アジャイル開発とは?開発手法やメリットをご紹介
2024.11.25IT , アジャイル
IoTやAIなどのIT技術が急速に進化している昨今において、注目されている「アジャイル開発」。かつてはソフトウェア開発に関する手法でしたが、今やビジネスシーンや組織論などにも使われるようになりました。
アジャイル開発は従来よりも柔軟に開発が行えるように考えられており、スピード感を保ちながらユーザーの要望に対応したいプロジェクトには特に採用したい手法です。
この記事では、アジャイル開発について、その手法やメリット・デメリットなどをご紹介します。
アジャイル開発とは
アジャイル(agile)は、「素早い」「機敏な」という意味を持つ単語で、アジャイル開発は、小さな単位で開発を進める考え方やその方法論のことです。アジャイル開発では基本的に、少人数のチームに分かれて、短期間の開発を繰り返すという方法を採ります。もともとソフトウェア開発における手法でしたが、現在アジャイルはビジネスや組織の在り方、製品、サービスなどの開発においても使われるフレームワークとなりました。
この記事では、IT開発におけるアジャイル開発についてご紹介していきます。
従来の「ウォーターフォールモデル」とは
アジャイル開発とよく対比されるのが、「ウォーターフォール開発」です。
ウォーターフォール開発とは、順番に1つひとつの開発工程を完了させてから次の工程へ進むシステム開発の手法です。一例として、以下の開発工程等があります。
- 要件定義
- 基本設計
- 詳細設計
- 開発(実装)
- 単体テスト
- 結合テスト
- 総合テスト
- 導入
- 保守・運用
基本的には各工程を完了させてから次の工程に移るという流れになるため、プロジェクトの全体像が見えやすく、スケジュール管理やコスト管理がしやすくなることがウォーターフォールモデルのメリットです。
一方、ウォーターフォールモデルのデメリットは、クライアントの要望の変更に対して柔軟に対応しにくいことです。要件定義の段階である程度仕様が決定しているため、後工程になるほど仕様の変更がしにくく、変更を行ったとしても設計ミスとなる可能性があります。また仕様変更時は手戻りが発生して工数が増えることもあります。
こうしたことから、アジャイルを「適応型」、ウォーターフォールを「予測型」、と呼ぶこともあります。
アジャイル開発の手法

アジャイル開発は、仕様変更に柔軟に対応しにくいウォーターフォールモデルのデメリットを解消すべく生まれた手法です。アジャイル開発の進め方に厳密なルールはなく、「これが絶対的に正しい」といえるアジャイル開発はありません。基本的には、いくつか存在するアジャイル開発の方式から組織やプロジェクトに合ったやり方を選択して組み合わせ、カスタマイズしていくことになります。
ここでは主なアジャイル開発の手法(実践形態)と、それぞれのメリット・デメリットを紹介します。
スクラム
スクラムは、「スプリント」という作業期間を単位とし、「イテレーション(反復)」を繰り返す開発プロセスです。「プロダクトバックログ」という要求リストをもとに、スプリントの中で、「スプリントプランニング」「デイリースクラム」「スプリントレビュー」「スプリントレトロスペクティブ(ふりかえり)」という作業の流れに沿って開発を行います。ただ淡々と開発するのではなく、スクラムチーム内で日々会話を交わし、コミュニケーションをとりながらプロジェクトを進めていくことが特徴です。
スクラムは作業の効率化や仕様変更への柔軟な対応を行えるメリットがあります。一方で、高い技術力とコミュニケーション能力を有する人材が必要であり、チーム内で連携が取れないチームには向きません。
エクストリームプログラミング(XP)
エクストリームプログラミング(XP:eXtreme Programming)は5つの指針と5つのルール、12のプラクティス(方法)によって成り立つ方式です。1つのイテレーション(反復)を1~2週間程度で行い、開発チームと密にコミュニケーションをとって、ミスが再発しないような取り組みを行います。プラクティスには、テスト後にも実装を行う「テスト駆動開発」や2人1組で開発を行う「ペアプログラミング」などがあります。
XPもスクラムと同じく、柔軟性の高いシステム開発が可能であることがメリットです。一方で開発者に高い技術が求められる点、作業全体が把握しにくい点がデメリットとなります。
ユーザー機能駆動開発(FDD)
ユーザー機能駆動開発(FDD:Feature Driven Development)とは、ユーザーにとって価値のある機能を中心に開発を進める方式です。ユーザーが必要とする機能を重要度ごとに整理した「フィーチャーリスト」をもとに、開発を進めていきます。フィーチャー駆動開発とも呼ばれます。
FDDは手戻りを抑えやすいうえに仕様変更にも強く、大規模開発に向いていることがメリットです。デメリットは、ユーザーとのコミュニケーションを密にする必要があるため、他の方法よりもコミュニケーションコストが高くなる可能性があることです。
カンバン
「カンバン方式」は、もともとはトヨタの生産方式の一部ですが、現在はアジャイル開発をはじめさまざまな分野で利用されています。アジャイル開発における「カンバン」は、「カンバンボード」を用いて、タスクと呼ばれる作業を列ごとに分類し、作業を可視化して追跡していくタスク管理の手法です。
カンバンはプロジェクトの進捗管理がしやすく、仕様変更にも柔軟に対応できます。一方でタスク間の関係性が把握しにくく、長期的なプロジェクトには向きません。
適応型ソフトウェア開発(ASD)
適応型ソフトウェア開発(ASD:Adaptive Software Development)は、継続的な仕様の変化に適応していくことを重視した手法です。「作ってみて初めてわかったことに適応していく」というイメージで、「思索」「協調」「学習」の3段階のイテレーションを繰り返し、成果物の品質を高めながら開発を進めていきます。
ASDは、複雑で状況の変化が激しいプロジェクトに向いている点がメリットです。ただ他の手法と同様に、スケジュール管理が難しく、開発の方向性がブレる可能性もあります。
リーンソフトウェア開発(LSD)
「リーン」とは製造業における、「リーン生産方式」のことです。このリーン生産方式では、無駄を省いて生産性向上を図ることを目的としています。この目的と考え方をソフトウェア開発に適用した方法論が、リーンソフトウェア開発(LSD:Lean Software Development)です。LSDは「無駄を省く」「学習効果を高める」などの7つの原則と、「イテレーション」「フィードバック」など具体的な22の方法論から成ります。
LSDは無駄をなくし、顧客の要望通りのシステムを作れることがメリットです。反面フィードバックが多いため、コミュニケーションコストが増加する可能性があることがデメリットとなります。
アジャイル開発のメリット
ここでアジャイル開発全般に共通するメリットのいくつかを挙げます。
ニーズに合わせた仕様変更が可能
アジャイル開発は、開発途中の仕様変更はじめ様々な変更にも比較的柔軟に対応することが可能、という側面があります。そもそもアジャイル開発の考え方自体が、ウォーターフォールモデルの課題である「開発途中の仕様変更」に対応することを想定して生まれており、ウォーターフォールモデルと異なる点といえます。
開発スピードが比較的速い
アジャイル開発は、ウォーターフォールモデルのように仕様を上流工程で決定するわけではないため、次工程の作業者へ連携するための多量のドキュメントを作成する必要がありません。ドキュメント作成にかける時間を一定程度省略でき、なおかつ仕様変更等の変更が発生しても手戻りの工数はウォーターフォールモデルよりも少なくなります。少しずつ、小さな単位で検証していくため、全てを完了した時点で初めて終了を実感するウォーターフォールより、結果的に手戻り少なくスピードも速く感じます。
工数・コストの削減につながる
大規模プロジェクトの場合には、特に下流工程における少しの仕様変更が手戻りとなり、全体に大きく影響しコストが増加するのが課題となります。一方で、アジャイル開発は小さい開発単位、少人数、短期間での開発を繰り返すため、変更対応にかかる工数も少なくなり、コスト削減につながります。
アジャイル開発のデメリット・注意点
アジャイル開発のデメリットと注意点を挙げます。
全体のスケジュール・進捗管理が難しい
アジャイル開発は、デイリースタンドアップ・ミーティングという日々の開発チームによるミーティングがあり、個別の進捗状況を的確に全員で共有できることがメリットです。しかし全体のスケジュールや進捗を管理しようとするのは難しいとされます。なぜなら、仕様は開発途中の優先順位の見直し等により変更に柔軟に対応いくものであるため、変更が続けば全体のリリース・スケジュール自体も変更される可能性がある手法だからです。
方向性がブレやすい
アジャイル開発は小さな変更に適応しやすい分、システムの全体像が見えないことが難点です。逆に、開始段階では全体が見えない開発対象である場合に適切な手法です。個別の開発では方向性をもって作業が行えますが、全体設計の当初の目的や方向性からすると、結果として異なる結果に到達することがあるため、適切にアジャイルの本質を理解して進めないと、方向性を見失うリスクがあります。
プロジェクトのタイプによっては不向き
アジャイル開発は、変更に柔軟に対応することを第一の目的としており、そのためには開発メンバーが一定以上のスキルを持ち、なおかつ日々コミュニケーションを行うことが不可欠です。したがってプロジェクトのタイプによっては不向きな場合もあります。
アジャイル開発に不向きなケースは、たとえば納期を厳守しなければならない場合や、作業環境などの理由から十分なコミュニケーションの機会を作れない場合、アジャイル開発経験者がいない、あるいはアジャイルのマインドセットが不十分な場合などです。
アジャイル開発が注目されている背景

アジャイル開発が注目されている背景には、市場が目まぐるしく変化していること、また組織が変化するニーズにスピーディかつ柔軟な対応が求められていることが挙げられます。
急速に変化するニーズに対応するため
ウォーターフォールモデルの場合、開発が数年にわたると、開発が終わる頃にはデジタル市場に新たな技術が台頭して、相対的に「システムが古い」と見なされる可能性があります。システムが陳腐化しないためにはクライアントの要求や技術革新などに対応することが必要で、そのためにアジャイル開発が注目されているのです。
開発からリリースまでに生じる無駄を最小限に留めるため
アジャイル開発の目的のひとつは、「無駄を省くこと」です。開発中にスケジュールを見直したり、開発の優先度を変更したりして、無駄を省きながら一定の品質を保ち、納期を遵守することも可能です。
アジャイル開発の将来性
現在はIoTやAI、ロボット、ブロックチェーンなどのテクノロジーが急速に発展しており、政府もDX推進を行っています。しかし新しい技術でどのようなことが実現できるか、予測は困難です。価値の創造を実現していくために、小さなサイクルで開発を行うアジャイル開発に期待が寄せられています。
まとめ
今回はアジャイル開発のメリット・デメリットや、手法を中心にご紹介しました。アジャイル開発の成功には、高いスキルを持ったデジタル人材が必要です。アジャイル開発を考えている組織は、研修やトレーニングなど人材育成に関する取り組みも検討してみてはいかがでしょうか。
アイ・ラーニングでは、アジャイル人材やプロジェクトマネジメントに関して、下記のスキル研修をご提供しています。ご興味がある方はぜひお問い合わせください。
アジャイル研修
https://www.i-learning.jp/service/projectmngmnt/topics/agile.html
プロジェクトマネジメント研修
https://www.i-learning.jp/service/projectmngmnt.html
アイ・ラーニングコラム編集部