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iLL連載コラム:ATDコンファレンスから見たラーニングの潮流


第三回:ラーニングの民主化

今年のATDの目玉は、オバマ元大統領の基調講演でした。講演というよりも、ソファに座りながらのATD会長トニー・ビンガムとの対談でした。オバマさんはリラックスした静かな語り口でしたが、とても説得力のある内容でした。

人の強みを引き出す

印象的だったのは“意思決定”に関する話です。「大統領の判断を必要とする案件は、すべて複雑で一筋縄ではいかず、どう決定しても賛否両論が起きるものばかりである。決定をするための議論は閣僚級のスタッフに、若手も含めた専門家を交えて行うが、自分が常に心がけたのは、参加している一人一人がベストの意見が言えるように、議論の場を作ること、つまりそれぞれの参加者のベストの意見を引き出すことだった。」とのことでした。そして会場に向けて、「それは皆さんがやっていることと同じです。教育も人の強みを引き出すことが仕事ですよね。」と呼びかけました。

さらに「民主主義は自動的に進歩するものではなく、日々一人ひとりが自分の責任を持って、より良い社会にするための選択をしていくことで必然になるのだ。」という言葉もありました。情報システムの進化やデジタル化によって、様々な情報にアクセスできるようになるなど、情報の民主化は進んでいるわけですが、それだけでは民主主義は進歩しません。むしろ個人情報が流出したり、他人の意図的な情報操作に惑わされたり、フェイク・ニュースに踊らされたりするリスクが増え、共通の事実に基づいて意思決定を行うという民主主義の前提が崩れていくことになります。

情報システムとラーニングの民主化

この情報の民主化に合わせて考えなければならないのが、ラーニングの民主化です。どういうことなのか、次のチャートを見ながら考えてみたいと思います。

情報システムの歴史を振り返ってみると、大型汎用機の時代、サーバ・クライアントの時代、LANからインターネットのネット時代、そしてIoT, AIによるデジタル・トランスフォーメーションの時代と移り変わってきました。情報システムも人間が作るものなので、その形態の変化は人間の願望が反映されています。それはまさに民主主義の歴史が示してきたように、自分のことは自分で決める、指示命令ではなく自律的な判断と意思決定ができる方向に向かいます。最初は大型コンピュータのCPUが唯一の意思決定機関で、研修もトップの人財育成が中心でした。クライアント・サーバの時代になるとサーバが専門分野ごとに分かれるとともに、専門職の養成が必要になりました。

さらに1970年代から80年代にかけて、ダウンサイジングという掛け声とともに、組織のフラット化と意思決定の権限を下の階層に移譲していく組織の変革がなされました。システムの形態もシステム上の役割ごとにサーバを立てる専門化と、クライアント・マシンとの連携によって処理を進めるLANなどネットワーク・セントリックと言われる処理の形になりました。これに応じてラーニングも専門家を育成する専門職研修が求められました。意思決定の主体が専門家に移っていったわけです。

そして90年代後半から2010年にかけて、インターネットの急速な普及と無線技術の進歩に相まって、スマホやタブレットの爆発的な拡大により、ユーザー・インターフェースが重要になり、意思決定の主体が個人になってきました。研修のテーマも「ラーナー・センタード・ラーニング」と言われ、いかにパーソナライズをして、個人の状況にあった学習を提供していくかが、課題となりました。

さらに今やIoT, AIなどを駆使して、全ての事象がデジタルで表現される、デジタル・トランスフォーメーションの時代です。意識しなくても現実の動きが自動的にデジタル化され、情報として加工される時代です。何もしなければ周りのものやネットワークが、自動的に様々なことを処理してくれる時代になります。つまりモノが決定をしているのです。車の自動運転やスマート家電と言われる製品はもう動き始めていますね。自動化の機能と範囲は日々アップデートされていきます。
このような自動化社会に人間が共存して行くためには、私たちもこれまで以上に意識的に学び続けることが必要です。より良い決定をするために、モノの自動決定を鵜呑みにしないために、判断力を鍛える必要があります。そして全てのエクスペリエンスがラーニングです。

学ぶ人がエージェントに

アメリカの人財コンサルタントのパトリシア・マクラガンはこのような時代に必要なのは、ラーナー・アビリティであるといい、「スマート・ラーニング」を提唱しています。彼女によると、これまでの学習理論は学ぶ人を学習の「オブジェクト(観察の対象)」として考えてきたが、今後は学ぶ人が「エージェント(自律して行動する存在)」として考える必要があると説いています。

次回はこの「スマート・ラーニング」について考えてみましょう。

アイ・ラーニングラボ 片岡 久