インストラクターの独り言 : i-Learning アイ・ラーニング

i-Learning 株式会社アイ・ラーニング

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インストラクターの独り言

 2022年5月23日

「DX」は人事が主役

DXという言葉がバズワードとなって久しい。みなさまの会社や部門でもどのようにDXを進めて行くか、そのための人財育成はどうするか、を検討・実施されていることと思う。
一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の 「企業IT動向調査報告書2022」によると、「デジタルツール(IoTやAI等)による業務オペレーションの高度化」には77%の企業が取り組みを始めて効果が出つつあるものの、本来のDXである「お客様への新たな価値の創造」や「ビジネスプロセスの標準化や刷新」への取り組みは67%という状況だ。
「現実」のDXをいう視点で見ると、まず自社の業務をデジタルテクノロジーで変革することが効果を上げるDXとも言える。

このアプローチの始点は「業務」つまり「仕事」である。どの業務を誰がどのように実行するか。これを考えるのはまさに人事の仕事である。業務変革のDXは人事が主役と言っても過言ではない。

AIやIoTも「人財」

人事として組織の適材適所や人財育成を検討する際には「発揮能力」を考える。発揮能力とは、特定の業務を遂行する能力である。文章としては「~を知っている」ではなく「~ができる」と表現される。
営業活動を例にとると、「お客様を理解できる」「お客様の課題を想定した仮説を設定できる」「お客様の課題を明確にできる」「お客様の課題を解決する方法を策定できる」「お客様に最適な解決策を説明し納得してもらうことができる」といったものが発揮能力である。
そして、これらの発揮能力を明確にして網羅したものが「タスクリスト」である。 これのタスクリストに対して、現有の人財の能力を把握して配置することで適材適所を図るとともに、不足している能力を高めるための育成計画や採用計画を立てる。
これらの人事の仕事はこれまでも実施してこられたと思うが、ここにデジタルテクノロジー、すなわちAIやIoTが人財として加わることで「DX」を推進することができる。つまり、AIやIoTを自社の人財として考えるということである。

AIやIoTができること

あえて、AIやIoT「で」ではなくAIやIoT「が」と書いたのは、既にAIやIoTなどのデジタルテクノロジーが多くの人の仕事を代替できるようになってきたからだ。
2014年、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らによって発表された 『雇用の未来ーコンピューター化によって仕事は失われるのか』が世間に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しいが、テクノロジーの進化によって必ずしも人がやらなくてもすむ業務は明らかにその範囲を広げている。
例えば、単なる電話機ではない無人の受付システムは既に多くの企業が提供しており、AIを使った契約書チェックサービスも多くの企業が提供している。また、熟練者が長年の経験で得た知見をAIで可視化して後進の育成に役立てる試みなど、複雑かつ高度な業務にもその応用範囲は広がっている。今やAIやIoTの活用は「できるかできないか」ではなく「費用対効果が人に勝っているか」という時代に来ている。

これからのDXの方向性と人事の役割

こう考えてくると、これからの人事の仕事として、デジタルテクノロジーを人財と考えて活用することは、避けて通れないと言える。そしてそれは早く手を付けたものが勝ち抜ける、早い者勝ちの競争だということだ。
ではこの状況にどのように対応したらよいのであろうか。
ここで3つのステップを提示したい

1.デジタルテクノロジーのリテラシーを高める

人事を含めて全社について言えることではあるが、デジタルテクノロジーのリテラシーは必須スキルとして全員が身につけるべきものである。
しくみの詳細ではなく、どのようなもので何ができるか、を押さえておく必要がある。 そして、理論よりもDX事例を多く見ておくことが役に立つ。

2.タスクを明確にする

AIやIoTの活用を考える上で、この業務を遂行するためには何ができなければならないか。つまり発揮能力は何か、を明確にしておくことである。
これがないと、会社としてどのような能力を高めればよいのか、どのような能力を持った人財を採用すればよいのか、だれをどの業務に就かせるのがよいのか、がわからない。詳細なプロセスでなくてもよいので、全社にわたってこのタスクリストを作成することは、AIやIoTの活用に限らず重要である。

3.デジタルテクノロジーで代替・補完できるタスクを探す

最後に実施するのは、タスク全体を眺めて、これはデジタルテクノロジーで代替・補完できそうだ、というものを探していくことである。
これには、DX事例が役に立つ。このタスクはあの事例が転用できるのではないか?と気づけばしめたものだ。 実際にはPoC(概念実証)を行わないと本当に効果が出るかどうかはわからないので、人事としては案を探すことが重要な役割となる。あとはIT部門やDX推進部門と協業することになる。

DXの推進と人事の関わりを見てきたが、全社の業務を見渡せる人事の役割は非常に大きい。
ぜひ、人事部門発のDXを推進していただきたい。

川野 洋 (株式会社アイ・ラーニング デジタルトランスフォーメーション事業部 人財育成コンサルタント)
IBMで中小型システムのシステムエンジニアを担当。その後ビジネスパートナー様向けの研修に携わり、人財育成の世界に。現在はDX関連研修、ヒューマン研修、人財育成関連研修などの企画実施を担当。iCD協会認証iCDアドバイザー、JDLA Deep Learning for GENERAL。趣味はシュノーケリングとスキー。ソーシャルスタイルはドライバー。