メタエンジニアの戯言 : i-Learning アイ・ラーニング

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松林弘治のコラム メタエンジニアのの戯言

 2021年6月9日

vol.39 ソフトウェアエンジニアと車のメカニックの共通点

このコラムも気がつけば39本目になりましたが、2019年11月に公開した20本目にて「17年落ちの中古車を買った際のエピソード」を題材にしたことがありました。

さて今回は、現在19年落ちとなったそのクルマのメンテナンスのお話です。

整備士の資格を持つ友人にお願いし、4月に無事車検も通し終わりました。次は、古い欧州車のお決まりトラブル、天井の内張りの垂れさがりの修理です。その友人と一緒に脱着・張り替えなどの作業を行いました。実際には、その方がメインで、私はお手伝いだけですが。

まず私が行ったのは、整備マニュアルの確認です。アメリカの整備業者が使っている2冊セットの分厚い整備マニュアルを読み解き、各種パーツの脱着・取付作業の概要についてイメージをつかんでおきます。

その次は、DIYメンテナンスが盛んな欧米のオーナーによるYouTube動画探しです。ほぼ同じ車種で同じ作業をされている方が過去にきっといるはず、という見込みは的中。サンルーフつき同車種でのルーフライナー(天井の生地が貼られている板状のもの)脱着のノウハウを予習しました。

ここまでの事前情報を友人にも共有し、必要な部品などを調達後、いざ作業開始です。1回目は4月上旬(ルーフライナー脱着と劣化した生地はがし)、2回目は5月中旬(新しい生地の貼り付けとルーフライナー取付)、いろんな予想しないトラブルも楽しみつつ、無事作業が完了しました。

今回のコラムでお伝えしたいのはここからです。

その友人は、フリーの自動車整備士とプロのミュージシャンとの二足の草鞋を履くスーパーマンです。フリーなので、ディーラー勤務の整備士のように、常に同じメーカーの似たような車種ばかりを整備しているわけではありません。なので、国産・輸入を問わずあらゆる乗用車・商用車・トラックと、どんなクルマでもお手の物です。

助手のようにその方を手伝いながら、地味な作業を進めていると、隅から隅まで本当に興味深いのです。どんなクルマのどんなトラブルであっても、過去のあらゆる整備経験で得た脳内の引き出しから知見を組み合わせて問題を特定します。また、専用工具がなくても、手元の工具の組み合わせで同等の工具を作り出してしまいます。天井張り替え作業も、過去にたくさんやったとはおっしゃってましたが、最後にやったのは10年前だそうです。だけど、最後には無事作業完了しました。

そうなんです。「優秀なソフトウェアエンジニア」の世界と全く同様の光景なのです。1年前の誰かさんが書いたコード群を読み解き、どこが問題かを特定し、修正する(必要に応じて「リファクタリング」も行う)。ちょうどいい感じのコマンドがなくても、複数のコマンドを組み合わせてオリジナルのカスタムコマンド(シェルスクリプト)を作り上げる。例えばそんなケースと一緒なのです。

自動車整備とソフトウェア開発、分野は異なれども、「エンジニア」(技術者)という共通点から、やはりその思考回路や問題対処方法論のようなものは、非常に共通しているものだ、そんなことを改めて確認でき、知的刺激を大いに受けました。

さて、作業を分担して行っている際、その友人からこんなことを言われました。「やっぱりソフトウェアエンジニアも独り言が多いの?いやね、今『ここを外すためにはこれを先に外さなければいけなくて、そのためには可能性がAとBとあって…』と独り言を言ってたから。整備士さんも独り言が多いんだよね~、作業中の。」

独り言、カッコ良く(笑)言えば「Thinking Out Loud」(考えを整理するためにあえて口にだし言語化する作業)ですが、これも技術者稼業に共通する生態なのかなぁ、と気付かされたのでした。

このコラムを書いている今は、エンジン冷却系統の軽微なトラブルを治すべく準備中です。わたし自身は整備士ではありませんが、こうやって別の分野のエンジニアの世界を間近で見ながら体験できることが、いつも本当に楽しくてしかたありません。おかげで、クルマの細かい仕組みについても相当勉強になりますし。

ビジネスの世界でも同様に、ちょっと視点を変えてみると、ものすごく類似して参考になるような別の世界があるはずです。皆さんもぜひ「示唆に富む別世界」探しを楽しんでください。

松林 弘治:プロフィール
大阪大学大学院基礎工学研究科博士前期過程修了、博士後期課程中退。龍谷大学理工学部助手、レッドハット、ヴァインカーブを経て2014年12月より現職。コンサルティング、カスタムシステムの開発・構築、オープンソースに関する研究開発、書籍・原稿の執筆などを行う。Vine Linuxの開発団体Project Vine 副代表(2001年〜)。写真アプリ「インスタグラム」の日本語化に貢献。鮮文大学グローバルソフトウェア学科客員教授、株式会社アーテックの社外技術顧問を歴任。デジタルハリウッド大学院講義のゲスト講師も務める。著書に「子どもを億万長者にしたければプログラミングの基礎を教えなさい」(KADOKAWA)、「プログラミングは最強のビジネススキルである」(KADOKAWA)、「シン・デジタル教育」(かんき出版)など多数。