ラーニング

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松林弘治のコラム メタエンジニアのの戯言

 2021年8月4日

vol.41 「個人」と「集団」の界面(2021年版)

2021年に開催されている東京オリンピック2020。なんだかんだありましたが、実際に多くのアスリートがプレーする姿を画面越しに拝見し、多くの人の心を動かしています。さっそく日本人選手によるメダルラッシュで、メディアも我々視聴者も大いに盛り上がっているように思えます。

わたし個人的には、こういったスポーツの祭典を楽しむポイントは、主に2つあります。ひとつは、日本人選手に限らず、世界中のさまざまな国や選手のプレーを通じて、世界のあまり知らない国や地域について知ることができること。そしてもうひとつは、オリンピックでないとなかなか陽の目が当たりにくい、マイナースポーツを知る絶好の機会であること、です。

コンビニの入り口にストックされているスポーツ新聞の見出しでは、日本人選手の活躍がカラフルに踊ります。テレビ中継ではもちろん、日本人選手の登場する競技が中心に放映されます。

けれどもそれ以外に、メダルが有力視されていない日本人選手が出場する競技や、そもそも日本人が出場していない競技も、たくさんあるはずです。それらを知ったり観たりする方法が非常に限られていることが、とても残念です。

今回の東京オリンピックでは、「民放オリンピック公式動画サイト gorin.jp」というものがありますから、以前よりは多くの競技、多くの選手を目にする機会が増えています。ですが、例えばテニスが大好きな自分にとっては「錦織くんや大坂さん、土井さん、マクラクランさんの試合以外も観たいなぁ」「モンフィスやチチパスやメドベージェフの試合も観たいなぁ」と思ってしまいました(笑)

そんな中、堀米さんが金メダルを獲ったスケートボード・ストリートは、オリンピックってそもそも何なんだろう、と改めて考えさせられる良い機会になりました。

2019年にNHK BS1で放送された番組「 スポーツ×ヒューマン『唯一無二の9クラブを スケートボード・堀米雄斗』」を何度も観ていたため、このスポーツの出自、アメリカのプロリーグでの盛り上がり、各国の有力選手の人となり、などなどを事前に知っていたことも大きかったのですが、「いわゆる『オリンピック』っぽさ」から隅々まで逸脱したこの競技は、東京オリンピック内でも異彩を放つものでした。まさにパンクです。

試技に成功しても、失敗しても、みんな笑顔を絶やさず、試技ごとに他の選手たちと談笑したり、励ましあったり。メダルがとれなくても参加できたことを喜び、日本語で「アリガトー!」とポーズを決めたり。

ただただ、カッコいい技を決めたい、スケボーで滑るのが好きで好きでたまらない、そういった純粋で素朴なマインドがほぼ全選手に溢れ、解説の瀬尻さん曰く「鬼ヤバい」「ゴン攻め」「パネェ」技の数々に息づいている。本当にステキでした。

改めて、現在の「オリンピック」って、なんなんだろう、と。

「オリンピック」=「国別メダル数争い」、これはまごうことなき事実であり、競技の結果として表れてくる客観的データです。自分の国の選手、あるいは自分に縁のある国の選手を応援したくなるのだって自然なことです。

けれども一方で、「国別対抗戦」「メダル数競争」だけに矮小化してしまうのは、とてももったいないなぁ、と思ってしまう醒めた自分がいます。せっかくなんだから、いろんなスポーツについて、そして世界中のいろんな国や地域について、少しでも多く知りたい、理解したい、という気持ちが先にたってしまいます。

「○○するためのたった一つの△△」といった分かりやすいタイトルの書籍やweb記事がバズる昨今、やっぱり「いろいろ考えるのは面倒くせぇんだよ」「分かりやすいのが一番」という意見が大勢を占めるのは、やむを得ないことなんでしょうか。

仕事においてはどうでしょう。売り上げ、利益、キャッシュフロー、アクティブユーザ数、人気度、売り上げランキング、そういった客観的な指標である各種 KPI は確かに大事です。その一方で、その「分かりやすさ」「シンプルさ」のみに目がいっていないか。カスタマーの集合体である「大衆」の側面のみに囚われがちになり、個々のユーザのパーソナルな体験やエピソード、物語、満足度を無視しがちになっていないか。分かりにくいからこそ、そこに本質があり、それらが網の目のように絡まり合ったものがたまたま「大衆」という姿で見えているだけなんだ、ということを忘れていないか。

あぁ、前回「次回のネタはできるだけ新しい切り口で」と書いたのに、いま過去原稿をあたってみたら、当コラム13回目の「『個人』と『集団』の界面」に似通ったトピックとなってしまいました… 反省。

とまぁ、そんなことをつらつらと考えながら、フェデラーやナダル不在のオリンピックで、ジョコビッチが年間ゴールデンスラムへ向けて着実に勝利を重ねている姿を、スマホアプリでスコアだけ恐々と追っている、ナダル推しのテニス馬鹿なのでありました。
(そしてジョコビッチ、まさかまさかのメダルなしに終わってしまいました…)

松林 弘治 / リズマニング代表
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。